第8話 別れ?
ガレセアの領主が直々に俺たちに挨拶をしたいという。だがその報が届いたのは遅い時間だったので翌日に謁見することとなった。
その夜には「祝ランドタートル打倒」の祝勝会が盛大に開かれる予定だったが、指名手配犯の二人であるので慎んでお断りする。フィーナは最後まで「ちょっとだけなら」と抵抗をやめなかったが、フィーナは絶対に言動でぼろが出るので死ぬ気で止めた。
そして俺たちは冒険者ギルドが急遽用意した宿で一夜を明かすこととなっていた。相部屋で。
「変なことしたら刺し違えてでも潰しますからね! アレを!」
「全身外れない鎧を着けたまま何ができるんだよ」
「それもそうですね。スゥ~……」
寝てしまった。切り替え早っ。
そう。いくら性格が終わっているとはいえフィーナは幾多もの冒険者をその美貌で毒沼送りにしてきたエルフ賊……いや族である。
同じ部屋で寝るとなって緊張しないといえば嘘になる。
実際なんかしたら本当にろくでもないことになるんだろうけど。
でも俺の全身を包む外れない勇者の鎧。そもそもこれがある以上何もできないんだけどね。
ちなみに催したときはどうするのか? 垂れ流しである。
これが意外とバレないもので、毒沼の水を弾いていた機構と関係があるのかは知らないがそういった汚物的なものは自動的に水分に浄化してしまうようである。臭気も。
俺が草むらでひっそり佇んでいたときは浄化された水分を地面に吸わせているということだ。
スキル「健康体」の影響で休息を取らずにも平気になった俺は、天使のような悪魔の寝顔をただ眺めるのであった。
翌朝宿の前に馬車がやって来た。領主ルドルフの使いだ。
馬車って乗ったことないんだよなあ。ワクワクするなあ。
一方で不機嫌そうなのはフィーナ。朝方になって辺りを探索し、戦利品として拾ってきた牛の頭蓋骨を被せられているからだ。金持ちの壁に飾られてるみたいなやつ。何度も言うけど指名手配犯だからね。
「もうちょっとましなものはなかったんですか!? 重いんですけど!?」
「一千万のためだと思って耐えろ」
そうこうしている間にゆるやかな坂を超えて領主の屋敷前に着く。以前の街のパスカル邸と違って中々豪奢な作りだ。これは褒賞も期待できるというもの。
領主ルドルフは髭の似合う壮年の男。イケおじってやつか。
「毎年やつに食わせる宝石や黄金を仕入れてくるのも難儀なものでね。よくやってくれた。『白騎士』ケント殿」
「いえ。私はただ民を苦しめるあの……」
「一千万ゼドルのためです!」
俺の出まかせを遮りフィーナが高らかに宣言する。美貌が売りの彼女としては領主の前で牛の頭蓋骨で顔を隠している現状が気に食わないらしい。領主に八つ当たりすんな。
苦笑する領主。俺も慌てて取り繕う。
「失敬。この者は魔導の才能はあるものの、卑しい身分の者でして……」
「ぐるる……」
「いや、こちらこそ早くランドタートル討伐の褒美をつかわすべきだった。ではこちらを」
使用人たちがいくつもの革袋を運んでくる、それはもうジャラジャラと期待させるような音が聞こえてくる。すごい量だ。まあ賠償金に使われるんだけど。
「それでは中身を失礼……」
フィーナが革袋の中身を覗き見る。あっという間に表情が曇る。
「ああー! これ、ゼドルはゼドルでも旧ゼドルじゃないですかー!」
「何か問題でも?」
「旧ゼドルは金の質が低くて今のゼドルの半分近くの価値しかないんですよ! そんなこと領主様ならご存知のはず! 謀りましたね!」
領主の前で暴れるフィーナを羽交い絞めにして取り押さえる。
「これは私の先々代領主がランドタートル討伐を成し遂げた者のために用意しておいたゼドル。その一千万ゼドルを本来冒険者ギルドを通じて支給されるものを特例的に直接渡そうというのだ。何か、問題でも?」
やられたな。この男、俺たちがわざわざギルドを通さずに高額の依頼を成し遂げたことで、何か訳ありなことを始めから察しているのだ。まあ流石によその領主殺しだとは想像もつかないだろうが。
そもそもフィーナの骨を外させない時点でそれを認めているようなものだ。これ以上抵抗を続けるとどんな難癖をつけられるかわからない。
こういう場合はモノだけ貰ってトンズラこくに限る。
「おい、旧ゼドルを換金したら賠償金に足りるか?」
「まあ半分以上は残るので足りるでしょうが、私たちの取り分が……」
小声でやり取りする俺たち。
「連れの者が失礼しました。何も問題ありません」
「…….では、こちらの銀行口座にお振込ください」
「ふん……従者は別として、よほど欲がないのか何か訳ありか……気になるな。白騎士」
二人とも顔を晒せないので会食を断り、屋敷を後にする。去り際に領主の独り言が聞こえた気がした。
草木の根本に浄化された「水」を排出していると、振り込みを終えたフィーナがどんよりとした表情で銀行から出てくる。
「賠償金の相場を支払ったら、何も残りませんでした......」
「まあ堂々と素顔を晒して歩けるだけプラマイゼロだろ、切り替えていこうぜ。お前は勇者の鎧を確保できたわけだし」
「そうでした! ちょっと私、里に戻って魔道具の技師を連れてくるので、それまでこの街にいてもらえませんか? エルフの里は部外者に位置を悟られてはならないので」
そう。これまで色々あって忘れかけていたが、この呪いの装備を外すことも旅の目的の一部だった。
「別にいいよ。なんか英雄扱いされて悪い気はしないし、冒険者ギルドで日銭でも稼いでるって」
二人でそうやって話していると、目の前に貼ってある似てない御触書の内容が自然に変わっていく。
「ベズゼスン領主パスカル。死因は病死と判明。指名手配は取り下げる」
反応早っ! それで雑!
「これで大手を振って里に帰れるってもんですよ! 逃げないでくださいね! しばらくのお別れです!」
「ああ! 気をつけろよ!」
中々に危ないやつだったがこうやって別れると名残惜しいものがあるなあ。
そうして別れた五分ほど後、フィーナが泣きながら帰ってきた。
「ど、どうしたフィーナ! お前は強い子だろう!」
「……追放されました」
「え?」
俺はただ聞き返すことしかできない。……もしかして?
「エルフの里を追放ざれぢゃいまじだあああ」
指名手配の件でエルフ側も色々調べたんだろうか。それで今までの悪行がバレた上での措置か。狼狽えながらもエルフ族がみんなこんな感じじゃないことがわかって少し安心する。
安心してる場合じゃないよ。どうすんだこの鎧。
フィーナをなだめつつ、俺は漠然とした不安に苛まれるのだった。
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