第9話 火星到着(人類初)

 2年かけて到着した火星。


 そこはかつて水が存在し、極点にはいまでも氷が存在あって苔などが生存しているのではないかと言われている場所である。

 太陽から離れているため、地球よりも寒冷であるこの星は、エベレストの約3倍の高さを誇る比高2万7000mの休火山オリンポス山や、深さ7km、長さ4000km、幅は最大200kmもある赤道付近のマリネリス峡谷などをはじめ、地球よりもビッグスケールな観光地が目白押しである。

「節子、それ観光地やない」という声が聞こえたが、基本的に荒涼とした大地なんだから、それくらいの軽口は許してほしいぞ。私。


 なにしろ火星は酸化鉄が表面を覆い、赤く見える星。

 二酸化炭素の大気があり、砂嵐が吹き荒れるが大気圧は地球の6%しかなく、砂嵐も強烈にみえるだけで大した威力はないという。


 なお1877年にイタリアの天文学者ジョヴァンニ・スキアパレッリによって「火星の表面に溝(canali)がある」と初めて記述されたが、これが英訳された際に「運河」(canals)と誤訳され『火星には生物が存在する可能性がある』として火星人のイメージなどが人類史をにぎわせた。

 ただ20世紀初頭には天文観測の進歩が「運河」は錯視であることを明らかにし、火星探査機による高解像度の火星表面地図により運河の存在は見られない事が判明したのだが…。

 ま、そのおかげで『宇宙戦争』などの名作が生まれたので、一概に悪い事とは言えないが、実際に探査機の映像を見た人たちはショックだっただろう。


「私たちが火星に住んで活動するなら、この薄い大気がネックになるだろうなぁ」 

 と、私の一人が水のない赤い星を見てしみじみと言った。


 なお今回の火星着陸も、大気が有るとは言え重力も月より大きく、前回やったような月面墜落作戦が有効と思われたので、試しに隕石を2つ落とし、大気圏によるブレーキ効果と重力の影響が出る地点、そして地表の様子を確かめてから落ちる事にした。

 その結果………


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「火星にはほとんど大気は意味がなかったな。私」

「まあ、表面にクレーターが有る時点でお察しだったな。私」


 念のためイガグリのような緩衝材にパラシュートを追加したタイプAを突入させたが、パラシュートはほとんど効果なかった。


 火星の質量は地球の11%で、体積は15%。

 重力は地球の1/3という星では、大気を繋ぎ止めておく力はないようであった。

 

 余談だが2022年に火星に隕石が落下し、幅約500フィート(約150メートル)のクレーターが出来たらしい。

 火星には常に隕石が落ちているが、このクレーターは火星で新しくできる典型的なクレーターの10倍以上の大きさだ。と米ブラウン大学のイングリッド・ダウバー博士が語っていたので(https://www.bbc.com/japanese/63422745)大気圏の強化は火星に住む際には急務となるだろう。


 火星は鉄やヘマタイトなどの金属があり、宇宙船内部の密閉材料が手に入る。

 だが、このような危険な場所では安心して盗掘…もとい資源採取も出来ないのである。


「だったら、私が何とかしてみよう。私」


 私の一人が胸をたたく。

「何か良い案があるのか?この2年間ゲームに熱中していた私。」

「ああ、任せるがいい。2年間漫画と小説にドハマリしていた私」

 そう言って差し出した手には『シムアースのすべて』という本があった。

 なんでも、この2年間 惑星シミュレーションゲームに熱中していたらしい。


 昔『シムアース』という惑星運営シミュレーションゲームがあった。

 シムシティという都市運営ゲームが売れたため出されたものと思われるが、こちらのアースの方は、大気のない火星で地球のような生命あふれる星にし文明を起こしてみたり、灼熱の金星で生物が生存できるようにするのが目的の一つのゲームだった。

「この本には火星を地球のような惑星にする方法が書かれているんだ」

 何でも私はそのゲームで、何度も火星を文明のある惑星にして文明をよその星系に送り出したと言う。

「それこそ人間どころか、爬虫類、昆虫、食虫植物にだって文明を持たせることだって出来たんだよ。」


……なんだろう。猛烈に嫌な予感がする。

 先ほどは『火の鳥』を見て「火星に生物を生み出してみせるぞ。私」という私もいた。

 どうして私はこんなのしかいないのだろうか?

 


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 こんな劇的さが皆無な有人の火星到着はイヤだ。

 書いてて思いました。

 まあ、説明文に『私』しか登場しないと言う制約と言うか心理作戦とか恋愛とかかったるいし、それらの要素を出しようのない設定にすればいいだろ。と思ったのと、そのおかげで3日分先行して書き溜めが出来るほどサクサク書けているので文句は言えないのですが、現実の火星到着の際にはみんながテレビやスマホに首漬けになるほど注目されてほしいものだとおもいました。

 

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