幕間2 怪物

「怪物が……。」


 王宮、密会の一間にて、王子マルクス・スカイフォード・アストランは仕上がったばかりの書類に目尻を上げていた。


「仰る通りかと。」


 主人が苦言を通すなか、学院長ガイウス・アル・ウィンターは静かに肩を撫で下ろす。


 マルクスは無造作に書類を机に投げると、ワイングラスを手に席を立つ。


「さて。父上に何と報告したものか。」


「恐れながら、奴は危険かと。」


「その様な事、一切承知の上だ。だが奴には利用価値がある。問題はどう事を運ぶかだ。貴族院の馬鹿どもには勇者を忌避する者も多い。奴の首を晒せば、一夜にして大罪人殺しの英雄となれようが……。」


「『サファイアス』の第三席であの様となると。聊か見誤ったと言わざるを得ませんな。今後は奴を魔術師として見るべきではありませぬ。」


 マルクスが思い返したのは、数時間も前の事。『サファイアス』の私情を呑む代わりに、死刑囚の首を斬れとの命令だったが……。


「奴が規格外であるか、我らが王国の剣も廃れたものか。」


「一概には言えませぬがな。」


「確かに。今後、優良となるのは『カール・ルビーメラー』か。確かお前の教え子であったな。」


「左様。御家に関しては次期当主として確定でありましょう。」


 『ルビーメラー』は五代家が一つだが、そこにも武闘派とそうでないものが存在する。『ルビーメラー』は貿易、特産品などを扱った他国との経済発展が主な役割であるため、近年では武力において劣るとされていたはずだが、とマルクスは考える。


 しかし、稀に『カール』のような秀才が現れる。だが潜在的な力を引き出したのは、まごうことなくこの『大魔導』の教えあってこそのもの。


「ではそうなると、益々面白い事になりそうだな。」


「と、言いますと?」


「お前の敵が増えるやもしれんぞ? 教師としてのな。」


「それは……学において彼奴が私よりも優れていると?」


「そうではない。お前がその程度であっては私が困る。お前は『大魔導』、王国一の魔術師であれ。だが少なからず、私は『勇者』の存在に眼を惹いている。奴を教室に立たせるなどと、我が妹も中々におもしろいことを考えるではないか。」


「マルクス様……。楽しんでいる場合ではありませんぞ。」


「分かっている。相変わらず冗談の通じん奴よ。」


 堅物に嘆息を落としたマルクスは、再び席に着いては、投げ捨てた書類の一枚を手に取った。


「この紙切れが真実なら、奴の実力は魔族……いや大魔族のそれに匹敵するであろう。もし本気に暴れようものなら、王国への被害は計り知れんな。」


 その紙切れに書かれたものとは……。


総合値パラメータ

ーーーーーーー

筋力 ー 

敏捷 ー

耐久 ー

器用 ー

精神 SS+

ーーーーーーーー

素質アビリティ

『万象眼 -』

『神託 SS』

『ー』

『ー』

『ー』

『ー』

『ー』

『ー』

祝福ライズ

火槌霊神ホノカグツチ

・任意の武具創造・魔剣作成

ーーーーーーーー

Level ー 総合 ー


「ガイウスよ。このふざけた事実をお前はどう見る。」


 厄介だと言わんばかりに、マルクスはその用紙を『大魔導』の元へと放った。


「一端の『魔道具』では数値化が叶わなかった事は言わずもがな。知っての通り、本来魔力の強さとは『精神』に現れるもの。この数値を見る限りでは……何とも。」


 その回答が期待外れとばかりに、マルクスは言い方を変えた。


「私はお前の『魔眼』に映ったものを聞いているのだ。」


「では……一言で規格外かと。」


「ははッ。まあいい。暫くは時が来るのを待つとしよう。」


「ところでマルクス様。その書類、どのように父君にお伝えするので?」


「……聞いてくれるな。」

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