健康剣豪、不正々堂々と悪を斬る~ハズレスキルのはずだった『健康体』の力で毒に侵された聖剣を振るい俺は異世界で無双する~
犬飼風
第一章 健康剣豪、異世界に立つ
第1話 病弱大学生、自らハズレスキルを引く
異世界転移して三日、転移先だった毒沼の至る所にいる毒ガエルを生で食い散らかす俺。
カエルは鶏肉みたいな味とかいうけどこれは普通に苦い味がする。だって毒ガエルだから。
元々腹が弱かった俺だが毒に侵される心配はない。何故なら俺の転移ボーナスは「健康体」なので。
何故こうなったのか。俺が一番聞きたい。
事の発端は……「健康になりたいな」って思ったこと。
車が三つの轟に健康な人。
それで「轟 健人」(とどろき けんと)と読む。俺の名前だ。なんだか豪快で、スポーツマンみたいな名前だと自分でも思う。でも逆上がりもできないほどの運動神経。スキップはギリギリできる。
現実は原因不明の奇病で入院中。病名もまだわからない。ただなんとなく腹が痛いし血便が出る。轟家は先祖代々腸が弱いので遺伝かな。元々病弱なため何度目の入院かわからない。ああまたか。となんとなく流されるように目の前のことを受け入れてしまう性格になった気がする。
どことなく医者が優しいのは不安。だが現実の方はあまり優しくない。
いつまでも病名がわからないし、入院生活の支えになっていた配信者は炎上して燃え尽きた。
あと俺がダラダラ横になっている間に課金していたソシャゲがサ終宣言。さらに言えば気になっていた大学の女の子に彼氏ができたらしい。
入院してる間ろくなことがない。マジで。
「早く退院させてくれないかな~」
消灯の時間だ。せめて夢だけはいい思いをさせてくれ。俺は布団に潜り込んだ。
目が覚めると俺は病院の空高くにベッドごと浮遊していた。なんだ夢か。
「おい人間。寝るな。おい! わたしはフリン、こちら側の転移を担当する者。どうやらお前は転移者として選ばれたみたいだ。理由は聞くなわからん」
声の主の姿は無い。なんだ夢か。
と次の瞬間俺の全身を貫くような痛みが俺を襲う。よくない夢だこれ。
「ってえ! 何すんだよ!」
「フン、わたしを無視するからだ。それで転移するのかしないのか、一応お前には選ぶ権利があるが?」
転移? あんまりそういうアニメは見たことないんだけどな。
「しないけど……」
嫌な夢に突入されても困る。ハッキリと断る俺。断れる日本人。
「じゃあお前、もうすぐ死ぬけど。それでいいなら」
女の声に俺は驚く。何? 守護霊? これってスピリチュアルな感じのやつ? もしかして小学生の頃死んじゃった柴犬のペロ!? いやあいつはオスだったわ。
「お前このままだとマジで死ぬけど」
「じゃあ転移します」
即決した。夢の中とはいえ死ぬのはなんとなく怖いからだ。だってそうじゃん。あと脳に悪そう。
「ああそう? じゃあ転移ボーナスとして何が欲しいか言ってみ」
ボーナス? 目が覚めたらそれが現実になってたりしたらいいよなあ。
「そうだなあ。健康に生きたいね。今まで病気ばっかしてきたから」
なんとなく目前の悩みを声の主、フリンにぶつけてみる。言うだけならタダというもの。
「あっそ。じゃあそれで」
次の瞬間俺の視界がグルグルと回転し、上空にいるのか、ベッドの上なのかわからなくなる。吐き気がして、段々息苦しくなってくる。
自分がどこにいるのかわからない。
「ゴボォ!」
全身が水に浸かっているのを理解する前に、息苦しさから反射的に俺は身を起こした。
「ゲホッ! ゲホッ!」
危うくこの水深三十センチほどの水の中で溺れるところだった。しかもこの水。恐ろしいほどに苦い。そして色は毒々しい紫色。近所のドブ川だってこんな色してないぞ。
一面に広がる紫色の沼。俺はそこにいた。臭い!
