第十三話:冒険者としての日々・Ⅱ


「帰ったぞ! 天才たる俺様たちの帰還だ! 出迎えるがいい!」


「帰還である」


「もうちょっと胸を張り、そして宣言するのだ。この俺様の従者であるならば!」


「帰還である!!」


「いや、何をしているんですか……」


 ギルドの建物に入るなり叫んだディアルドに対して馴染みの受付嬢の突っ込みが入った。

 ちなみにファーヴニルゥはディアルドの隣で発声の練習をしている。


「なにファーヴニルゥには従者としていろいろと教えることが多くてな」


「関係あるとは思えないですけど……変なことを教えるのはやめてくださいね? それはそれとして、お帰りなさいディーさんにファーヴニルゥさん」


黒犬ブラック・ドッグ討伐依頼の達成報告、それと帰りに灰狼グレイ・ウルフ大猪ビッグ・ボアを数匹見つけたので倒しておいた。素材の買取査定も頼む」


「おお、早いですね。最近、ディーさんたちが討伐依頼を消化してくれてギルドとしてはとても助かってますよ。早くて正確ですし」


「ふーはっはァ! そうであろう、そうであろう。その称賛の声は良し、とはいえそれはファーヴニルゥに向けられるべきだろう。今日の黒犬ブラック・ドッグの群れの討伐もあっさりとこなしたからな。流石は天才である俺様の従者だ」


「へぇ、凄いんですね。やっぱり魔導士となると違うものなんですね」


「それほどでもないよ、あの程度僕の敵じゃないからね」


 ディアルドとファーヴニルゥの言葉に何かを考えるような仕草をしつつ、受付嬢は口を開いた。


「うーん、やっぱり討伐専門に専念とかしません?」


「まーた、その話か……何度も言っているだろうがそれ一本に絞るつもりはないぞ。程々だ、程々。どちらかと言えばやはり俺は遺跡探索の方が性にあっている。どかんと儲けられるしな」


「ああ、そういえばディーさんは……うー、やっぱ難しいですかね?」


「というかどうしてそんなに俺様たちを誘うんだ? 討伐専門の冒険者なんて腐るほどいるだろう?」


「そりゃ、魔導士のコンビなんてのは早々居るもんじゃないですしねー」


「……そうなのかい?」


 受付嬢の言葉にファーヴニルゥが口を挟んだ。

 彼女は魔法全盛の時代に生きていた存在、だから不思議なのだろう。


「そりゃ、そうですよ。基本的に魔法が使えるってことは生まれや血が高貴な方々ですから、基本的には公職なりなんなり社会的に地位の高い仕事に就くというか……」


「例えば?」


「王宮やら軍属やら騎士やら……あとは貴族のお抱えか。ともかくそんなところだな。まあ、俺様は誰の下にも就くつもりはないないがな。何故なら――」


「俺様は天才だから、ですか?」


「……よくわかったな」


「ワンパターンなんですよ。あとはまあ、魔導士の就職先と言えば……魔導協会ネフレイン、ですかね」


魔導協会ネフレイン……」


「ファーヴニルゥさんも知ってるでしょうけど、王国の建国時から存在する魔導を研究する組織で……あっ、そういえば聞き忘れてたんですけどファーヴニルゥさんの魔導階級って――」


「すまないな、まだ受けていないんだ。だから今は無位ということになる。まあ、私も似たようなものだがな。俺様の場合は失効だけど」


「あれ、そうなんですか!? 私はてっきり――」


 受付嬢が言葉を続けようとした瞬間、隣のカウンターで「ドンッ」というテーブルに拳を叩きつける声がディアルドたちの方に響いてきた。



「はっ! つまりはどっちも魔導階級も持っていない雑魚ってことだ。いや、あるいは種位シードの魔導士だからそういうことにしているんじゃないのか?」



 悪意に満ちた煽るような言葉、ディアルドがそちらに視線を向けるとそこにはロナウドがそこに居た。

 恐らくは依頼の達成報告のタイミングが合ってしまったのだろう。


「また君か、マスターを侮辱するであればそれなりの報復は覚悟しているんだろうね? それに……種位シード?」


「はっ、本当に知らないようだな? 魔導階級にはランクがあるんだ。それ即ち、魔導協会ネフレインが定めた魔導士としての存在の差だ。下から順に種位シード花位ブルーム色位カラー王位キャッスル天位フロード――わかるか? 私は花位ブルームの魔導士。貴様ら種位シードの魔導士風情とは存在の格が違うんだ」


