第十三話《能力の性質》

―――学園にて。


「―――そういえば僕の異能って何なんだろう」


食堂でいつも通り定食を食べていると、ふと、そんな疑問が湧いた。

正面では咲夜が箸をつついている。


「‥‥‥珍しいな、そんなことを考えるなんて」


確かにそうだ。僕自身、授業がなければこんなことも考えなかっただろう。


「今日の授業でちょっとね」


僕がそう言うと、それに納得したのか驚きの表情が消える。


「‥‥‥ああ、理解した。んじゃ―――復習も兼ねて考察していこうか」


「うん、お願いします」


「それじゃ、大前提からだが‥‥‥異能は三種類に分類されたよな」


少し前にやった内容。確か―――。


「確か、操作、強化、概念の三つだったっけ?」


「正解。そして質問だが‥‥‥悠斗、お前の異能はどれに属すると思う?」


操作、強化、概念のどれに属するか。

僕の能力は零の力を扱う。具体的には、力の収束、射出などが出来る。この性質があてはまるのは‥‥‥操作だ。


「僕は操作だと思うけど‥‥‥どうなの?」


「多分正解‥‥‥と、言いたいところだが思い出してみろ。操作系の異能の特徴はなんだ?」


特徴‥‥‥そう聞かれた僕は、少しおぼろげになりかけている授業の記憶を掘り返しながら考える。


「特徴って言っても名前の通り何かを操る能力、としか言えなくない?」


そう、結局はそれだけだ。いくら頭を捻っても、操作系の異能と言われて思いつくのはこの程度の事だ。


そんなことを考えていると、咲夜は溜息をついた。


「‥‥‥まあ、一から十まで全部覚えてる訳じゃないだろうし、忘れてても仕方ないか。先生も口頭でしか言ってなかったし」


口頭でしか言っていなかった‥‥‥何か引っかかる。

記憶の海に潜り、授業を一から思い出そうとするが、咲夜がそれを止めた。


「これを聞いて思い出せよ‥‥‥。一部の操作系の異能にはもう一つ特徴がある。それは、生成能力だ。‥‥‥どうだ、思い出したか?」


―――思い出した。そうだ、そうだ。操作系の異能、その中でも一部の異能は生成能力を持つ。具体例を挙げるならば、天宮さんや白月さん、それに咲夜も該当するはずだ。


「うん、思い出した。それと、咲夜の言いたいことも分かったよ」


―――そう、咲夜が言いたかったのはこの生成能力についてだ。僕の能力はこの生成能力を有していない。いや、実際にはあるのだろうけど‥‥‥でも、確実に他とは違うプロセスを経て使用している。


「咲夜が言いたいのは、無の力は自分の内から引き出す力なのであって、精神エネルギーを消費して直接生み出す力ではない、ってことだよね」


今更な話だが、異能を扱うには精神エネルギーが必要だ。まあ、その消費量はかなり少なく、咲夜曰くアホみたいな燃費の良さらしい。


「そう、つまり―――他の操作系の異能とは異なるシステムが働いている。ここまではいいな?」


僕はそれに頷く。


「よし、話を続けるぞ。これは教科書を流し読みしてたら見つけたヤツなんだが‥‥‥複合型の異能ってのが存在するらしい」


「複合型?」


「ああ。操作、強化、概念―――それらの中から二種が該当する異能と言われているらしい。それも、特に高ランクの異能に多いみたいだ」


初めて知った。複合型、つまりそれが僕の異能?


「で、悠斗は恐らく操作、概念の複合型だと予想できる。理由は単純、無の力、なんて力を能力発動と同時に生み出すなんて操作系の異能にはありえないと断言できるからだな。しかもオートで」


それはそうだ。だからこそ、授業で操作系の異能について説明を受けた時に疑問を覚えたのだから。


「成程、ねぇ‥‥‥。正直、複合型なんて初耳だったし、同時に納得もしたよ」


そう、確かに納得した。今までよく分からない能力だったけど、こうやって一歩理解が進むと嬉しくなる。


「ちなみにこれは補足だが、天宮の《獄炎の巫女ヘルフレア》は操作、強化の複合、白月の《氷雪の女王コキュートス》は操作、概念でお前と同じ、俺の《魔導の体現者マギカ・ユーザ》は‥‥‥操作、強化、概念全部の複合型だと予想している」


「へえ‥‥‥。よくそんなことがわかるね」


「相手の行動から傾向を探り、定義に当てはめれば簡単だ。何かを物理法則に反して操れば操作、近接戦闘をすれば大体強化、得体の知らない何かを使ってきたら概念‥‥‥そんな風にやれば誰だって予想はできるさ。ただ、その情報を活用するのが難しいだけ」


言われてみれば単純なことだった。誰だって天宮さんの異能を見れば炎を操ることくらいは分かる。問題は、それが分かってもどうにもならない強さを持っているのが彼女だっていうだけで。《獄炎の巫女ヘルフレア》が操作系の異能だと分かって何になる?答えは何にもならない、だ。つまりこれが、活用が難しいという事なんだろう。


と、そこまで思考が回り、疑問がある程度氷解したところで予鈴が鳴る。


「―――もう時間みたいだね。とりあえず、僕の聞きたかった事は解決したし、もう十分かな。咲夜、ありがとね」


「礼には及ばんよ。俺だって別に苦じゃないんだ。友人の言うことくらい考えてやるのが友達、ってやつだろう?」


その一言をサラッと言える彼を見て、僕はクスリと笑った。


「‥‥‥それもそっか。それじゃあ、時間に遅れると面倒なことになるしさっさと教室に向かおうか」


そう言ってから席を立ち、食堂を後にする。


―――教室に移動するまでの間に、僕は思いをはせる。


まだ全容が見えていないその異能の、まだ見ぬ成長を夢見て。

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