第13話 雑な、あまりにも雑過ぎる方法
木星。この星は地球の11倍の大きさがある『太陽系で太陽の次に大きな惑星』である。
そのため、もっとも近い衛星の一つ、イオは本来火山活動やマグマなど存在しない星なのだが、楕円軌道の公転中に木星に近づくと、重力に引っ張られて地表が100m伸びたり、木星から離れることで地表が元に戻るベーリング海峡も真っ青の出鱈目地形である。
しかも公転と時点の周期はバラバラなので、木星に近づくたびに別の場所が伸びたり縮んだりする。
そのため、外部の圧力でマグマが生まれ火山活動が起こっているらしい。
その少し外側を回る衛星エウロパは厚さは20kmの氷に覆われ、その下に海があるのではないかと推測されている。
これは太陽光が少量しか届かず、水はすべて氷として存在するエリアになるためだ。
「スノーラインと呼ばれる領域だっけ?私」
と『宇宙の秘密』という本を読んでいた私が言う。
「ああ。ここから先の大型惑星はガス状の物ばかりだったはずだ」
スノーラインの外側では塵の密度が非常に小さくなっている。
それは塵同士が衝突する際、塵を覆う氷がクッションとして働くことで、塵は破壊されることなく合体して大きくなりやすいためだ。
そのため塵の合体成長がどんどん進み、塵粒子の個数としては減少。
なので木星は、気象現象が起こる厚さ3000kmの水素とヘリウムの大気の層で覆われているガス状惑星である。
地球だと気象現象の起こる層は10kmなので、遙か大気圏近くの上空まで雲があり、竜巻が起こり雷が発生しているらしい。
特に南極では『地球の1000倍の雷が発生して人間が直視したら失明する』とか『あまりにも雷のエネルギーが大きいので炭素が空中で固まってダイヤモンドの雨が降る』とか『それ、いつの大航海時代のヨタ話?』と聞きたくなるような不思議現象が起こる星らしい。
魔神英雄伝ワタルの第2層でもそこまでデタラメな気象状態にはない。
え?本当にダイヤが降っているのかって?
失明するような場所見られるわけがないじゃないか。
「そんなわけなので、大型作業機を動かすときは余り木星に近づけすぎると、大きくゆがんで爆発四散するかも知れないから注意してくれ」
というのが先発した私たちの報告だった。
実際に直径100kmの乗り物を彼らは作ったらしいが
『木星の気体を少しだけ持って行こう』
と、欲を出したばかりに作業機が真っ二つになったらしい。
ここまで大きな宇宙船だと移動は全てタイプAやタイプBで行わないと満足にできなかったため、奇跡的に死者は出なかったそうだが、スノーライン製のもろい素材では耐えきれなかったのだろうと私は分析したらしい。
「でも、そんな強い力が働くならタイプD’(火星の衛星の改造品)も危ないのではないかな?」
と、命がかかっているので緻密に計算しようとする。
てか、その真っ二つになった作業機をバケツ代わりに使えば良いのではないか?
そう思いながらも、頼まれたからには用意するかと、どの星を犠牲にするか考える。
ガニメデという水星より大きいぐらいの衛星は地表に少し酸素があり大気があるのが確認されているらしいので人類のために残すことにした。
カリストという水星並みの大きさの星も大きすぎて持ち運び憎い。
なので直径100kmくらいの名も知らない氷で覆われた隕石を外側だけ持って行くことにした。
作業用アームで、赤道に当たる部分にそこらの隕石をくさび代わりに300か所ほど打ち込み。
それをワイヤーで作業機にけん引させ、木星から離れた。
しばらくして、もしも空気が有れば鼓膜が破れるであろう程の振動が起こった。
木星の引力にひかれた隕石が、くさび部分でちぎれて表面の氷を残して木星側に残留したのである。
「直径100km。厚さ10kmのバケツ。これなら文句ないだろう」
氷の中には多少の水があったようで、キラキラと光りながらすぐに凍って木星にひかれた側の核へと吸い込まれていく。
ちょっともったいない気もしたが、命の方が大事だ。
そう思いながら私たちは木星を後に、土星へと進むのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます