第10話 成り上がり快進撃開始?

 成り上がりからのエルフの里報復計画が初日で頓挫したフィーナはあれ以来どこか不機嫌そうだ。成功されても困るんだよ。色々と。


 俺たちは今「薬草収集」に励んでいる。場所は街を出てすぐの平原。これはギルド側から常時募集されている依頼だ。ギルドの怪我人に使ったりと需要が絶えないらしい。薬草収集以外にも雑用的な仕事が何種類かあったが「薬草? 全種類知ってますよ」とフィーナが言うのでそうなった。本当に? 全種類?


 フィーナの指示で次々と草をむしっていく。疲労のない「健康体」スキル持ちの俺がメインで採集をするが、フィーナも隣で俺の様子を見ながら採集を手伝う。そして俺が間違えると「違ーう!」と喝を入れる。


 これ難しいよ。もっと簡単な薬草はあったけど、フィーナが「高得点を狙う」とか言って似た毒草のある回復効果の高い薬草を一点狙いしているのだ。


「葉っぱの形でわかるじゃないですか! 全く!」


「同じじゃん! 同じギザギザじゃん!」


「ギザギザ具合が違うんですー! はあ。ケントは少しランクの低い薬草を集めててください。こういうの」


 手渡された薬草と似たものをせっせと背中の籠に放り込んでいく。こっちなら楽だ。


 そうして籠いっぱいになった薬草を運び、ドンとギルドの受付カウンターに置く。その量に受付嬢は目を丸くする。


「査定に入りますのでしばらくお待ちください……」




 査定を待つ間、暇なので依頼が貼り付けられたボードを見ている。「双頭のキングスネーク」「隻眼のトロール」「火吹き蜘蛛」などなど様々魔物の討伐依頼が貼られている。どれもBランクの依頼だ。


「おい。邪魔だよ。依頼が見えないだろうが」


「あっすみません」


 ぞろぞろとその男に続いてチームのメンバーらしき人物が集まってくる。これが「パーティ」というものなのだろうか?


「お前がランドタートル討伐したってマジなん?」


「え? もしかして俺って有名だったりします?」


 別の男に聞かれ、すぐさま聞き返してしまう俺。サインとか考えてないよ?


「ああ有名だぜ? 鎧だけ派手なランドタートルの偽討伐者ってな!」


 俺をどかした男が嘲笑と共に言ってのける。


「だよなあ! 『あっすみません』って言い方がいかにも雑魚っぽかったしな!」


「何い? この剣を見てもそんなことを……」


 散々な言われように、思わずダメな水戸黄門のように初手でEX狩刃エクスカリバーを見せつけようとする俺。そんな俺をフィーナがタックルして止める。


「剣を出したな? 俺たちと決闘するつもりか? Fランク風情が?」


「そんなもんBランクまで上がってきてからだ! ボケが! それまで草むしりでもしてろ!」


 こ、こいつら~! 言わせておけば……ぶち〇すぞ~!


 いくら俺でもここまでこき下ろされれば頭にくる。


「なーにやってんですかー! Bランクのパーティに喧嘩を売るなんて!」


「いや、でもあっちがつっかかって……」


「冒険者ギルドの階級は絶対! 私たちFランクなんかに発言権はないんですよ!」


 そうなんだ……じゃあ俺はそんな格上連中相手に喧嘩を売ろうとしていたとは。反省。


「Bランク程度その毒剣にかかれば秒でドロドロですよ! また罪を重ねるつもりですか!?」


 そっちなんだ。あんま強くないんだ。Bランク。


「『白騎士冒険団』の皆さま。査定が完了しました」


「はーい! 今行きまーす!」


 何「白騎士冒険団」って。


「私がパーティの名前を考えてみたんですけど。どうですか?」


 フィーナの仕業らしい。相談の一つくらいは欲しかったなあ。わかりやすいけど。


「……いいんじゃない?」


「やっぱりー! 私こういうのってセンスある方なんですよ!」


 フィーナのまぶしい笑顔に一瞬心が惹かれそうになるが、もう一瞬で冷静にし直した。こいつはフィーナであって普通の美人さんではないのだ。


 受付嬢の元に向かう俺たち。彼女は営業スマイルで俺たちに説明する。


「査定が完了しました。『白騎士冒険団』のお二方、ランクアップです」


「やったー!」


「ということは次はEランクですか?」


 あれだけ面倒な薬草集めを半日がかりでしたのだ。一撃でランクアップしてもおかしくはないはず。


「いえ、F10ランクから二等級ランクが上がりF8ランクになりました」


「そんなに小刻みなの!?」


「ええ。各ランクに十の等級がありますので、ご承知おき下さい」


 こうなるとフィーナの言っていた情報が自由に閲覧できるランクがどこからなのかが気になってくる。どこまで頑張る必要があるのか?


「ちなみに冒険者ギルドの情報端末に触れられるのはどのランクからですか?」


「どのランクからでも触れることはできますよ? 情報に制限がかかっている場合がありますが」


「じゃあ端末を貸してもらえますか?」


 渡されたのは薄い石板。見た目に反して軽い。タブレットみたいだ。これに質問を念じると答えが自動で刻まれるらしい。


「ふうん。これに念じればいいのか」


 手始めに「元の世界への帰り方」と直球で質問を念じてみる。


「この情報はBランク以上の冒険者でないと閲覧できません」


 ダメか。次は「異世界転移の仕方」


 ダメか。次は「勇者の鎧の外し方」


「全部Bランクじゃねーか! そんなに偉かったのさっきのやつら!?」


「まあBランク上位は一応民間の冒険者のトップクラスみたいなものですからね。ギルドでも一通りの特権のようなものが与えられていますよ」


 あんま強くないらしいのに?


「フィーナ、俺決めたよ……」


「何をですか?」


「フィーナ、俺と一緒にいてくれるか?」


 途端にフィーナが赤面する。なんでかは知らんが。


「どどどどうしたんですか急に? まあケントがそう言うなら……なんか熱いですね! この部屋!」


「よし! 俺と一緒にBランクまで上り詰めよう!」


「バカー!」


 すかさずフィーナのビンタが俺の兜に飛ぶ。痛がりながらフィーナは俺を罵倒して去っていった。


 フィーナの奇行はいつものことだが、俺は決意した。


 俺はBランク冒険者になってこの世界の情報に触れる。


 あとついでにあのムカつくパーティをぎゃふんと言わせてやる。


 今はFランク……正確にはF8ランクだが、見ておけよ今に成り上がってやるからな……!


 早速疲労の無い俺は薬草収集用の籠を再び借りると二度目の依頼に向かうのだった。


 これ「健康体」のすごいところね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る