第16話 くだらない俺のツケ。

 やあやあ貴族院、並び学院関係者の方々。早速、陰口のオンパレードですか。


 そんなざわつきの中心に俺はいる。まあ無理もない。今から本試験だっていうのに俺は、まだ鎖につながれてるんだもんな。


 ステラさん、一体いつになったらこの鎖を解いてくれるんですかね。


 ほんと人生何が起きるかわからない。まさか昨日と今日でこの闘技場へ登ることになるとはな。それに今日は昨日と違って、レイシアも含めた偉いさんや学校関係者等が、観客席にご着席中だ。


「これより最終試験を開始する。形式は2対2のフラッグ戦。知っての通り、先に旗を取ったチームの勝利だ。開始は今より3分後とする。」


 状況が飲み込めてきたな。つまり即席のチームかつ、たった3分ポッキリで攻防の作戦を組めってことか。


 まあでも。それ以上に言いたいことがある。


 不満を顔に張り付けていた俺だったが、隣のステラは苦そうで今にも口を挟みそうだ。


「何故貴方がここに……。」


 言葉の先は相手さんチームの方。見た所、片方は受験者の様だが、コイツは外部の人間だ。


「進行役殿。意見、宜しいでしょうか。」


 本当に肝がすわっているな。周りに偉いさんがいるこの状況でよく意見を通せる。


 ステラは進行役に敬意を表しながら、切り目へと変えた。


「この組み合わせには納得がいきません。再度、編成を要求します。」


 もしかしてそれは、俺とのペアが嫌すぎるからってことじゃなかろうな。


「出来るわけなかろう。これは厳正なる判断の元に下されたものだ。」


「厳正? では何故相手側に魔術師でない者がいるのでしょうか。」


 あーステラさん。そのお言葉が聞けて俺は嬉しいですよ。組み合わせに不満があったようだが、どうやら理由は俺と同じらしい。というか、これは明らかに不公平という奴だろう。


「この試験は魔術師による魔術師のための適正試験なのでは? 外部の人間の介入、ましてやその者は魔術師でなく騎士です。」


 その通りだ。前衛に後衛、魔術師と戦士。このバランスが最も取れる形態は言わずもがな、前に戦士、後ろに魔術師を配置した時だ。


 根本的に現代の戦術理論は魔術師による後方からの一斉射撃、又は殲滅を基本としてるからな。後ろで魔術師が大技を準備して、騎士は前で守るのが主流だ。


 まあ要するに、前衛の居ない魔術師なんて、『グレイトフル・コング』(あの毛むくじゃらで前腕お化けな魔獣)を前にした貧弱な野生動物と同じで、圧倒的な力と速度差で捩じって、捻られて、捨てられるようなものなんだわ。


 当然、文句の一つも言いたいだろう。まあそれ以前にステラはこの人選に角が立っているようだがな。


「こちらは魔術師が二人。これは聊か公平性に欠けるのではないでしょうか。」


 完璧なまでの論破だわな。俺だったら多分泣く。

 

 でもステラ。俺から一つ言わせてほしい。これは悪手だ。


「ステラ・ローランド。」


 響いた重低音は真正面の観客段の方から。レイシアの横にふんぞり返る大魔導様からの御指名だ。


「私の決定に異議を申すか。」


 一瞬にして場がひりつきやがった。流石は学院長といったところか。

 

 どうやら。この威圧感は流石にステラと言えど堪えるようだな。悔しいのは分かるが、今はそうやって地面とにらめっこしといた方が得策だ。


「この決定は絶対だ。納得がいかぬなら去るがいい。」


 学院長に反抗したステラへ、周りが卑劣な視線を送るなか、無言で二人、俺を見る奴がいる。


 レイシアさんもどうやら今回は助力を見込めないらしい。


 それに天下のガイウス様はステラではなく、俺の方を睨みやがる。


「いえ……不躾な真似をしました。どうかお許しください。」


 すまないステラ。多分この人選は俺のせいだ。完全に巻き添い食わしちまったな。


 あいつの肩を持ちたい訳じゃない。でも今回ばかりは。それにレイシアも、この判断が正しいから何も口を挟まないんだろうよ。


 ガイウスの説教のせいで場は静寂に包まれたが、動かない訳にはいかない。


「ほいふてら。とりあえずどうにかうごかねえと。」

(おいステラ。どうにか動かねえと。)


