第2話 呪いの装備とすごそうな剣
感覚にして数日歩き続けたが、身体が疲れる様子がない。ポケットに忍ばせた非常食の毒ガエルの足を噛みながら俺は考える。
もしかしてこの「健康体」というスキル、常に「健康体」である故に疲れないのでは?
そう考えるとただのハズレスキルではない気がしてきた。これなら不眠不休で働け……働きたくねぇ~。
次第に俺が目的としていた建造物の全容が見えてくるが、家じゃなかった。
それは毒沼に斃れた巨大生物の骨。
はあ~ハズレじゃん。俺の飯は?
眼前にあるのはトカゲがそのまま巨大化したような骨格と翼状の骨。ドラゴン?
そしてその頭部を踏みつけるように一人の鎧姿の人物が立っていた。
「すいまっせ~ん!」
返事はない。勝利の余韻に浸っているのかもしれない。何が即死級の毒沼だよ。いるところにはいるじゃんか。
「お~い!」
俺が近づいてもその人物は反応を示さない。そして顔が兜で覆われているため表情が読み取れない。
結局俺が真横に立っても鎧マンは無反応だった。
「あの、食べ物ください! まともな!」
「……」
「ちょっと無視しないでくださいよ!」
鎧マンは骨ドラゴン(仮称)の頭部に宝石で装飾のされた豪奢な剣を突き立て、その頭部に足を乗せたままだ。
「もしかして……」
俺は鎧マンを軽く突いてみる。ガラガラと音を立てて鎧がバラバラに外れた。
中から出てくるのは人骨。ドラゴンも鎧マンもとっくに死んでいたのだ。
まあ。こんなもんか。
誰に見られていたわけではないが、なんとなく気まずい空気に陥る俺。何故なら死体に一生懸命話しかけてたから。
「待てよ……?」
俺はあることを試してみたくなる。この鎧、身に着けられないものか。
だってカッコいいし。漆黒を基調とした全身を覆う鎧。毒沼の瘴気で紫色になったマントもどこか良さげな雰囲気。
初めての鎧装着タイムに突入する。どうせ毒沼に投棄されていたようなものだ。いっぺん着てみるくらいなら罰は当たらないだろう。
籠手を手にはめようとすると勝手に鎧の各部位が俺の身体に吸いついていく。え?
飛来してくる兜は抵抗の末はたき落とす。相手が骨でも死体の入ってた兜を直で被るのには抵抗があった。
だが残りの部位は外そうとしても外れる気配がない。なんで?
もしかしてこれ、呪いの装備? 俺なんかやられちゃいました?
あーあ。最近のゲームはここまでの取り返しのつかない要素はないからつい。
しっかり罰が当たった。ヤケクソ気味にドラゴンの目に突き立てられた剣を引き抜いて鞘に収める。迷惑料だろこんなの。まあ元は俺が悪いんだけど。
「呪いの装備て。そんなん自爆機能みたいなのを付けておけよ」
思わず悪態をつく俺。
そうしてガシャガシャと音を立てながら元来た沼を戻り始める。鎧自体に浄化的な機能があるみたいで、毒沼を歩いていてもピカピカだ。
当面の目標は沼を抜けることだ。鎧を着ていても疲労感はない。「健康体」ってすごいわ。でも転生ボーナス「剣聖」持ちとかにかち合ったら秒殺されるだろうな。
まずはこの世界で生き延びる術を考えなければならない。
カエルを狩り続け一週間近く歩き続けただろうか。ようやく沼の外らしい景色が見えてきた。木々の色が段々と毒沼のものから、青々とした緑のものになる。葉っぱの色で感動したのは初めてかもしれない。
そして何日目かの夜に沼の出口に到達。
「やったー!」
「何者ですか!?」
お前が何者だよ。こんな毒沼の入口で。と反射的に言いかけた瞬間。
俺は相手の美貌に息を飲んだ。金髪、というには色の薄いプラチナブロンドの髪に透き通るような白い肌。エメラルド色の大きな瞳に尖った耳が特徴的だ。
「もしや、あなた……! あなた様は……勇者様!?」
「いえ……」
「……」
気まずい。特に勇者とやらの装備が脱げなくなったと説明するのがとても。なので聞かれるまで後回しにする。
「でも勇者様の装備を身に着けているということは、ようやく私も里に帰れるんですね! ドワーフが鍛え、エルフたちが精霊の加護を施したその特注装備! 必ずや取り戻せと言われ五十年。そろそろバックレようかと思っていましたが、ようやく! まあ、たまに毒耐性のある冒険者を送り込む以外は何もしていませんでしたが! 果報は寝て待てとはこのことですね! 任期は百年だったので残りの半分は遊んでしまいましょう!」
あまりの勢いでまくしたてる美貌の持ち主に、俺のときめきはどこか醒めてしまった。
「飯あります?」
俺を特別な存在だと勘違いしているエルフっぽい女は干し肉をくれた。エルフっていたんだ。
犯罪的だ……! 美味すぎる……!
「私はフィーナと申します。あなた様は?」
咄嗟に轟健人と名乗ろうとして考え直す。なんか異世界で「トドロキ」って違和感がありすぎる。あと「トド」とかあだ名が付いたら嫌だ。小学生のときそう呼ばれたことがあったから。
「俺はケント」
これならいいだろう。
「でもケント様はどうやってこの毒沼を攻略なさったのですか? 五十年前ヴェノムドラゴンが死に際に大量の毒をまき散らしてからはここは死の領域と化していましたのに」
俺が腰に差したすごそうな剣の鞘をペタペタと触りながらフィーナが問いかけてくる。
「歩いて」
「歩いて!?」
うーん。結局ここは転移のあらましから話さなければなるまい。
「そんな……毒ガエルを食べて……? おえっ」
「なんなら手持ちの残りを食ってみせようか? 言った通り俺はどんな時でも『健康体』だから」
「遠慮します……」
心底嫌そうに俺の申し出を拒絶するフィーナ。
「でもケント様。転移者であることはあまり大っぴらにしない方がいいかもしれませんよ?」
「なんでさ。俺なんかが選ばれるくらいだしポンポン来るんだろ? 転移者」
「いいえ。転移者は絶大な力をもつが故に必ずしもこの世界に益だけをもたらすだけとは限りません。なので転移者を狙う暗殺組織もあるとか、ないとか……」
どっちだよ。
「それはスキルが『健康体』しかなくても?」
「はい。先日もそれらしい遺体が発見されたそうですよ? 『鉄拳』のヒジリとかいうお方……」
すごく転移者っぽい。だって名前的に日本人じゃん。ええ? 転移者って狩られるの? じゃあ「健康体」なんかじゃなくて「スーパー無双」とかにすればよかった。
でも俺には勇者の鎧がある! あとすごそうな剣も! 大丈夫だろ! 多分! おそらく! きっと!
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