第3話 集合住宅兼作業装置、タイプB

「小型隕石、秒速15kmでこちらに接近中」


 と、宇宙船の私から通信が入る。

 無重量の宇宙では重いものも楽々動かせるし、空気抵抗もないので速さの単位がおかしくなっている。

 地球自体も外から見れば太陽の周りを時速10万kmkmで移動しているし、そもそもすべての星が太陽系という枠の中で銀河系の軌道を時速85万kmで公転し、高速移動しているのだ。


『宇宙に出た』というのは高速道路で車から飛び降りたのに等しいレベルの危険な行為といえる。だが

「加速終了。ほぼスピードが一致したぞ。私」

 空気抵抗が無いのは私が乗っている装置も同様だ。

 隕石と同じスピードで並走し、少しずつ近づいていく。

 飛行機が空母の滑走路に乗るように、ゆっくり移動している路面電車に飛び乗るように、タイプAと名付けられた我らの作業機は隕石にとりついた。ナイス私。


「よし。それでは、少しだけ減速させて、もう一基のタイプAで作業を始めてくれ。私と私」

 隕石の前面迄よじ登ると、少しずつブースターで減速していく。

 衝突さえしなければ、スピードを落とすのはまだ安全に出来るのである(※本作はフィクションです。実際に隕石を逆噴射でスピードを落とすときには専門家の意見を聞いて行ってください)


 こうして隕石にとりついた私は、アームの先端をドリルに取り換え、隕石の内部を掘り進めていった。

 それなりにがっしりとした隕石が、木魚のような内部に空洞のある形に変わっていく。

「掘った鉱石はこっちにまわしてくれ。私」

 と宇宙船の私が分解機に入れて金属部分を取り出し、鏡と太陽光を利用して板に加工。

 それをタイプAのアームで隕石の内部に張り付ける。

「そしてさらにスプレー型断熱材を噴射し、さらに鉄板で覆って、と」

 こうして直径約150mの隕石は内部を鉄板と断熱材で覆われた居住スペースとなった。

 匠もびっくりの宇宙用住宅『タイプB』の完成である。

 なるべく制作費用を抑えるため、隕石の成分を骨の髄まで使いつぶそうと言う匠の心が光る逸品。

 制作費用は0円(加工機械の摩耗や減価償却費、私の人件費などを含まない)である。


 後は隕石の中で3Dプリンターを稼働して、核融合エンジンとブースターを作成。

 外側に取り付けて自由自在に回転、移動が出来るようにする。


 何故このような大きな住居を作ったのか?

 その理由はシンプルである。

 試しにエンジンを動かすと隕石はゆっくりと、そして次第に早く回転していく。

「お、地面に立てるようになったぞ。私」

「成功だな。私」

 バケツを振り回すと水がこぼれないように、遠心力による疑似的な重力が出来た。

 これで宇宙服を脱いで、生活できる住処が出来る。

 水をこぼしたら機械がショートし、命の危険にかかわる生活とはおさらばである。


 そして、それと同時に10人の新しい『私』たちが、地球から巨大な金属アームと共に補充されてきた。

 このタイプBはタイプAの約10倍スケールの存在。

 より大きなものを加工できるようになった、全長100mの機械の腕である。

 予定よりも大きな隕石だったので、ちょっと腕が短いが、人間の百倍の大きさの前では誤差に等しい大きさである。

 この調子で、適当な大きさのタイプBを4つほど造った『私』は、室内の照明でネギの栽培を始めたり、隕石内に含まれていた水素と酸素を集めて水を補充したりと宇宙でしぶとく生き延びる準備を始めていった。

 

 そして、やっと生活の基盤が出来上がった時、地上にいる私がネット通信を使いツイッターで言った。


「では、次は月面着陸だな。私」


 と私の一人は、この計画のキモである月への基地作成を宣言したのである。


■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


本日は、再び外作業の日なので予約投稿を設定してみました。

23時に書き上げたので、そろそろ寝ます。


 次回は、なんで月面着陸が難しいかを、トライ&エラーを交えて書いていこうと思います。

 次回『月面墜落』に、ご期待ください(仮面ライダー風に)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る