第10話 火星をテラフォーム(地球化)
「よーし、それでは火星の開拓といきますかぁ!私」
「海が出来たら、パパ原生生物とかプランクトン投下しちゃうぞぉ!」
人類初の友人火星探査という事で、ハイテンションの私たち。
ゲームと火の鳥から影響を受け過ぎだ。
「えーと、まずは熱を逃がさないように二酸化炭素製造工場とー、オゾン層とー、あとバイオ装置(その環境に適した植物を製造するシムアースのユニット)…はないから、ギシギシ(雑草)とカタバミ(雑草)と、スズメノカタビラ(雑草)にー。とハーブのセージ(凶悪な雑草)にミント(凶悪な雑草)に、レモンタイム(凶悪な雑草)にー」
「火星に除草不可能な種をばらまくのはやめなさい。私。」
生物兵器を庭にばらまく感覚で、腐葉土と共に火星にばらまく私。
ああ、そんな簡易ビニルハウスを置いても火星には大気がほとんどないから寒暖差(-140~30度)であっという間に壊れるだろう。私よ。
大気から水を取り出そうとしている私もいるが、水分がほとんどないため氷と言うよりドライアイスが多いんだよ。火星は。
昔、とわいらいと通信というSF短編連作漫画があり、その中で極点で日なたと影の境目、トワイライトゾーンに住めれば他惑星に移住できる可能性がある。と語った話があったが、実際に来てみたら高低差が大きくて移動するだけでも一苦労である事がなんとなく分かる。
まあ、低い温度に関しては核融合エンジンがあれば断熱さえしっかりしていれば生活できるが、火星は地震や火山もあるのであまり安心はできない。
水が干上がった川の跡や三角州。
水中で形成されるヘマタイト(赤鉄鉱)たち。
これらからも火星に水がかつて存在し、川や海があった事は分かった。
だが、いまでは水分などかけらも見えない荒涼とした岩山と砂漠が広がっているだけだ。
もしこれが水と大気のある惑星になれば、地球のような環境に出来るかもしれない。
そんな淡い期待を持ちながら、数日火星で過ごしてみることにした。
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「たすけて!わたしえもんっ!」
「語呂悪ッ!」
私の一人が泣きついて来た。
この場合、わたえもんの方が言いやすそうだが『私』という要素を削らない方針だとこうなるのだろうな。
「で、いったいどうした。私」
「それがさ!私!火星の自然がひどいんだよ!」
なんでもガラスドームの中で植物を植えつつ、大気を作ろうと火星の鉱石から二酸化炭素や水分を分離していったのだが、いくらやっても大気圏は出来ないし、雑そ…植物も繁殖しないのだという。
「水に腐葉土にバクテリアを作成してそこらへんにばらまいたのに、水はすぐ枯れるし、大気の濃度も変わらないままなのは何でなのさ!?」
元の状態の火星を調査したがっている地球人が聞いたら卒倒しそうな私の無法ぶりだが、火星の自然を破壊するには至らなかったようだ。
まあ、そんなので生物が繁殖するなら苦労はしないだろう。
「原因は二つだろうな。私」
私は再確認するように火星について書かれた本を読みながら言った。
「二つ?」
「一つは火星の引力が弱いこと」
火星は地球に対して11%の質量。1/3の重力しかない。
このせいで二酸化炭素みたいな少し重い気体は地表に残ったが、水素や酸素のような軽い気体は重力で引き留められず、太陽風に吹かれて宇宙へと飛んで行ったらしい。と、本に書かれていた。
「そしてもう一つは、火星には『地磁気』がほとんどないって言われているのも原因らしい」
「地磁気?」
地球で磁石を水に浮かべると、必ず北か南を指すようになっている。
これは、原理は不明だが地球が一つの大きな磁石として磁気を発しているからだという。
これがあるおかげで地球は太陽風プラズマや、電気を帯びた粒子などが動きを制限され入りにくくなっているという。
つまりこの地磁気と引力があるおかげで、地球の大気は宇宙に吹き飛ばされず地上に定住しているわけである。
ところが、火星にはそれがないので大気内の空気は太陽の熱により吹き飛ばされ放題。大気圧が地球の0.006しかないのはそれも原因だと言う。
