第2話 作業機 兼 住宅装置 タイプA
衣食住。
人が生きるのに必要なものである。
宇宙の場合、これに空気と熱も加わる。
なぜなら宇宙の平均気温は約3K(ケルビン)。マイナス270度しかないからだ。
某みずがめ座の聖闘士の必殺技が常時発動しているような、ロシア人も真っ青な冷たい心の世界である。
なので、まずは完全断熱で熱が逃げない空間が必要である。
まあ、それに関しては私が乗ってきた宇宙船があるからしばらくは持つだろう。
問題なのは、宇宙に永住する方法である。
宇宙には畠がないし、有機物を生み出す木々もない。
よって酸素もいつかは枯渇するだろう。
そこで『私』は考えた。
「あ、地上の私が物資を送って来たぞ。私」
直径10mの金属の球体が地上から送られてきた。
そして、次弾として四本の円筒が続いて来る。
「さっそく組み立てよう。私」
宇宙服に着替えた私たちは、それをバラして、先ほどの球体の四方に取り付ける。
「宇宙には重量がないから重たいものも簡単に動かせるというが、本当でよかったな。私」
1tはありそうな油圧式のアームを押して、決まった場所に動かす。
「もしも動かせなかったら、私たちはなにもできないからな。というか、ここでのたれ死んでていたんじゃないのか?………………考えてみたら、かなりひどい計画に参加させられているぞ。私たち」
「幾ら自分だからって、人権侵害が過ぎるだろう。私」
そういいながら、長さ10mはある金属塊のアームを取り付ける。
金具で固定したり、磁石で有る程度引き合うようにしているが、さらに念を入れてボルトで締める。
「出来たー!」
球体に4本のアームをつけた直径10mの作業用機械兼簡易住居。
某ロボットアニメの『空飛ぶカンオケ』に腕を二本足して武器を抜いたような物体が出来た。
広大な宇宙を進むのに、さらに大きな作業装置が必要だろうが、その第一歩としてこの装置を『タイプA』と名付ける事にした。
これがAタイプだと、Rの番になった時色々と面倒なことになるので、将来に配慮した命名と言えるだろう。
「さっそく、乗ってみよう。私」
「了解だ。私」
この機械は二人乗りで、50cmの分厚い装甲は飛来物と熱の放射から私を守り、球体の形状は被弾傾斜で衝突の際の衝撃を分散してくれる。
さらに、広大な宇宙の中でちっぽけな私が前後を互いに見ながら、秒速15kmで飛んでくるスペースデブリ(宇宙ゴミ。衛星だったものの破片とか、小さな(直径約50m)隕石をはじいたり回収出来るようにもしてくれるパワードスーツのような存在である。
空気に関しては安全が確認できるまで宇宙服をつけている。
大航海時代の大型舟もある程度浸水はあったというし、油断=死。なのでそこまで安心はできないのである。
そんな頼もしくもちょっと不安な存在なのだが
「この前後にしか回転しないアーム実に不便だぞ。私」
と、前部座席に座った私から通信がはいる。
このタイプAという装置の腕は、ソフビ人形みたいに動くのは前後だけ。
横には一切回転しない。アームの範囲外に宇宙ゴミが来たら、機体ごと動いて微調整をしなければならないのである。
なんでそんな面倒な仕様になっているかというと
「可動域が広くなるとそれだけ壊れやすくなるからな。我慢しよう、私。故障でもしたら、そっちの方が困る」
複雑に動くプラモの腕と、単純にしか動かないプラモの腕なら、単純な方が頑丈だからである。
宇宙船というのは最新技術の塊のように思われているが、実は古い技術の集合体だったりする。
人類が月面に到達したアポロ計画のロケットの後、スペースシャトルの時代などは20年前のコンピューターを使っていたという。
それは安全が有る程度確保されて、自分で修理できるテクノロジーの方がトラブルが起こっても対処出来るからだ。
特にこのタイプAと名付けた宇宙のキャンピングカーみたいな装置は誰も使ったことのないオリジナルな機械である。
なるべく頑丈に、なるべくシンプルに、かなりの無茶をしても壊れない構造で有ることが望ましい。
そう、たとえば
「前方400km。直径約150mの小型隕石発見。材料として確保せよ。私」
そのような大型の隕石を受け止めて新しい居住地に加工する場合などに、繊細な間接では簡単に壊れてしまうだろうからだ。
さて、これからが宇宙旅行の第一歩である。
間違ってもアームを壊して地球でリタイアなどという事の無いように、気を引き締めて行こう。私。
ていうか、私は反対側担当なので、前方担当の私に任せるしかないのである。
頼んだぞ私。落ち着いていけ私。間違っても正面衝突なんてするんじゃないぞ。私。
心の中で「神様神様神様神様神様神様神様神様神様」と唱えながら、初めての素材集めの成功を祈るのであった。
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宇宙についてのお話は『宇宙飛行士だから知っている すばらしき宇宙の図鑑
著者 野口 聡一』という本を参考にしています。
実際に宇宙ステーションで活動されている方によるお話は、生活感に溢れ、
「宇宙ステーションでまつげを誤ってぬいてしまったら、空中を漂い目の中とかに入るので注意」とか「宇宙では体液が頭にたまりやすいので、目の病気になりやすい」
「実験もたくさんするし、メンテもあるし、かなり忙しかった」というお話を知りました。
宇宙の平均温度とかスペースデブリのスピードも、その本に書いていたものです。
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