第六話:生体殲滅兵器
遺跡を探索していたら女の子が液体の中に浮かんでいた。
想定外にも過ぎる光景にディアルドが最初に思ったことは――
「あの美しさ……およそ真っ当な者ではあるまい。高貴なる者、姫君、王族――どれであっても金になるのでは?」
そんなこと考えであった。
人が入るのもどれだけの時間が経っているのかもわからない遺跡の奥深く、そんなところで閉じ込められている少女など――普通ではない、普通ではないだろうが……だからこそ価値があるとも言える。
「死んでは……いないな、微かに胸が動いている。生きてはいるはずだ。捕えれているのか? ならば助けてあげたらその報酬を貰うのも当然の権利。それにここの遺跡のことも知っているかもしれん。たかが小娘一人、助けたところで損はないはずだ。いや、むしろ俺様にとってのお宝になりえるかもしれん」
何とか少女を出してやろうとディアルドは結論を出すと方法を模索し始めた。
「さて……どうする? 出すための方法……このシリンダーみたいな容器からどうやって……割る? 割ってみるか? いや、しかし割れるのか? 上級魔法なら……いやしかし、上手く割れたとしても中のお宝に傷がつくのはダメだ。迂闊に破壊していいものなのかもわからん」
ああでもない、こうでもないと考えながら辺りを調べていると少女の入っているシリンダーを保護している装置、その装置の裏から出ている管の先に一つの台座のようなものが繋がっているのをディアルドは見つけた。
研究区画の入り口にあったクリスタルが浮かんでいた台座と似ていると直感し軽く弄っていると――
《仮IDを確認。省電力スリープモードを解除、システムを立ち上げます》
目の前に画面が急に現れ、そして文字が映し出された。
どうやら休止状態になっていたらしいシステムが反応して動き出したようだ。
「このシリンダーとも繋がっている? それならば調べれば容器から出す方法も……えーっと、これじゃない。これでもない……《実験体F-01α》? 《対都市型人造兵装》? いやいや、そんなのどうでもいい。《魔導炉心適応個体》《殲滅式魔導兵装》――《デュナメント》、《バルムンク=レイ》、なんだコレ? 天才たる俺様だからわかるが、過剰な火力過ぎるだろうこの魔法術式、何と戦うつもりなんだ馬鹿か? まあ、それはどうでもいいとして――」
入り口にあったのは案内用だったからか、操作方法については手順通りに進めるだけで良かったがこっちの端末はそうではない。
使い方は何となくわかったし、文字も『翻訳』でどうにかなるので動かすことはできるとはいえ……
(くっ、全然整理されていない。いや情報量が多すぎるのか? それに専門用語っぽいのも多すぎて……《ダグラマイト》? 《エーテル》? ええい、どうでもいい! 俺様のお宝を取り出す方法をだな!)
単純に情報量が多すぎた。
落ち着いて一文一文を『翻訳』を使って精読すれば天才であるディアルドならば理解も出来るのだろうが学術的、専門的過ぎる魔法術式にあまり興味を持てなかった。
単にこれだけの量の知らない言葉がわっと出て来ると目が滑るというのもあったが……。
それはともかくとして。
ディアルドは少女を開放する方法と関係なさそうな所は読み飛ばし調べていき、数十分の時間を費やして遂にそれらしき記述を見つけることに成功した。
「――あった! これだな《――の起動方法》は……えっと、《ID登録が必要》で……これは俺様のIDでもいいのか? ふむ、《正規権限IDの消失を確認。新たなマスターIDとして登録中……成功》――大丈夫そうだな。それから操作方法は……おっと、その前に状態の確認。えっと、これでいいのか? ……うん、数値は正常を示しているから問題はない……よし、いける」
ブツブツと何度も確認しながら手順を進め画面を操作していくと、唐突にガコンッという音が響いた。
目を向けると少女の入っていたシリンダー内の液体が抜けて行き、最後まで抜けきったかと思うとカバーが開き少女の姿が露わになった。
「流石は俺様、天才である。……っと、そうではなくて大丈夫か俺様のお宝よ」
そんなことを言いながらディアルド近づき少女の呼吸を確認した。
まるで死んだように眠っているが微かな呼吸音は聞こえており生きてはいることを確認してホッと一息をつく。
「よかった、生きてはいるな。……さてさて、お前は何者なのだ?」
改めてみると美しいという言葉がこれほど相応しい少女も居ないだろう。
体格から推察するに年齢は十一、二歳ほどの子供のように見える。
青みがかかった長い銀色の髪は美しく、肌もシミ一つなく白い。
容貌も幼さを感じつつも怜悧さと華やかさを併せ持ち、少し現実離れしているほどに整っていた。
「容姿の美しさを表現する言葉に「まるで人形のように……」なんて慣用句もあるが――正しくその通りだな。ふっ、期待がもてるというものだ。美しいものには秘密があるというのが世の常だ。俺様のようにな。その秘密が俺様の益になる者であればいいが……」
いっそ整い過ぎていて本当に人かどうかすら疑わしい、なんて感想を持つ日が来るとはディアルドも思わなかった。
「いや、今はそれはどうでもいいか。それよりも目を覚まさない……さて、どうするべきか」
ディアルドは少しだけ頭を悩ませた。
一先ず出しては見たものの少女は起きる様子はなく、何時までもこうしているというわけにはいかない。
「熱は無し、呼吸も正常。とはいえ、身体に異常がないかどうかは流石に判断はつかないな。天才である俺様は当然のように回復魔法も修めている。というか一番最初に覚えたのがその系統だからな、それに関しては問題は無いが……状態が状態だったからな。やはり何か変化が起こった際に対処できるよう街に戻った方がいいか」
ここは人里離れた遺跡の奥で何か不測の事態が起こった際、対処できるかは難しい。
街に戻ればいざという時には薬を買うことも出来るがこんな場所では手持ちのものしかない。
「やはり、一旦街に戻るのが最善か。素性については気になるが……」
何故少女はこんなところに居たのか、あの端末を詳しく調べればある程度分かる可能性はあるが――
「まあ、それは後でいい。何なら無事に目覚めた当人に直接聞くという手段もある」
そうと決めたらディアルドの行動は早い。
天才であるが故に時間の浪費はしないのだ。
彼女の身体を持っていた一番上質の布で包むと抱え上げ、ディアルドは街へ戻るために移籍を出て、そして――
「……どうしてこうなった」
「ん? どうしたんだいマスター?」
遺跡を出てすぐに
更には自身を人造兵装を宣いながら、ディアルドを
(何を言っているのかわからないだろうが、天才である自分でもわからない……)
ただファーヴニルゥの説明を理解できるように噛み砕いた結果、わかったことが二つあった。
ファーヴニルゥは古代文明が遺した人型終末兵器であること。
そして、ディアルドは彼女を起動する時の手続きによって主人――マスターとして登録されたらしい。
「よろしくね、マスター♪ さあ、何処の国から滅ぼそうか?」
「俺様のお宝……お宝……うーん、お宝?」
ディアルド・ローズクォーツの人生の再出発はこうして前途多難な出来事から始まったのだった。
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