第12話 アンデッド討伐依頼

「初歩的なことだけど国軍と冒険者ギルドって何が違うの? 国軍がモンスターを退治することだってあるんでしょ?」


 モニカの前では俺が転移者であることを隠さないことにした。仲間でもあるし、俺もフィーナもそういう隠し事を続けられるとは思えない。


「えっと……このフェブラウ王国は長年隣国のギュノン帝国と国境沿いでにらみ合いを続けています。国軍が要地に出現した魔物を討伐することはありますが、基本的に魔物退治は各地の冒険者ギルド頼りです……そこまで手が回らないのと、冒険者が死んでも軍人と違って恩給を支払う必要がありませんからね……」


 後半になるにつれて小声になりながらモニカが解説してくれる。なるほどな。逆に軍を追われたような犯罪者が冒険者として活動していることもあるという。まあ俺の身分証作成もガバガバだったし。


 かといってランドタートルを放置するのはどうなんだ。国として。


 今、俺たちは鉱山の跡地に向かっている。どうして跡地かといえばかつて崩落事故を起こした現場であるからだ。俺たちはその元鉱山のアンデッド退治の依頼を受けて向かっていた。死に際に何が起こったのかわからず成仏できなかった労働者たちの成れの果てらしい。


 異世界でも成仏って言葉使うの? どうでもいいけど。


「まあアンデッド退治なんて楽勝ですよねー! こちとらシスターが仲間に加わったんですから! パパっと浄化しちゃってください!」


「うう……」


 実戦経験皆無のモニカは出発から不安そうにしている。それを察してあえてしているのか、天然なのか煽っていくフィーナ。どっちにしてもこうやって敵を作ってきたんだろうなあ。


 俺は依頼の受注時にされた説明を反芻する。


 元は金脈のある鉱山だったらしい。それが崩落事故を起こして以来放置されていたと。では何故それが再利用される運びになったのか。ランドタートルの仕業である。奴に荒らされた財政を立て直すために瓦礫を撤去し、崩落の再発防止用の結界を張ったそうだ。


 が、そこに埋まっていたアンデッドたちが活発化し再開発業者が冒険者ギルドに依頼を投げたとか。これが現時点で受注できる一番貢献度の高い依頼だった。




 そうこう考えている間に鉱山洞窟の入口に到達した。でも松明とか持ってないし、使い方も知らないんですけど。


【光源】イルミネイト!」


「あら便利」


 フィーナの手元に輝く光体が現れる。フィーナが攻撃魔法を使っているところを見たことはないが、こういう補助魔法は器用だよなあ。


 アンデッドが出てくるのは最奥地の採掘現場らしい。奥に向かい進む俺たち。


「モニカがまとめてアンデッドを浄化してくださいね! あなたが最適ですから!」


「はひっ!」


 モニカは反射的に返事をする。フィーナは平気で「五十年前」とか言い出すので年齢不詳だが、モニカは大学三年の俺より四、五歳上に見える。黙っていれば大人のお姉さん風なのにこういう小動物的なところにギャップが……あり過ぎか。


 最奥地にたどり着く直前、金属同士がぶつかり合うような音が聞こえる。


 目を細めて覗き見ると人型の骸骨がツルハシを振って金を採掘している。本当に自分たちが死んだことに気付いていないのだ。


「ではモニカさん! よろしくお願いします!」


「ひいいっ! 無理無理無理無理!」


 モニカが悲鳴を上げ座り込む。戦意喪失といったところか。まあ大体そうなると思ってた。前に進み出る俺。


「フィーナ、結界張れるか? モニカは有事の際に備えてくれ」


【防壁】バリアー! これでいいんですか!?」


 モニカはこくこくと必死で首を縦に振っている。


「相手が骨なら再生できないほどにぶっ壊せばいい! そうだろ? EX狩刃エクスカリバー!」


「おうともさ! それを成仏って呼ぶかは知らないけどな!」


 剣から返事があり、俺の手に飛び込んでくる。骸骨程度の攻撃が勇者の鎧装備の俺に通るはずもない。二人が怪我をしなければ俺の勝ちだ。


 骸骨労働者がツルハシを「仕事を邪魔するな」とばかりに振り下ろす。だがそのツルハシはEX狩刃エクスカリバーの自動迎撃によって柄から切断され攻撃は空振りに終わる。そこに蹴りを叩き込む俺。骸骨はバラバラになり倒れる。


「『殲滅形態』を許可する! やっちまえ!」


「Foo! 景気がいいねえ! できれば骨じゃなくて肉を斬りたいもんだが!」


 俺を取り囲む骸骨の群れを回転し斬り倒すEX狩刃エクスカリバー。今身体の主導権はEX狩刃エクスカリバーにある。ただ予想に反して骸骨は砕けずに溶けていく。そういえばヤバイ毒剣だった。コイツ。全部叩き折る予定だったので仕事が短くなりそうだ。


 EX狩刃エクスカリバーに操縦された俺による一方的な蹂躙はしばらく続いた。どれだけの労働者が崩落に巻き込まれたのだろうか。その痕跡は全て溶けてしまうのでわからない。


 骸骨労働者を一掃し、「殲滅形態」を解除すると結界の後ろからフィーナの叫び声がする。


「後ろにもいたのか!?」


 すぐに駆けつけようとするが結界に邪魔されて通れない。


 五体ほどの骸骨労働者がそれぞれ仕事道具を武器として構えている。


「フィーナ! 結界を解け!」


「あわわ……」


「あう、【聖輝】ホーリーシャイン!」


 モニカの持つ短い杖から眩い光が溢れだし、骸骨たちが塵と化していく。


「た、助かったあー。もっと早くしてくださいよー。マジで。でも【聖輝】ホーリーシャインが使えるってことはモニカって結構やり手だったりするんですか?」


「は、初めてモンスターを倒しました……! 震えが止まりません……!」


 フィーナに聞くと低ランクアンデッドに使う呪文は【聖光】ホーリーライトの場合が多く、【聖輝】ホーリーシャインが使えるのは少なくともBランク相当の聖職者らしい。その使い手がつい先ほどまでFランク冒険者だったのはどういうことなのか。


「戦うのとか、痛いのが本当に怖くて……」


 だそうだ。まあ俺が前に出るから大丈夫だよ。多分。




 依頼の報告を終えるとギルドの出張所にガタイのいい壮年の男が待っていた。かつてあの鉱山で働いていたとか。


「アンタたちが俺の同僚たちを成仏させてくれたんだろ? 感謝するよ」


「成仏というか蒸発……いえ、成仏しました」


 ギルドからの報酬とは別に宝石をいくつかもらった。フィーナの視線がすごいがパーティ共有の資産ということにする。


 この依頼を手始めに俺たちの快進撃は続いた。


 ビッグボア、ヴァンパイアバット、アーマードアントの群れ、隻腕のトロール、デスマンティス……これらを立て続けに撃破した俺たち「白騎士冒険団」は気が付くとBランクパーティにまで昇格していたのだった。


 ちなみにCランクが目標だったモニカは上司の司祭から「あっという間にBランクとは……俺の現役時代と同じじゃないか。行けるところまでやってみろ!」と帰還を許されなかったらしい。かわいそう。


 これで俺をバカにしたパーティと対等だ! 見てろよ!

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