 ロナウドは続けた。


「わかったならさっさと消えるか身の程を弁えて暮らすといい、家の名も名乗れない男にその従者風情が……」


 憎々しげに睨むロナウドの様子にディアルドは降参だと言わんばかりに手を上げる。


「おいおい、大丈夫か? カリカリしてないか? そういう時は骨がいいと聞く。骨まで食べられように煮込んだ魚料理を出す店を知っているのだが行くか? 俺様は天才であるが故、博愛の精神も持っているからな!」




「~~~~~っ、失礼する!! 次の依頼を渡せ!」「いえ、しかしロナウド様。少しお休みなられた方が……」「そうですよ、幸い持ちも居るわけですし……」「向こうで使えばいいだろう……そら来い!!」「はぁはぁ……は、はいっ」




 ディアルドの言葉を極力聞き流しながらロナウドは去って行った。

 その後を追うように成人の男女、そして赤毛の少女も。


「……もー、あまり挑発しないでくださいよ。また騒ぎになったらどうするんですか」


「ただの挨拶のようなものだろう? ……だから無言で剣をカチカチさせない、わかったなファーヴニルゥ。それはそれとしてあいつ妙に焦っていたな」


「確かにそうですね。今までも確かに冒険者として依頼を受けてはいましたけど、この頃はどうも頻度を上げているようですし。あんな感じでさっさと次の依頼を受けたりって感じで」


「ふむ」


 ディアルドは受付嬢の言葉に少しだけ考え込んだ。


「金でも急遽必要になったのか?」


「そういった感じでもなさそうに見えますけどね。どっちかというと功績目当てのように見えました」


「昇格目的ということか……。そんなに向上心にあふれた男だったと初耳だな。まあ、積極的に依頼を受けてくれるようになって何よりではないか。元より魔導士でありながらB級に留まっていた方が問題だ」


「それはそうなんですけどねー。確かにこのままならA級も……あっ、そうだ階級の話で思い出しました。ファーヴニルゥさんは今回の依頼で無事にC級に昇格です、よかったですね」


「うん、ありがとう」


「その手続きは後で行いますのでお忘れなく。これでお二人はC級冒険者パーティとして登録されることになります。パーティ単位でのみ受注可能な依頼も受けられるようになりましたのでぜひ依頼を……特に討伐依頼なんて如何です?」


「討伐依頼ばっかり推奨してくるな」


 単純な事実として冒険者の仕事で一番割合が大きいのがモンスターや魔物の討伐依頼なのは間違いない。

 とはいえ、別にそれだけではなく採取依頼、探索依頼、その他にもっと細々とした依頼もあるというのに受付嬢は何故か討伐依頼のみを猛プッシュしてくる。


(まあ、ファーヴニルゥが居る以上はそれが最も効率的ではあるのだがな、報酬稼ぎ的にも功績稼ぎ的にしても)


 それはそれとして、何となく気になったのでディアルドは尋ねた。


「何かあったのか?」


「……実は今、ギルドの討伐依頼が溜まっている状態で」


「そうなのか? いや、言われてみると確かに」


「モンスターや魔物が増えてるってわけじゃないんですよ……ただ、本来なら討伐に出るはずだった冒険者の問題というか。ほら、覚えていますか? 遺跡の探索依頼をディーさんが受けた時に話したと思うんですけど」


「ああ、何か言っていたな。大規模な依頼でそっちに冒険者たちが行っているとかなんとか。確かあれは――」


「ええ、そうなんです。実はあまり混乱を広めたくなくてギルドの方で情報の統制がかかっていたんですけど……実はこの地方近郊での目撃例が。その討伐のために冒険者が集められたんです」


「…………」


 天才であるディアルドはおおよその事情を察した。




「ディーさんは知らないかもしれませんがそのモンスターの名は――黒骸龍ダーク・スケルトル・ドラゴン。このオーガスタ一帯に五十年ほど前、多大な被害をもたらしたという討伐難度は推定350以上のモンスター。そんな存在の目撃例があったことから大規模な討伐隊が編成されることになって、今このオーガスタは討伐依頼を受けてくれる冒険者が少なくなっているんです」


 ディアルドは思った。


(やっべ、忘れてた……)









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