第四話:遺跡探索・Ⅰ
「ここがフレイズマル遺跡か……」
オーガスタを出て三日。
北東に山を二つほど超えた先にその遺跡はあった。
辺りが鬱蒼とした木々で埋め尽くされている山奥にぽかりと空いたように開けた荒野が広がり、その中心にその遺跡は存在していた。
「確か一階と上層部分にかけては探索が済んでいるという話だったな。ふむ……確かにそうみたいだ」
入り口と思しきところから入っからすぐにところ、確かにこの辺りだけ奇妙に人の気配が残っていた。
焚火をした跡や野営のために使っていたのであろう道具が放置されていた。
「まだ新しい……時期的に考えて帰ってこなかったパーティとやらのだろう」
恐らくは間違いないだろう。
彼らは個々を荷物の仮置き場として使い、そして遺跡内の探索を行ったのだとディアルドは推測した。
「そして、誰も帰らなかった――っと」
この遺跡でA級の冒険者パーティに何かが起こったのは間違いはないようだ。
だとすれば慎重に行くに越したことはない。
(魔法が使えるとはいえ、こういうのはフィールドワークに付き合わされた時以来か。基本的にはインドアだからな俺様は……知性派というやつだ。さて、不用心に奥に進むのというのは天才的ではない。ならば、まずすることは――)
ディアルドは魔法を発動させた。
(――情報収集からだ)
■
《つー感じやねん。これでいいか?》
《なるほど、四人組の人間がこの奥の角を右に曲がった先に……》
《せやせや、とても強そうなやつらでなー。わいは震えながら様子見をしてたんや。そしたら、その先の大部屋に入ったきり出て来なくなってな。気になってしばらくたってから追ってみたんやけど誰もおらんくてなー》
《……なるほど、ありがとう助かったよ。報酬のチーズだ》
《おおきに!》
遺跡に入ってかれこれ十数分後。
ディアルドはひとまず奥に入るまでにできる限りの情報収集を行っていた。
奥に行く以上、危険は避けては通れない。
なら予め情報を集めておくのは天才的に自然なことだ。
だからディアルドは自らの『翻訳』の力を利用した。
使った対象は鼠、このフレイズマル遺跡の中をちょろちょろとしていた彼を見つけ魔法で浮かせて――後は交渉で情報を吐かせたのである。
《しかし、不思議やな。人間の癖して言葉はわかるし、話せるし……》
《まあ、そういう魔法だと思えばいい》
《はー、魔法……人間は便利な力を持っとるんやなぁ》
感心したように鼠は呟きながら去っていった。
(相変わらず便利な力だ。異国語や古代文字だけじゃなく、他の生物とも意思を疎通できるなんて……ふっ、天才である俺様にふさわしい)
最初こそただ異国語がわかるだけの力かと思ったが調べるほどに『翻訳』の力の範囲は広く、古代語に動物の言葉まで対応が可能。
正しくチートと呼んでふさわしい力であるとディアルドは誇っている。
(これのおかげで王都では……弱みを探るのに……)
それはともかくとして。
ディアルドは教えられた道順通りに遺跡の中を進んでいった。
内部は入り組んでいるため一人で探索していくのはやや手間がかかる程度に広かったが、スムーズに目的地らしき場所には辿り着くことができた。
「ここが最後にパーティが目撃された部屋とやらか」
部屋の奥にはまだ先がありそうな大きな扉。
そして、部屋の中心には台座のようなものがありその上にはクリスタルのようなものが浮いていた。
「……死体はない、か。となるとこの先か?」
ディアルドは慎重に様子を伺いながら思案に暮れた。
(ここまでの道のり、遺跡内では何かしらのトラップなどの気配はなかったどういう素材でできているのかわからないが、時間による経年劣化で相応にボロくはなっていたものの以前に何かしらのトラップが発動した痕跡も見受けられなかった……)
「こういった
それが一つ気になった点。
そして、もう二点ほど気になったことがディアルドにはあった。
まず一つは妙にモンスターが居ないことだ。
大体、こういった放置された遺跡というのはモンスターやら魔物が住み着いて巣にしている場合が多いが、この遺跡ではそんな気配がみられなかった。
先程の鼠のような小動物は見かけたもののそれ以外はさっぱりだ。
「先のパーティがあらかた倒してしまった後……という仮説を立てるにもやはり争った痕跡がないのがネックだな。鼠から話を聞いた時にもそんな話は出てこなかった」
となればここには鼠以上に大きなモンスターや魔物が居ない――ということになる。
そして、もう一つに気になったことだが……それは言葉。
遺跡内を歩いている時に目に飛び込んで来た文字。
壁面に所々に書かれている言葉を『翻訳』すると意味としては――《注意》《火気厳禁》《走るな危険》《不要物の持ち込み禁止》などなど。
あくまで意訳。
ディアルドに理解できる意味として変換されたものとわかっているのだが、これらの単語から察するに――
「ここは何かの研究施設か何かか?」
考察するとそういうことになってしまう。
それならば、まあ侵入者用のトラップなどがないのも一応納得はできる。
ああいった手合いのトラップがある遺跡は大体は墓とか貴重品のある倉庫とかそんな感じの場所の場合が多い。
(そうなると金銀財宝は難しそうか? いや、その代わり希少なマジックアイテムとかのお宝の可能性は高まったか……)
「ただ、具体的に何の研究施設なのか」
悩んでいてもわかるものではないと諦めディアルドは大部屋のドアの上を見上げた。
そこには《研究区画入り口》とハッキリ書かれていた。
言葉通りの意味ならこの大部屋の奥にある大きな扉の先が研究区画となっているのだろう。
(……そして、ここに死体がないということは件のA級冒険者パーティとやらはその区画に足を踏み入れて帰ってこなかったということになる)
「……悩んでいても仕方ない、か。ひとまず行けるところまで行ってみるしかない。なーに俺様は行方不明になったパーティと違ってこの遺跡の特徴は既に掴んでいる。全く知らないで奥に進んだであろう連中とは違う。それに天才だし」
ディアルドは踏み込んで大部屋に入り、そのまま扉へ――向かう前にあからさまに中央に置かれているクリスタルを調べることにした。
「あからさまだからな。何かしらの意味はあるとは思うが……」
もしものことを考えて魔法の防護を張りつつディアルドはクリスタルに触れ――
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