第11話 新戦力、モニカ参戦!
夜中。冒険者ギルドから借り受けた十個の籠のうち九つの籠を薬草でパンパンにし、ギルド出張所の前に並べた。休憩抜きで動き回れるのが実生活における「健康体」スキル最大のメリット。フィーナと合流したところで一気に冒険者ランクを上げてやる!
だが「健康体」には力持ちの要素はないので一つの籠がいっぱいになると一つずつ運ばなければいけないのが難点ではあるが。
日も昇ってきた。ラストスパートだ! 俺は気合いを入れる。手近なところの薬草は取り尽くしてしまったので、少し街を離れる必要があるな。
すると先ほどまで俺が薬草を採集していた場所で途方に暮れている人物がいた。頭を覆ったベールとゆったりとしたワンピース状の濃紺の装束。フードから飛び出た髪色は深い茶髪。俺も他人のことは言えないが、怪しい。
「あの……」
「ひゃい!」
驚くほどの俊敏さでその人物が振り返る。正面から見ると服装からしてシスターだろうか? だが俺の視線はとある一点に釘付けになる。
(でっか……)
振り向いた瞬間、自ら意思を持つように揺れた双丘!
フィーナのもデカいはデカい。が、それが大きさとバランスを兼ねた実戦向きのロングソードだとすれば、この女性のデカさは一撃のロマンに全てを賭けた特大剣だと言えるだろう。何の話だ。
「あの……や、薬草を採集しに来たら……全て取り尽くされてしまっていて……」
「ああ、俺にはどうしても大量の薬草が必要で採集してしまい……すみません。シスターさんですよね? お仕事で使われるんですか?」
「いえ、シスターの仕事とは無関係です。司祭様から『少しは度胸を付けてこい。Cランクくらいにはなって帰ってこいよな』と冒険者ギルドに放り込まれて、でもスライム一匹殺める度胸もなく……ただひたすら薬草を集めていたらF1ランクにまで来てしまいました。Eランクになっても安全なお仕事はあるのでしょうか……?」
唐突にシスターさんの境遇が語られ始める。素直に「知らないよ」と言いたいところだったが、薬草を俺が一通り取り尽くした以上次の群生地を教えるべきなのか、昇格したくなさそうなのでここで別れるべきなのか迷う。
「次に目星を付けている場所があるんです。よかったらご一緒しませんか?」
「私などがよろしいのですか? お姿からしてあなた様は街をお救いになった『白騎士』様。そのあなた様が薬草をご必要ということならば、私などがお邪魔することなど……ああ、いけません!」
「別に構いませんけど……この籠が最後ですから」
俺のことをランドタートル討伐の白騎士と知ってもまだ警戒しているのか、おどおどと後ろを付いてくるシスター。そういえば名前を聞いていなかった。
「あの……」
「ひゃい!」
一々これだと調子が狂うな。だがフィーナを日々相手している俺にとってこの程度は屁でもない。
「お名前を聞いていなかったので。俺はケント。『白騎士』なんて言われてますけど大したことないですよ。俺もFランクの冒険者なんです」
「モ、モニカと申します……しかし『白騎士』様が大したことがないなんて、そんな……!」
「ケントでいいですって」
冒険者仲間は増やしておくに越したことはない。情報の共有ができるのもそうだが、Bランクパーティに喧嘩を売ってしまったばかりだからね。
そして目的地に着くと俺はモニカの薬草採取の仕方を見て驚愕することになる。薬草の中でも最低の査定の品種をわざわざ選び抜いて自らの籠に入れているのだ。これでF10からF1まで? 正気か? そんなにFランク期間を引き延ばしたいの?
黙々と作業を進める俺たち。何故無言かと言えば、彼女が大きな動きをすると連動して動く膨らみ、果実、肉まん……に気を取られて仕方ないのだ。兜を装着していてよかった。視線に気付かれないから。いやホントは自由に脱着したいんだけど。
縦横無尽に動き回るモニカスライムに八割、草むしり二割に意識を割いて作業をしていると、突然脳裏に声が響いた。
(バッカ野郎! 後ろだ!)
驚いて振り向くと俺の倍ほどの背丈の大グマが両腕を広げて俺たちのことを威嚇している。知らぬ間に縄張りに入り込んでいたらしい。いつもなら鎧が殺気を感じ取ってくれるが、それに気付かないほど目の前のそれを意識していたらしい。
「ギ、ギガント……」
「
鎧の力で飛び跳ねた俺の斬撃でギガントなんとかの首は刎ね飛ばされる。大物はかつてレッドウルフを斬ったときのように溶けて消滅しないらしい。腐った死骸のような見た目になったクマを見ると消えてくれた方がありがたい気がする。
「あのギガントベアーが……流石ですケント様!」
死体から目を背けながらモニカが言う。
予想外のトラブルはあったものの、二人は目標の薬草を採集することができた。
そして冒険者ギルド出張所まで戻った俺たちはそれぞれ籠を置いた。俺はギルドが開くまでそこで待つことにする。盗まれたら嫌だし。
「わ、わたしもご一緒しても……?」
「いいですよ。別に。連れも後から来ると思いますけど」
出勤してきた受付嬢は薬草の数を見てドン引きしていた。
「はい。『白騎士冒険団』のお二人。Eランク、正確にはE10ランクに昇格です。お疲れさまでした……」
受付嬢が朝から疲れきった態度で俺とフィーナに告げる。本当にお疲れ様です。
「やりー! 『健康体』を使って夜通し働いてくれるなんて! ようやくケントもエルフの里潰滅計画に賛同してくれたんですね!」
「違う。俺はランクを早く上げたいだけだ」
里を滅ぼすとか一々言うな。人聞きが悪い。
「じゃあじゃあ! 今受注できる依頼で一番貢献度の高い依頼を教えてください!」
貢献度。冒険者ギルドが依頼に設定した数値。どれだけ冒険者ギルドの存続、発展に寄与できるかの指標だそうだ。
ランクアップをテンポよくしていくにはフィーナのやり方が最適だ。ちなみに「薬草採取」の貢献度はめちゃくちゃ低い。
「Eランクの依頼は最低でも三人以上のパーティでないと受注できませんが……」
「なんですとう!?」
三人目の仲間。想定外の難関に思えたが、俺には当てがあった。すぐ近くに。
「どうしてEランクはFランクの依頼を受けられないんですか~!」
「初心者冒険者が経験を積む場を奪ってしまうので、それに規則ですから」
隣のカウンターで受付嬢が今にも泣きだしそうな声の主、モニカをなだめすかす。
俺は隣のモニカに話しかける。俺には最大のカードがある。つまりジョーカーが。
「あの、モニカさん。あのギガントベアー。大きさからしてどの程度の討伐ランクでしたか?」
「え。ケント様……そうですね、Dランクの討伐対象には成り得ると思いますが……」
「じゃあ俺たち『白騎士冒険団』と組みませんか? 俺たちも二人だけで困っていたんです。俺の近くにいればEランクの依頼程度なら……」
床に這いつくばっていたモニカが飛び上がって叫ぶ。
「安心! 安全! 安泰! 入ります! 今すぐにでも!」
「ケント、ちょっとさっきから何の話して……パイが! パイがデカい!」
こうして「白騎士冒険団」に新戦力のモニカが加わったのだった。
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