第4話 月面墜落

「まずは地球から一番近い天体、月を拠点にすることにしよう」

 全長100mを超える巨大な住居、タイプBを作成した私はそう提案した。


 月

 直径、約3470km。

 質量は約7千京t。


「こう書いてもピンとこないが、直径は地球の約4分の1。質量はさらに80分の1。と書くと、少しイメージが湧くのではないだろうか?」

 と、絵に描いてみる。


 直径の割に質量が少ないのは、密度が地球よりも小さいからである。


 月は27日で地球を公転するため同じ面しかみれない。

 月の発生については諸説あり、地球に隕石がぶつかり地球の一部が衛星となった説や、地球の一部が分離した説、地球と同時期に別々に出来上がった説などまちまちである。

 ただ、生まれたばかりの月は岩石が熱で溶けて結晶となり45億年前には密度の低い角礫岩という白っぽい岩が表面を覆ったと言われており、39億年前に月の火山活動で下に沈んでいた黒い玄武岩(密度ぎっしりで堅い)が噴火で表面に現れ、隕石の衝突でクレーターができた為今の月の姿になったという。


「月が日本でうさぎの影が見えるのは、この玄武岩の地帯が偶然そう見える配置になっているためらしいぞ。私」

 と、今まで読んでいた書籍の知識を披露する。


 月は地球の重力の1/6。宇宙に飛び立つのは地球よりも楽だし、太陽も丁度よい位置にあるので基地を作るのも楽だろう。


 だが、人類が月面着陸できた回数は少ない。

 2023年の時点で成功したのはアメリカ、旧ソ連、そして中国の3か国だけ。

 日本やイスラエルが挑戦しているが、残念ながらまだ成功には至っていない。


「なんでなのだ私?」

「うーん、宇宙飛行士さんの回想によると月は中途半端に重力があるからこそ着陸が難しいらしいぞ。私」

「どういうことだ?私」


 月の引力は地球と異なる上に、どの位置から引っ張られるのかがはっきりとしないからだという。

 さらに大気も空気もないので不用意に近寄ると墜落のおそれがあるらしい。

「どうも、良くわからないな。私」

「うーん。確かにその方も月に着陸まではしてなかったからな。」


 沈黙が流れる。

 しかし、賽は投げられたのだ。


「まあ、とりあえず着陸できるかどうか試してみよう。私」

 と、勇気無謀ある行動を提案した。

(※素人の月面着陸は大変危険です。良い子も悪い大人も絶対真似しないでください)


 その言葉に他の『私』たちは

「いや、無理だろ。私」

「私の能力を考えろよ。私」

「タイトルを見たら、失敗は確実だと思うぞ。私」

「第4の壁(※)をこえるなよ。私」

 と言ったが

「大丈夫。私はゲームのフライトシミュレーションを何回かプレイしたことがある」

「「「それのどこに安心する要素があるというのか?私」」」

 一人を除き全員の私の意見が一致した。

 だが、一人はやるき満々だ。

 とはいえ、いきなり有人機で着陸するのも少し怖い。


 そこで『リモート操縦でタイプAを動かし、月面に着陸して内部の空気に異常がなければ、内部の3Dプリンターを起動して『私』を作り出す』というのはどうだろう。と私の一人が提案した。

 これには、無謀なる『私』も賛成した。


「それじゃ、月に降りるぞ。私たち」

 そう言って私の一人がリモートでタイプAを月に接近させる。


 月の公転と同じスピードで移動して、少しずつ地面へと接近させていく。

「いい感じだな。私」

「タイトル詐欺にできそうだぞ。私」

 と、私たちはモニターを見ながら感心する。


「うむ。私はエース●ンバットは得意だからな」

 と、ゲーム知識を披露する私だが、それは私たちも一緒だよ。と『私』たちは心の中で思った。

 そして、地面に着陸するため逆噴射のバーナーを点火しようとしたところで


「あれ?」


 今までのゆっくりした動きはどこへやら。

 宇宙船はものすごいスピードで月面に墜落し、ものすごい砂煙を挙げた。


 月面には空気がないので音は聞こえないが、モニターに映った宇宙船は、地上なら

 ガリーン!!!メキメキゴキメリョゴキュ!!ギギギ!!!!!

とか

 ズドォオオオオオオオオンンン!!!!!!

とか

 グワァラゴワガキーン!!!!!

などの絶望的な音が聞こえた事だろう。


「…………………」

「…………………」

「…………………」

 もし、あれに自分が乗っていたら。

 恐ろしい事態に沈黙が流れる。

「………とりあえず、3Dプリンターが作動するか試してみよう」

 いや、無理だろ。


 どう見ても無理だろ。


 誰もの私がそう思った。

 仮に船体が無事でも内部の機械は原型をとどめていないだろうし、船体が壊れる事で衝撃を抑えられても、空気が漏れ出しててダメだろう。

 完全な失敗。

 ここまで分かりやすいのは滅多にないほどの失敗である。


「あれ?機会が反応しないし、空気センサーも応答しない」


 いくつかのボタンを押して、それらが全く反応しない事を確認した『私』はゆっくり後ろを振り向くと

「ね?」

 と、ひきつった笑顔で言った。

 その言葉に、『私』たちの我慢は機能を停止した。

 

「うおおおおおお?何が『ね?』だ。私ぃいいいい!。一歩間違っていたら私が死んでいたところだったぞ!私!」

「よく考えたら私は私なんだから、不器用な所も私と同じじゃないか!私!」

「私の分際で、私に宇宙飛行士もためらうような難問を、大丈夫とかよく言えたな。私ぃ!」

「完璧にこわれてるじゃねぇか!私ぃ!!!!」

「そんな恐ろしい運転技術でよく有人着陸しようとしたな!我ながら恐ろしいぞ!私!」

 仮にあの船に乗っていたら。

 そう思うと、ついつい声を荒げてしまう私たちなのであった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 着陸に失敗した私は目印に『私は無茶な冒険をしました』という札を首から下げられ、運転席からおろされた。

 とはいえ『私』たちが月面に着陸するだけの技術は誰ももたない。


「さて、どうしようか?」


 彼女たちは不器用でも出来る月面への着陸方法を考えなければならなくなったのである。

 

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 子供の時から、人類は月に行けたのに、なんで月面基地とか作らないんだろう?と思っていたのですが、実際の宇宙飛行士の方の説明で良くわかりました。

 あれは非常にリスクが高く、相当なギャンブルで、国家の威信と言う麻薬でみんな●っていたから出来た偉業なのだと。

 なので、次回は素人である『私』が、もっと安全に月に墜落する方法を考えてみたいと思います。


(※)第4の壁=物語の登場人物と読者、または俳優と観客を分けるように舞台と客席を隔てる架空の壁。

 本来なら読者しか知り得ない情報を知ることができた場合、第4の壁を超えると言う。

類語に『メタ発言』などがある。

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