「なんだここ……ゲームの『毒沼』マップ? みたいだ」
「そうですそうです! ご理解が早い!」
またしても空間から直接俺の脳裏に声が聞こえる。出たよペロの偽物!
「フリン?」
「それはあっち側の管理者ですね! 大丈夫ですか? わたしはこっち側の転移担当のエリンと申します! ええと。取得スキルは……『健康体』? なんでわざわざそんなものを……? いいえ。そのおかげで貴重な転移者を失わずに済みました」
とりあえず俺はこの状況を問い質す。わかったのはここが通常であれば即死級の毒沼であること。転移時に取得した「健康体」のスキルのおかげで毒に侵されずにすんだということ。便利じゃん「健康体」とやら。
「なんで俺は毒沼なんかに?」
「すみません。ミスりました」
「おい!」
その転移担当とやらの適当さ加減に思わず大きな声が出る。
「でも『健康体』のおかげで無事じゃないですかあ~」
それもそうだ。病気も治っているように感じる。「健康体」万歳。例え夢の中だとしても。
「いやあ病気も治ったし、元々の病気も治ったってことだろ? これが現実ならなあ!」
「現実ですよ?」
「は?」
俺は即座に問い返す。毒沼に一人放り出されているこの状況が現実であるものか。やめてよ。
「だって病気も治ってるじゃないですか。『転移者基本ギフト』にある『剛力』や『俊敏』、『意思疎通』などなど実感してるじゃないですか? あと、『元気』とか……」
え? これ、現実なの? あと最後の元気って何? なんで小声で言うの?
「いやあ。実は基本ギフトの『元気』って元の病気が治るんです。転移者が自由に活動できるようにって」
「え? じゃあ『健康体』と『元気』って被り?」
「まあ、細かい部分は違いますけど……」
その「元気」だけで十分だったんだけど! 「健康体」とか取っちゃったよ! ゲームで頑張って使えない技を覚えちゃった時の気分だよ!
「ハズレオブハズレスキルじゃねーかよ!」
思わず大声で叫んでしまう。何故なら段々とこれが現実、もしくは抜け出せない夢のようなものだと理解してきたからだ。こんなにハッキリとした夢は見たことがない。
「そんなことありませんよう。おかげで毒沼も『健康体』で無事ですし」
「お前がミスるからだろうが!」
「はい~……」
ちなみに望めば「剣聖」や「極魔術」「神弓」などのスキルもあったという。
「いや、知るわけないじゃん。特に『神弓』」
「フリンさんはあんな調子で適当ですから……じゃあわたしもここらで失礼します。インストラクション終了ということで」
「なんも教わってねーよ!」
心からの叫びをエリンは無視する。なんだこいつら。
「では、多くの人を助けてください。それがあなたの力となるでしょう。それでは」
ふわっとしたことを言うとエリンの声がしなくなった。ふざけんなよこいつら。
その「毒沼」とやらに浸かってしばらく経ったが身体に異変はない。だが、段々と飢えと渇きが俺に忍び寄ってくる。
目に見える範囲の水分は「毒沼」のもの。そして食料は環境に適応した毒ガエルのみ。
病気には慣れている俺だったが、自ら地雷に飛び込むのはとても勇気がいる。
俺は覚悟を決めた。
「慣れって怖いなあ」
俺はズビズビと沼の水をすすり、カエルを食べるようになった。どうやら本当に異世界転移をしてしまったようだ。「健康体」スキルの影響で何を食おうが最早体に何の影響もないからだ。腹の調子も悪くないが、ゲロほど不味いのは事実。
「遠くのあそこにある家みたいな建物? 気になるなあ。食い物分けてくれないかなあ」
少しでもマシな飯のために俺は立ち上がった。服が患者衣でなく普段着なところだけは気が利いているというものだ。
遠くに見える建造物を目指した俺は、ぐじゅぐじゅとした足元を踏みしめて歩き出した。
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