第7話 対決ランドタートル
フィーナの秘策。それは地脈の破壊。
ちみゃく? 何それ。風水?
「ちみゃくってなあに?」
「地脈は大地に根差す魔力の流れが形を成したものです。簡単な魔法は自身の体内の魔力で行使しますが、大規模な術式や高位の魔術士は大気や地脈から魔力を得て魔法を行使します」
「むーん……」
だがそんなものを壊してしまっていいものなのか? 環境破壊というものではなかろうか?
「なんでちみゃくをこわすことがかめさんのこうりゃくにつながるんですか?」
「もうギブアップですか!? よく見てください。あんな荒れ地に巨大なカメが一匹、餌が必要で動き回るのなら危険すぎてとっくに国軍に討たれていますよ。それが依頼ごと放置されている理由。わかりますか?」
「無害……餌がいらないから?」
確かにカメって草とか食べてるイメージがある。じゃあなんで餌がいらないのか?
「そうです。あのランドタートルは地脈から得た魔力で生存しているんです。なのでこの辺りの地脈を片っ端から潰してぶっころし……倒します!」
少年漫画で直接的に「殺す」って使えないからごまかすやつだ。
フィーナよ、今さら取り繕っても遅い。
フィーナの用意してきた地図に地脈のマークをしてその地点に向かう。
「ランドタートルに繋がる地脈を全部破壊して悪いこととかってないの?」
「ないでしょう。現時点でランドタートルが独占してしまっているんですから」
フィーナの意見にそれもそうかと納得する。と同時に新たな疑問が湧き出てくる。
「生命線を断たれたランドタートルが大暴れをする可能性は?」
「ない……と思いますけど。多分……うん、巨大化し過ぎて動くこともままならないでしょう!」
怪しいな~。街が潰滅でもしたら領主殺しどころじゃない大罪人になってしまうぞ。
「まあ、やってみるか……」
他に手段がないのでフィーナに言われる通りに地脈に
あっという間に周囲は毒沼と似た地形となる。フィーナさん、後の事とか考えてますか?
荒野の地脈ポイントを毒沼に変えていくだけの簡単なお仕事が続く。
「あっランドタートルに反応がありました! 叩いちゃってください!」
「え? 地脈を潰せば勝手に死ぬんじゃないの?」
「だーれがそんなこと言いましたか!? 無尽蔵の魔力供給を断ち切ったからこのタイミングでケントさんがビシッと叩き斬るんでしょうが!」
やっぱりそうなるの? 岩山だよ? 剣と魔法とかじゃなくて爆撃するレベルのサイズだろ。
「……勇者の鎧に選ばれし者よ。我が治める地脈に何をした」
「しゃべった!」
ランドタートルが身体中に響くような声で語りかけてくる。彼? は悠然と立ち上がり、こちらを見据えている。ていうかカラチェンしたのに勇者の鎧ってわかるんだ。
「我は忌々しいあの先代勇者アーサーに封印され、ここらの地脈は我が管理することになっておる。何故ならこの地は五十年ほど前から異常が起こっておるのでな」
「地脈の異常って? 確かにこの辺りの地脈は異常な数が集中してますけど……」
「エルフの娘よ。貴様の言う通りだ。突然湧き始めたこの地脈、放置すれば魔力が暴発しかねん。ガレセアの街に影響を及ぼすほどにな。そしてそれを盾に宝石や黄金を納めさせておるわけだ。フン、腐れアーサーめが消えて清々しておるわ」
何だよ。ランドタートルクッソゲスじゃん。フィーナくらい。要は災害で金ヅルを潰さないように異常な地脈を管理してたわけだろ? まあその地脈、全部潰しちゃったけどね。
「その地脈、あらかた潰しちゃったんですけど。話的にランドタートルさんはどうなるんですか?」
「なんと!? 新たな勇者がたわけ者で感謝するぞ! これで我も封印から解かれ自由になるというもの! 暫し待たれよ。地脈の確認をしてみるのでな」
あ、なんとなく流れが見えてきた。
「この地脈の力を我が血肉にする! 潰れた地脈とはいえ有効活用すれば我の新たな力に……ヴォエ!」
ずしんとランドタートルが倒れる。地脈を汚染した毒を一気に吸収してしまったのだろう。悪気はなかった。でもカメさんも悪者ムーブが過ぎるからしょうがないね。
「貴様ら……かつてアーサーと渡り合ったこの我を毒などで殺そうとするとは、おのれ生かしてはおけぬ!」
目から血の涙を流すランドタートルの口に光が収束していく。ビーム? ビームって剣で斬れると思いますか?
「毒追加」
「はい」
フィーナの指示で再び地面に
「ヴォエエエ!」
苦しむランドタートルの口元の光が霧散する。そのままランドタートルは動かなくなり、その表面は干からびているように見えた。
「毒だけで死んだね……」
「ほんと怖いです! 特に
「……」
いや、なんか元々が病弱だっただけに魔物とはいえ健常な存在を毒殺するのはちょっと……ねえ?
かくして俺たちは災害級の魔物こと「ランドタートル」の討伐に成功した。
「あのー、受注はしていないんですけど偶然ランドタートルとかいう? 岩のカメ殺しちゃったんですけど、問題あったりします?」
「へえっ……!?」
受付嬢が間の抜けた声を上げる。出張所に詰めかけた冒険者たちが騒然となる。
毒でもろくなったカメの甲羅の一部を浄化した上で持参し、カウンターに置く。
「し、至急確認のための冒険者を向かわせますので!」
「あー『毒耐性』のある冒険者がいいかもしれません。あのカメ、死に際に毒をそこら中にまき散らしたので」
「了解いたしました!」
あとはガレセアの領主の反応を待って、べルゼスンの新領主に詫びを入れれば解決だ。
しばらく好奇の視線に晒されながら冒険者ギルドの出張所で待っていると、向かわせた冒険者が顔色を悪くしながら帰ってきた。フィーナは顔を隠すためにずっと壁と向かい合っている。
「おえ……確かに死んでいたが、毒がすごい……ランドタートル、地震を起こすだけでなく毒沼まで作り上げるとは……」
「流れ者なので存じ上げませんが、ガレセアの地震というのは定期的に起きるものなのですか?」
つい俺は帰ってきた冒険者に質問してしまう。
「ええ。やつが起こす地震のせいでガレセアは今一つ栄えませんでしてね。貢物も要求するしホントクソでしたよ。この度はありがとうございました」
それが地脈の管理だったんだわ。きっと定期的に地震としてエネルギーを発散してたんだ。ランドタートルがゲス野郎なのには変わりないけど。
「白騎士万歳! 白騎士万歳! 白騎士万歳!」
俺の新たな鎧の色から「白騎士」とあだ名を付け盛り上がる冒険者たち。
「いやあ口ほどにもないやつでしたね」
俺は兜越しにドヤ顔でそう言うのだった。
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