四月のビギニング・アビリティ
第一話《獄炎の巫女》
空は青く、視界は桜で覆われる。周囲には建造物が立ち並び、道には車が走っている。
―――目の前には大きな門。四月初めの頃、僕たちはこの場所に立っていた。
「‥‥‥やっぱり大きいね」
「ま、そりゃそうだろうに。一応ここは―――この国最高の異能学園であるんだからな」
隣で一緒に歩いている親友が僕の独り言に応えた。
周囲には、僕たちと同じであろう新入生らしき人物が歩いている。
「‥‥‥正直、今から起きることに不安しか感じないんだけど」
「まあ―――それは仕方ねぇさ。なんせ‥‥‥お前の異能は限定的すぎるからな」
「だよねぇ‥‥‥」
僕はため息をつき、不安を考えないように歩く速度を早めた。
何気ない会話をしながら歩いていると、次第に不安も失せていき、自然と笑みが浮かぶ。
そして‥‥‥僕は辿り着いた。全ての始まりとなるこの場所へ。
この―――異能学園・ディビリティに。
━━━━━━━━━━━━
‥‥‥西暦2120年、現代には異能と呼ばれる通常の人間を超えた力が一般的となっていた。
『異能』と呼ばれるものの起源は遥か昔―――紀元前からあるとされている。有名なもので言うなら、日本では陰陽師と呼ばれる存在や、ヨーロッパでは魔女と呼ばれる存在などだろうか。そういった存在は異能の力を以ってその存在を証明していた。
そして、世界的に異能が認められるきっかけとなったのは21世紀初め、2000年頃のことだ。それまで限られた人物にのみ発現していた力が一般人にも発現するようになり、異能の存在は広く普及することとなった。結果として、異能が悪用されないよう、国が管理することとなった。
―――現代における異能所持者の割合はおよそ99.9%。ほぼ全ての人が異能を持っているため―――逆に、異能を持たない人々は『能無し』、と呼ばれるようになってしまった。
そんなありあまるほどの異能を管理するために政府―――更には世界全体で行われた政策によって―――今の世の中は安定してる。
強力な能力者を国が囲い、教育機関を作ることで今、そして未来における異能犯罪などの抑制を行っていた。
そんな世界で―――僕たちは日本最高峰の異能育成学園であるディビリティに入学することに成功していた。
今いる場所は『第一異能場』と呼ばれる所らしい。四月一日である今日、まだ入学式も始まってはいないが―――この学校に集められた。
そして、どこからか音声が聞こえる。
『―――初めまして。私はこの学園で学園長をしている
―――この学園には序列‥‥‥所謂ランキングが設定されている。それを決める方法は知らないが、序列決定戦という言葉から察するに、戦闘能力による評価なのだろうか?正直、それだけで決められるものではないとは思うけど‥‥‥。
そんなことを考えている最中も話は続く。
『この後、担当者から詳しい説明が行われる。そして―――私からは一つ。決して悲観するな。今回の序列は正確さに欠ける。今回決定する序列では正しく判断出来ない事もある。よって‥‥‥諦めず、未来を見据えてほしい。―――以上だ』
その言葉を最後に、音声が途切れた。
「―――皆さん、後ろの観客席に移動してください!」
後ろから女性の声が聞こえてきて、そっちを向くと椅子にメガホンを持った女性が座っていた。
僕たちはその指示に従い、観客席に移動する。
「‥‥‥はい、移動ありがとうございます。それでは、説明を始めますね」
そう彼女が言った瞬間、僕らの目の前にホログラムが投影される。それには表が描かれていた。
‥‥‥なんだこれ。人の名前が書いてあるのか‥‥‥?
「‥‥‥悠斗、これ多分対戦表だ。俺らの名前の横にVSの文字があるし―――更にその隣には誰かの名前がある」
小声で話しかけてきた咲夜が僕の疑問に答えた。
「‥‥‥咲夜、早いって。僕なんかまだちょっとしか見れてないんだよ?」
「ま、眼はいいからな。それに―――こういうのには慣れてるんだ」
―――前々からずっと言っている咲夜の眼がいい発言。今までも何度か見てきたけど‥‥‥それでも凄いものだ。
そんなことを考えながら咲夜の視線を追ってホログラムを見据える。
『
僕と咲夜の名前を見つけ、対戦相手の名前を見る。
天宮朱音‥‥‥どこかで見たことのある名前だ。確か―――。
「「確か、今年最高の逸材。ランクSの能力者」」
僕と咲夜は同時に同じセリフを放ち、向き合う。
「―――なあ、悠斗。詰んでね?」
「いつもならそんな泣き言を‥‥‥って答えてるんだろうけど。正直僕も同意見なんだよね」
「だよなぁ‥‥‥」
二人してため息をつき、悲壮感が溢れ出す。最強を相手にしなければならないというのは、それだけの感情を呼び起こすのだ。
だが、そんな風に考えている最中でも話は進んでいく。
「―――いま皆さんに見せているのが対戦表です。今から戦闘を行います。その立ち回りや結果によって入学前の序列を決定します。ARシステムを使った戦闘なので、ダメージなどは感じますが実際の肉体には影響はありません。なので、安心して勝負に望んでください。それでは―――第一戦目。神城悠斗、天宮朱音」
―――いきなり僕!?流石にそれは予想してないんだけど‥‥‥それに、相手が相手なだけに見せしめにしか思えない。
「悠斗‥‥‥ま、恥かかねぇ程度に頑張ってこい。てか恥かいたら俺の沽券に関わる」
「―――うん、了解」
―――そう、僕の戦いの師匠は‥‥‥隣で笑いをこらえているコイツなのだから。
そうして僕は移動し、異能場のフィールド‥‥‥半径二十五メートルの円の端に立つ。
「―――それでは、二人は近くにある台座に触れてください」
そう言われて、僕は横にある三角柱の台座に手を置く。
―――瞬間、景色が変化した。さっきまで見えていた観客席にいた他の人が見えなくなり、この場には僕と―――天宮朱音が立っていた。
『―――戦闘シミュレーションを開始します。10,9,8‥‥‥』
カウントダウンが始まる。中央の空間には文字が投影され、時間を示す。
視界の端には緑色のゲージが見える。僕は一度息をつき、体のスイッチを戦闘用に切り替えた。
『―――3,2,1‥‥‥スタート』
ビィィィ―――!
