第3話 深窓1

真っ白シーツの上でぼうっと窓際に立ちながら少年は風を纏っていた。ふわりと揺れるカーテンに隠れ少しだけ空いた窓の外には、不安げに輪郭を滲ませた満月が漂う。少年は小さく息をしながら隣の部屋から聞こえてくる泣き声に耳を傾けた。


 夜な夜な、彼女が泣いているのを隣の部屋から何度も聞いていた。何かを殴るような音も一緒に。時たま小さく聞こえる声。「痛い」「怖い」「汚い」…… 僕には何も見えやしないけれど、あんなに楽しそうな声で世界を教えてくれる彼女が汚いはずがないと思う。彼女の鮮やかな物語が言葉が僕はとても好きだ。何も見えないからこそわかるものもあるんだと、何度伝えようと思ったか……。

 あの可愛らしい子は僕が少しでも近くに寄ると、すっと離れて一定の距離を保ったまま、近づいてくれない。一度手を握ろうとした時もするりと逃げられてしまった。


ふたりが初めて声を交わしたのは、肌の輪郭がはっきりわかるくらいにしんとした空気が張り詰める温度の中、はらはらと雪が降り始めた頃のことだった。

彼の隣の部屋に彼女がやってきた。20歳以下の子どもは彼だけだった。そんな中自分と同じくらいの歳の子どもが来たことを知った。どんな子だろう、話してみたいと彼が興味を持つのは必然的だった。

彼女の視力は何も問題なく機能し、遠目から彼を捉えた。目を瞑り寂しげに立つ姿が自分と重なり、人嫌いの彼女も彼を拒否することはなかった。

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