 そう俺は声をかけたのだが……。


「やあステラ。ご機嫌いかがかな?」


 と、相手側の騎士様がナンパ気味にこちらへやってくる。どうやら知り合いのようだな。


「ルーヴァン……。」


 明らかに俺以上に嫌悪感丸出し、訳アリって所だろうな。


「お迎えに上がりましたよ。マイフィアンセ。」


 あ、そういう展開か。女の子なら一度は憧れるシチュエーションだな。


 ルーヴァンなる男は大人数の前で、大胆にステラの手の甲を掴んだが。


「止めてください。気持ち悪い。」

 

 軽く……。いやだいぶ重めに拒絶されてらっしゃる。


「そう冷たくしないでおくれよ。」


 如何にも女慣れしている感じの男に、正直俺も気分が悪くなりそうだ。


「近寄らないでください。どうせ御父様の差し金でしょう?」


 ……思ってた以上に、ステラは不自由なのかもしれないな。簡単な推測だけど、嫁がせたい娘を連れ戻してこいっ、てところだろうか。


「子供じみた反抗は程々に。そろそろ戻ってこないかい?」


「お断りします。私は家を継ぎたくありません。」


「君がそうであっても我々にはあるのだよ。君の御父上からは強引にでも連れて帰るように言われていてね。」


「……私が屈するとでも。」


「そうじゃない、屈させるんだよ。私もね、そろそろ君との縁談を成立させたいんだ。」


 おーい早速化けの皮が剝がれかけてるぞー。これだから貴族のいざこざは気色が悪いんだ。


「君が何度試験に受けようが。私達は何度でも手回しをする。早いところ、ローランドから逃げれないと理解してほしいところだね。去年と同じように。」


 それは大層なご執着で。


 去年か。ステラはこう見えて、何度もこの試験を受けているのか。実際の所、なんでこんな学校に挑戦し続けるは分からんが、その度に努力を嘲笑られるのは本当に胸糞だな。


「まあ私が手を下さずとも、君の相方は見るからに……。いや失礼。では勝負を楽しみにしているよ。」


 そう言い残したルーヴァンという輩はそそくさと自陣へと戻っていく。


 まあこの鎖につながれた姿は誰がどう見ても不思議なもんだがさ。運の尽きだな、みたいな感じの失笑を溢さないでほしい。今の俺は……結構機嫌が悪い。いや何様だって話か。俺だって、ステラの頑張りを無下にするような事をしたんだからな。


「残り一分。」


 おっとまずい。そろそろ本格的に立ち回りを決めなければ。

 

「おいふてらっ! そおそおまじで……」

(おいステラ! そろそろマジで……)


 ああ!! 邪魔くさい鎖だな!! あ、なんか嚙み砕けた。


「あとマジでこの鎖解いてくんないかな。兎に角、どっちが攻めるか守るかぐらい決めとかないと……。おい聞いてんのか?」


 様子がおかしい。俯いたままこちらに眼もくれない状況に痺れを切らした俺は、拘束された手をステラの背へ向けるが……。


「『黙れ』」


 ステラの拒絶によって、罪人の鎖は腕のみならず、容赦なく俺の首を絞めつけた。


「餓鬼が。」


 この強度は流石に可笑しい。俺は『万象眼』を発動。


祝福ライズ 咎の鎖 A+』


 『A+』っておい。また『Level』が一段上がりやがった。それにやばいのは拘束力じゃなくてだ。


 ありえねぇよほんとに。魔力が抑え込まれてるせいで、魔術ルーンが全く使えん。


「時間だ。両者構えろ。」


 クソ。これでもまだ俺の事無視か。こりゃマジで嫌われてるな。こうなったら『技能アクト』使ってこじ開けるしか……。


「貴方の……悪党の力なんて借りない。私は一人で乗り越えて見せる。」


「あぁもう……めんどくせぇ!」


 珍しく愚痴を吐き出した俺。もうここまで来たら仕方ない。


 両腕は縛られてる。身体も力が入らないし、魔力も練る事が出来ない。

 だいぶ無駄なハンデを背負っているが、このまま戦うしかないな。


 これも全部、くだらないことをした俺のツケだからな。シクシクと受け入れるしかない。


「始めッ!!」


 そうして、無慈悲にも開戦の合図は鳴らされたのだった。

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