第10話 欠陥品執事
人造人間にとって重大な欠陥……それは、感情。怒り、苦しみ、喜び、悲しみ…人間の感じる様々な感情を感じる事があってはならない。何故ならば、本来人々の負担を減らそうと造られた存在が其れを感じてしまった場合、役目を果たさなくなるからである
「執事様」
「はい」
お夕食を済ませたお嬢様とアクア様の食器をキッチンへと運んでいる途中、少し嗄れた声がかけられる。白髪混じりの頭に顎に髭を蓄えた、燕尾服の御老人がそこには立っていた。彼はアクア様お付の執事…セバスチャンと呼ばれていた
「どうなさいましたか?……片付けでしたら私一人で事足りますので、皆様はお2人のお傍に」
「坊ちゃんが何か失礼をしたのではと思いましてお声掛けさせて頂きました」
こちらの言葉を遮って彼はそう言う。人間というものは、このような事を言った場合…大抵は全て分かった上で声をかけてきている。誤魔化したとしてもまた後日謝罪を受けるだけだ
「お気になさらず。事実を教えられただけです。子供の探究心というものは素晴らしいですね」
「……やはり…」
「あの方が本当は優しい方なのは存じております。性格故に誤解されやすいですが……本気で人が嫌がる事は決してなさらない。貴方が心配している様に、多少脅しをかけられました……ですがそれは本気ではなく冗談だったのは分かってますので」
あの子供は悪くは無い。笑顔で言うが彼の表情は曇ったまま……これ以上、一体どうしろという。悪いのは彼だと責め立てたらいいのか?……いいえ、そんな筈はないでしょう?なのにその顔はなんだ……此方を哀れんでいるとしか思えない
「…貴方がもしそれ以上踏み込んで来ると仰るのであれば、私も出方を変えなければなりません」
であればと、直球で言えば彼は謝罪と共に慌てて頭を下げ、足早に立ち去った。私はその背を見送って小さく息を吐き、再びキッチンへと足を向ける。数分した後に到着したキッチンで食器を洗い、食後のデザートを用意する
「……プリンアラモードでも、作りましょうか」
先程言った言葉……アレは本当の事だ。あの少年がもし本当に性格の悪い御曹司ならば、私の作った料理を完食したりなどしない。ましてや美味しかった、などと口が裂けても言わないでしょう…良い子なのだ、本当に……けれどだからこそ、やり方を間違えてしまう。素直故に…優しいが故に…他人を傷付けている事にも気が付かない
『さっさと出て行けよクソ執事』
アレが私に向けられている間は構わない。お嬢様を思っての言葉だ、理解はしている。だがもし、万が一にでも…あの子供の歪んだ優しさがお嬢様を傷付けてしまう事があったならば
私はきっと他の試作品達同様、失敗作と成り下がるだろう
執事に恋したお嬢様と愛の重たい執事 アオツキ @dearjfan
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