ゲーム、シムアースが火星を地球のように出来たのは、これらの要素を排除していたからだろう。でなければ、たった200年で生物を住める惑星にするなどというシナリオは作れないはずだ。
「なるほど。で、その地磁気というのはどうやって生み出すのだ?博識な私」
「さあ」
「……………さあ?」
この地磁気『地球の真ん中のマグマに鉄が多く含まれ、対流する際に磁石が生み出されるからだ』とか『海の流れやマントルの流れで生み出されているのではないか?』とかいろいろ言われているが、何故発生しているのかは、はっきりとわかっていない。
存在するから存在するのだ。何か文句あるか?というのが現在の学説である。(違います)
そういうと、泣きついて来た野比…もとい私は少し考え込み
「……じゃあとりあえず、ネオジム磁石に加工した鉄塊を3000tほどオリンポス火山に投下すれば重力も増えて地磁気が生まれるかもしれないが、どうする私?」
と、とんでもない解決方法を相談してきた。
「それ、失敗したらどうなるのかな?」
この言葉に私たちは沈黙した。
なにしろそんな大規模な実験、人類で誰もやったことが無いからだ。
「まあ、火星の引力で月が地球から離れるということは無いだろうけど、地球に何らかの影響が出ないとは言いがたいな。私」
火星と地球が太陽から見て同じ側にいるとき、地球が火星に引かれて氷河期っぽくなるとか、太陽を挟んで相対したとき、温暖化が起こる可能性もないとは言えない。
「じゃあ、試してみようか。私」
ノータイムで禁断の実験にGOサインを出す私。
なぜそうなる。
分からない要素が多すぎると説明したら、普通やめとくだろう。私。
そういうと
「いや、分からないままモヤモヤした気分で死ぬよりも、とりあえず試してみて結果を知ったほうが死ぬときにすっきりするじゃないか。私」
何言ってんだ。お前?という顔で私が私を見る。
私ながらなかなか恐ろしい私である。だが
「………別にいいけど、地球が災害にまみれたらゲームや映画とか最新の作品が入ってこなくなるぞ。私」
ぴた。
その言葉に目の前の私は動きを止め、しばらく黙考したあげく
「残念だが実験はあきらめるよ。私」
と言った。
事の重要性を理解してくれたようで助かるよ。私。
漫画とゲームと映画とかは世界を救った。エンタメ万歳。
結局、私たちは長時間日光が当たる火星の南極に拠点を作り、そこで野菜を育てつつ活動範囲を増やす事にした。
火星の極点には南極冠、北極冠という氷とドライアイスで構成された地帯が存在し、そこならわずかながら水分が取れるからである。
また、極点の地下には水があるかもしれないという仮説もあり、温泉でも掘る気分でそれを探すのも悪くはないというのが今のところの結論である。
火星では鉄やヘマタイトなどがとれるため、タイプCのパーツを作成し、宇宙で組み立てる拠点にした。
なお、マイナス51度の世界でも順応する雑草はいなかったようで、かえって氷のある南極の方が気温が安定し、すこしだけコケやバクテリアが育ったのは驚いた。
そして、次はアステロイドベルトを超え、木星を目指すことにしたのだが、
「なあ、私」
私の一人が、ジト目で私に声をかける。
「なんだい私」
「私たちの船団に、なんか大きなブツが付いてきているんだけど、あれ火星の衛星じゃないのか?」
はて?なんのことやら。
私は聞こえないふりをした。
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とわいらいと通信とか世にも不滅な研究所、なあばすぶれいくだうん、白竜とかノーラコミックは実に私好みな作品が多かったですが、近所の本屋さんには売っておらず、小遣いも乏しい私の財力では買い支えが出来なかったことがとても残念な雑誌でした。
特に世にも不滅な研究所の作者様はツイッターで今でもイラストをあげているので、いつか新作を読みたいものです。
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