第6話 人類最大の乗り物。宇宙の塵芥 タイプC
月面着陸、もとい墜落に成功した私は、直径10mの作業用機械、タイプAを使って着陸地点を整備し、直径100mの作業用機械 兼 集合住居タイプBを4基、月面に呼び寄せた。
「すごい。宇宙人の侵略みたいだ」
と、直径100mの球体が長さ100mの4本アームで動くさまを見て私の一人が言った。
まあ、この場合侵略しているのは宇宙人ではなく地球人の『私』なのだが。
地球上だと現地まで分解して運び、そこで組み立てるような100mサイズの大型工作機械も、月だと重力が小さく、無人なので交通渋滞や道路制限に引っかからず自由に活動が出来るのである。
なんでここまで月にこだわったかと言うと、重力が小さいことが大きい。
「オーラーオーライ!一気に型に流し込むんだ。私」
と、私が溶けた鉄を誘導している。
その後ろで、長さ1000m。1kmのロボットアームが鋳造されようとしていた。
さらにその向こうでは、硬くて重い玄武岩を直径100mの大きさのタイプBがジャンププレスでヒビを入れ、厚さ1m、長さ100mくらいの大きさの岩に加工している。
重さ280tの板岩も月だと約43t。
40枚使ってロケットのような形にしても1720t程度の重量になるし、大気も空気もないので、全長1km、幅100m。長さ1kmのロボットアームを有する大型ロケットを作っても、宇宙に何とか飛ばせるのである。理論上では。
「こんな作業を地球で行えば、自重で船体はバキバキ折れるだろうし、アームなんかつけたとたんに外れて、空を飛ぼうとすれば、ものすごい空気抵抗と重力で崩壊するだろうからな。私」
「アームを外して大気圏迄飛んだとしても、そこを突破できずに衛星になるか墜落するけど、月なら空さえ飛べれば宇宙に出るのは何とかなりそうだものな。私」
さらに言えば、パーツを分解して作成し、宇宙に飛ばして組み立てればもっと大きな作業機械、それこそ全長10kmのタイプDなども作れるだろう。
材料さえあれば。
「これから始まる旅は危険だし、宇宙船のストックはいくらあっても損は無いよな。私」
「そうだな。月の形が多少変わる程度材料を採取しても、地球の海の満潮干潮に多少影響がある程度で、それほど問題はないだろう。私」
同じ私どうしなので、止める人間はいない。
天使と悪魔のささやきが悪魔と悪魔のささやきになったようなものだ。
やがて直径1km、長さ1kmのアームを4本所有するタイプCの作成に一台成功すると、巨大作業機で作業はさらに楽になり、2台目は半分の時間で作成できた。
こうなると作業速度は飛躍的に向上し、タイプCの数はネズミ算式に増え3千台を作った所で数えるのを止めた。
またタイプD用の材料もどんどん宇宙に飛ばす事が出来た。
ただ、この作業は地球からは見えない月の裏側で行ったので、それほど目立たずに行えた。
「月の自転速度は28日程度で、地球へは常に同じ方向を向いているからな」
と、私の一人が言ったが、衛星とかで見る事は出来るけど手の出しようがないので見なかったことにされたんじゃないかなぁ。と私は思った。
かくして外宇宙に向けて残機の無限増殖作業はつつがなく進んでいった。
今の時点でタイプAが1万機。Bが5000機。Cが3500機。Dが100機。
1980年代に流行したスペースオペラやSF小説の宇宙艦隊だと大した勢力ではないというか、ゴミのような勢力だが、現実で私個人が所有するには結構な数である。
なんでここまで大きな機体を作る必要があるのか?と思われる方もいるだろうが、「ハエはどんなに頑張ってもトラックや渡り鳥より遠くに行けない」ように、大きければ大きいほど移動距離の規模は大きくなると考えたからである。
なのでタイプDは球体ではなく、移動しながら宇宙ゴミを捕食する形。
ワームとかミミズのような、細長く、中が中空な形をしている。
本体は長さ10km。直径1kmで、そのうち外径の厚さ100mの部分、生物で言えば皮にあたる部分にタイプAに乗った私たちが血液のように船内を循環し、操縦やメンテを行い、がらんどうの船体の中に入り込んだ宇宙ゴミや隕石を捕まえて船体の拡張や、『私』の材料にしながら進んでいく予定なのである。
本当なら、某ダライアスのように魚型の船にしたかったが、効率重視でこの形となった。せちがらいのである。
「じゃ、とりあえず残機づくりは継続したまま、次はとりあえず火星を目指そうか。私」
と、私が言う。
月はこれからもどんどん食いつぶされていくらしい。
かめはめ波で破壊されたりめだかボックスで破壊されたりしたが、船の材料として削られて消滅していくと言うのは、初めてではないだろうか?
かわいそうだが、これも私の個人的趣味をかなえるためである。
申し訳ないが、今のうちに謝っておこう。ごめんね。
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トップを狙えというアニメで人類は宇宙の寄生虫というセリフがありましたが、この宇宙では『私』が宇宙のイナゴとしてアグレッシブに食い荒らしに行きます。
生物としてはレベルアップした感じで誇らしいですね。
なお『宇宙の図鑑』(誠文堂新光社 2022年12月発行)P39によると、月は隕石の衝突で岩を砕き昼夜の気温差で岩石を割るため1/10~1万cmの大きさのレゴリスと呼ばれる塵が30cmくらい積もっているそうです。
水や大気による風化がない月ではレゴリスの角は鋭く尖り、湿度0なので宇宙服に静電気でくっつき宇宙船内に入って花粉症のような症状を起こさせた。とあり、月面で生活するのは難しそうだなぁと、花粉症患者の筆者は思いました。
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