二章 王都魔術学院編

第21話 二度寝だけは止そう。

「……。暑っ……。」


 寝苦しい暑さで、俺は目を覚ました。


 窓から差し込む陽の光が、これでもかと閉じかけた瞼を開けてくるが、正直二度寝したい。


 どうしたものか。今日ぐらい地堕落に寝過ごすのも悪くない気がしてきた。


 俺は寝具横に置いたはずの銀時計に手を伸ばす。


 現在の時刻、8時00分。


「なんだ。まだ早いじゃん。」


 よし寝るか。畑仕事をしなくなってから約1ヶ月ちょい。俺の活動開始時刻はメッキリ遅くなってしまった。


 さて、今日はどう一日を過ごそうかと、胡乱な意識で考える。


 朝飯はもういいか。昼からはどうしようか。酒場入り浸るものいいし……まぁアイツがそんな事、させてくれないだろうが。


 最近、何故か知らんがステラがこの宿屋に上がり込んでくるのだ。


 それはもう、朝早く起きろなど、シャキッとしろなど、酒は控えろなど、色々と小言を挟んでくるのだ。


 まるで世話焼きの母親ができた気分だよ。


 これならレイシアに甘えて王宮に暫く、止めて貰えばよかったか。


 ……だが今日は珍しい。いつもならこの時間に、ステラが起こしにくるんだがな……。


まあ……良いか。そういう日があってもまぁ……。


 ………。


 ………。


 ……。


 …。




ーーーーーーーーーー




「…ゼル」


 ………。


「アゼル!」


 ……っ。


「アゼル!!!」


 ーー…!!?ーー?!!


 顔に痛みを感じる。呼び声に応じて、飛び起きた俺の目の前にいたのは、


「貴方……ありえない……。」


 かーーんなり軽蔑の視線を向けるステラさんがおわしましたとさ。


 見るからに不機嫌というより呆れた表情。寝起きの俺でも流石によろしくない状況であることは分かるとも。


「え……うん。とりまおはよう。」


「おはようって……貴方ッ! 今日が何の日か忘れたのですか!?」


「……んな事言われても………!?」


 整った正装に、化粧によって一段と綺麗なったステラを見て、俺はある事を悟る。


 慌てて銀時計を手に取ると。


 現在、時刻8時40分。


 いやもう冷や汗だよ。思い出したよマジで!


「ヤッバァ!!!!」


「貴方本当に……あぁ……もうッ!! とにかく急いで下さいッ!!」


 忘れていた。本当にやらかした。この日は絶対忘れてはいけなかったのに!


 そうだ。初夏が終わりを告げた今日は、王都魔術学院の就任式! 開始予定時刻は9時15分からだった!!


 とだらし無い姿のまま、急いでステラの後に続いて、玄関を飛び出して行ったのだった。

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