第二話:一発逆転
仕事を無くしてしまったため、ディアルドは冒険者になり依頼を受けて生活費を稼ぐようになった。
とはいえ、だ。
ろくに伝手もない地方に来て一から始めている最中、初級も初級であるD級冒険者では大した額も稼げない。
王都を離れる際に持ちだしてきた財産は有るので今のところ生活自体はできてはいるのだが……。
「……そろそろ一発逆転をしたいな」
この世界における冒険者という仕事は不安定で危険も多く、さらに決して社会的地位の高い仕事でもない。
天才であるディアルドにはふさわしくない色だなと常々思っている。
とはいえ、生活するには金は稼がないといけないという摂理には天才であるディアルドと逃れられない。
何という無常か。
それでも手持ちの金を切り崩す今の現状を打破するためには嫌でも働かなければならない。
「あら、ディーさん。おはようございます」
受付のカウンターに行くと馴染みの受付嬢が出迎えてくれた。
最初にこのオーガスタのギルド冒険者登録をした時にあった受付嬢で一月の付き合いだ。
ちなみに「ディー」というのは登録したディアルドの偽名だ。
とある事情があってあまり存在がバレたくないので使っている。
「ディアルド」だから「ディー」――偽名にしては安直すぎると思われるかもしれないが、あまり本名から外れ過ぎていると反応でバレたりすることがあるので気を付けるべきだと天才からは忠告しておこう。
ちなみにディアルドは三回ほど失敗した。
「何かこの天才にふさわしくそれでいて金になりそうな依頼をくれ」
「相変わらず言い方がストレートすぎるというか何というか。低ランク冒険者にそんな都合のいい依頼があるわけないでしょう」
「そこをなんとか。天才である俺様に恩を売っておいて損はないぞ」
「へー、ディーさんに恩を売っておくとどんな特典があるんです」
「少なくとも仇で返すことはないだろう!」
「踏み倒すことは?」
「それはある!」
「おい。……いや、まあ、そんなことを言われても無理なものは無理ですけどね。ギルドの規則がありますし、私が上に睨まれちゃいますよ。ディーさんを特別扱いする義理もありませんし」
「この俺様の美形な顔に免じて!」
「どれだけ自意識が強いんですか。……確かにムカつくほどに整っていますが」
「だろう? 母方の血のおかげだ。――さあ!」
「いや、さあじゃないですよ。最初の方こそ少しは役得かなと思った時もありましたけど内面がクズなのわかっちゃいましたし」
「ちっ、そうか……もうちょっと搾り取ってたからにした方が良かったか」
「おいこら」
「おや、どうした顔が怖いぞ? 受付嬢は笑顔が大事だ、ストレスか?」
「ええ、原因が目の前に。まあ、いいです。ディーさんの話に付き合ってると長くなります。まずはこれです」
一つ溜息を吐くと受付嬢はそう言ってプレートを一枚取り出しディアルドに渡してきた。
「はい、先日の討伐依頼の達成を評価して今日からC級冒険者認定です。おめでとうございます、あとで更新手続きの方もよろしくお願いしますね?」
「うん? まだ既定の依頼数は達成してないような……それなのに昇格? まあ、俺様が天才だからだな」
「いえ、「天才だからだな」で納得しないでください。ちゃんと規則にのっとった評価によるものですよ。報告による依頼の最中に現れた討伐難度80のジャイアントスネークの討伐も行っていますよね? その功績を認め、ギルドは昇格を決定したということです」
「ああ、あれか」
受付嬢の言葉にそんなこともあったなと思い出した。
新米扱いのD級からとりあえず一介の冒険者と認められるC級認定をされたのは喜ばしいことではあったが、
「なんだか反応が薄いですねー、昇格ですよ? 嬉しくないんですか?」
「天才だからな。通過点程度のことで喜んでいては格が下がるからな」
「D級の冒険者で討伐難度80のモンスターを単体で倒すのは結構凄いことなんですけど……」
討伐難度とはモンスターなどの危険度を表す指標のようなものだ。
あくまでこれまでの記録から暫定的に数値化された非常に曖昧なものではあるが個体の危険度を表す。
大体の目安ではあるが討伐難度50以上を単独で討伐できると半人前卒業と言われる。
「そもそもD級という評価が不当なのだ。昇格システムもわかるが俺様のような天才は最初からババンとA級ぐらいから始めてもだな……」
「そりゃ、魔導階級証ぐらいあればこちらに提出していただければこちらとしても対応はできるんですけどねぇ?」
「……諸事情により出せん」
「じゃあ、無理ですね」
「ぐぬぬ」
魔導階級、というのは
試験に合格することで能力が認められ魔導階級証が発行される。
大抵の魔導士というのはこの魔導階級証を持っている。
自身の実力の証明として提示できるステータスとして便利だからだ。
当然、ディアルドも持ってはいるのだが……ちょっとした事情で失効してしまっているので出すことはできない。
まあ、そもそも偽名を使ってまで身分を隠しているのだから出せるわけもないのだが……。
「さて、では改めましてどんな依頼をご希望ですか? 昇格したので受注できる依頼も増えているので……いま、受けられるのはこんな感じですかね?」
そう言って受付嬢は分厚い紙の束を取り出した。
「おお、多いな。D級の時とは大違いだな、内容も幅があるが――うーん」
渡された紙の束は確かにD級の時よりも多い。
一端の冒険者として認められる階級ではあるので、それなりにまともな依頼内容も多い。
とはいえ、依頼内容に対して報酬は……微妙な所ではあるが。
「討伐難度80のジャイアントスネークも討伐できたことですし、狩猟方面の依頼を本格的に受けるというのはどうですか? 危険手当も付きますし、界隈で名が上がれば指名依頼も期待できますよ」
「狩猟……ねぇ」
「天才ならできますよね?」
「当然天才ならモンスターや魔物など相手ではない。だが……」
大まかに分けて冒険者の仕事は主に三つに大別される。
一つはモンスターなど危険生物を討伐する雇い兵に近い仕事。
これが主な仕事になっている。
その他に依頼された特定の物……例えば植物やモンスターの部位などの希少なものを指定された分を集める採取者。
そして――
「外を駆けずり回って戦うのって汗臭いし汚いし嫌だろ」
「冒険者の仕事の七割ぐらいはモンスター討伐だって知ってます? サラッと喧嘩を売り過ぎでしょうディーさん。冒険者の花形だとは思いますが? それに功績として認められやすいので昇格もしやすいですし」
「稼ごうと思うと危険も相応に上がる。量をこなすとするとそれはそれで大変……面倒! 強大なモンスターを倒して賞賛を受け、憧憬の眼差しで見られる……というのは俺様にはふさわしいが都合よく現れてくれるとも限らんし。俺様はいま金が欲しいんだ。もっとドカンと一山を当てる依頼とか」
「そんな都合のいいものは――あっ、それは」
「遺跡の探索依頼……これだ!」
遺跡やダンジョンなどを探索する……所謂トレジャーハントである。
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