鳴り響くブザー音。瞬間的に反射した僕は、足に力を込めて駆け出す。
「―――《
高らかに彼女の異能が宣言され、世界が炎で覆われた。
その中を僕は駆け抜け、正面の空間を腕で薙ぎ、同時に宣言する。
「―――《
炎に対抗するかのように僕の異能を起動し、両腕を白い光で覆う。
《獄炎の巫女》の炎と腕が接触した瞬間―――炎がかき消える。
―――熱い。
正直覚悟はしていたけど‥‥‥辛い。この熱さも消えれば良かったんだけど、生憎と僕の異能はそこまで万能じゃない。
「―――なっ!?」
だが、僕が炎を消したことに驚いたのか、天宮朱音は後退する。
―――好機!
「天式体術―――【瞬】」
足の裏に気を溜め、踏み込みと同時に爆発、そのエネルギーを利用して加速する。
十五メートルは開いていた距離が一瞬にして詰まり、格闘戦の間合いに突入する。
「噓、間に合わな―――!?」
「貰った!」
自身の最速でパンチを放ち、当たった感覚を得るその直前―――。
「《
爆炎にて距離を取られ、少なくないダメージと共に後退する。
‥‥‥今、確かに拳の間合いにあった。それでも届かないなら‥‥‥僕がやるべきなのはたった一つ。
「そのために必要なのは‥‥‥距離。ゼロ距離まで詰めることができれば、一撃を叩き込める。だったらッ―――!」
前傾姿勢を保ち加速する。遠くで《
だが、それより先にその包囲網を抜け、僕の背後に着弾する。
「今度こそ―――ッ!」
背後の爆風で再加速し、ゼロ距離に詰め、腰に溜めた拳を放った瞬間―――正面の空間が爆発する。
爆風により、届くはずだったそのこぶしは外れ、強烈な浮遊感を与えられ―――同時に、激痛が走る。
爆発を防ぎきれず、大きなダメージを負った。
爆風によって後退した彼女との間合いはおよそ五メートル。
「ふぅ―――なかなかにキツイ‥‥‥」
―――成程、一回目の爆発の原理はこれか。間に合わない、と言っていたのにも関わらず、僕の攻撃は空ぶった。そして二回目。さっきの焼き直しみたいに同じ感じで間合いを離された。だが―――さっきの爆発は一種の自爆技だろう。少なからず、彼女もダメージを負っているのが分かる。
なら‥‥‥まだ諦めるには早い、か。攻撃を食らわないように注意し、接近さえ出来れば―――僕の勝ち、だ。
「‥‥‥《
そんな思考をしていると、再度異能が展開され‥‥‥先程とは違い、拡散していた炎が収束し、一つの槍へと変化する。それがどう動くのか観察していると―――。
―――殺気。
見るのより先に、異能を纏わせた腕を正面に置く。
目の前を見ると、爆炎の塊が両腕に直撃していた。
ボゴォ、と轟音が鳴り、衝撃と熱が体を襲う。体は何メートルも吹き飛び、平衡感覚が無くなった。
「グゥッ‥‥‥ガァァアァッッ!?」
―――辛うじて耐えきった。だが‥‥‥何も見えなかった。ただ、勘に任せて行動したらたまたま防げただけだ。
視界の脇にある緑色のゲージに目を向けると、その量が半分ほどまで減っていた。そして、今も少しずつ減少している。コレの正体は分からないが―――無くなる前に勝負をつけないとマズい。そんな気がする。
だが、そんな僕の考えとは裏腹に、彼女の背後に大量の炎が燃え上がる。それらは同時に、放たれ―――ただ、包囲による範囲で潰しにかかっていた。
―――ッ、回避は不可能、ならダメージを最小限にして切り抜ける隙間を探せ!
「―――見えたッ!天式体術―――【瞬】!」
瞬間、超加速によって迫りくる焔の包囲網を抜け、天宮朱音の正面まで接近することに成功した。
「天式体術―――【撃】」
ガラ空きの胴体に掌底を放ち―――吹き飛ばす。
―――数秒間の沈黙。だけど―――それを破ったのは少女の声だった。
「ケホッ‥‥‥」
「クソッ‥‥‥仕留めきれなかった‥‥‥!」
「‥‥‥中々効いたけど―――残念だったわね。あなたの負けよ‥‥‥《
炎が襲い掛かる。僕はそれを避ける術を持たず―――せめて最後に一発だけ決めようと、言葉を紡いだ。
「天式体術―――【飛】」
悪あがきで放った一撃が空気を裂き、無音の一撃が天宮朱音を捉える。
―――そして、そこで僕の意識は途切れた。
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