二章
第8話 いけ好かない クソ執事
リリー……リリネット・グレイス、彼女は
お父様とお母様は反対してるけど、親の了承なんて必要ない。当人達の問題なんだから……リリーだって、昔からずっと「アクアは本当に可愛らしい子、いい子ね、おいで」って言っててオレの事大好きだし、オレが大きくなったら結婚してくれるか聞いたら「良いですわよ」って笑って頷いてくれた。だから婚約者なんだ、従姉弟だけど、結婚は出来る。まだオレは14歳だけど…
……けどそんな愛しのリリーに会いに来たのに、コイツが居るんだからたまったもんじゃない
「…何か、ご用でしょうか、アクア様」
「お前がサボってないか見てるだけだ」
「左様でしたか」
リリーの執事…コイツだ。コイツが本当に邪魔なんだ。白い肌に映える艶のある黒い髪は右が少し長めに伸びていて、左側の髪を耳にかけている。蒼い瞳はやや吊り気味で吸い込まれそうな程に美しく、口元は優しく弧を描いている…九年前からこれっぽっちも変わってない
「意外でしたね。私の仕事をご覧になるよりも貴方様はお嬢様のお傍に居るものかと」
「フン…リリーはウチのメイドと楽しそうに話してるんだ、邪魔したくない」
ご丁寧な口調で話しながら、微かに瞼を伏せたソイツはグラスを拭いている。オレの邸には使用人が数多いるのに、リリーの元にはこいつ1人だけ……でもそれで事足りてるんだから、本当に腹が立つ。憎たらしい程に出来た執事だ…"欠陥品”のくせに
「…お前、何時までリリーの傍に居るつもりだ」
「何時まで…とは?質問の意味が良く分かりません。私はお嬢様の執事、お嬢様が求める限りはお傍を離れるつもりはありませんが」
「さっさと新しい使用人でも雇ってお前は失せろ」
「私1人で事足りているのに、何故新しい使用人を雇う必要があるのですか」
「お前じゃなくても使える使用人達はいくらでも居る、金はあるだろ、雇え。その方がリリーの為になる」
「雇う必要はございません。私1人で事足ります」
幾ら言っても、この執事は頑なに意見を聞き入れない
「…ならリリーはオレの家に連れて行く」
「………何故」
「当然だ、”お前みたいな奴"の傍に、愛しい婚約者を置いておけるか」
結婚したら連れ帰る、そう言えば執事はピタリと動きを止めた。拭いていたグラスを戸棚置き、パタンと扉を閉める
「…お嬢様の家は此処です。結婚するのは自由ですが、それならば貴方様が此方にいらしてください」
「イヤだね」
「そうですか……然しながらアクア様、聞けばお嬢様は貴方様を婚約者とは見ていないようですが、その件についてはどうお考えですか」
「…それは……それは、まだオレが子供だからだ。もう少ししたら背も伸びるし、リリーだって」
「自分の事を好きになるに決まってる……とでも言いたいのですか?…申し訳ございませんが、それは無いかと」
「……なんだと」
「お嬢様が18歳になられてから今日まで1753回、私はあの方からアプローチを受けております。幾度断ってもめげる事無く、婚姻届にサインを書けと仰るのです」
そう言って、執事はオレを振り向いた。外していた白手袋を嵌めながら……口元には相変わらず笑が浮かんでいるが、その瞳にはさっきまでの優しさは微塵もない。冷たい蒼瞳が、オレを捉えて離さない
「……所詮は、幼少期の口約束。例えお嬢様が貴方様に惚れたとしても、あの方は私を必要とする。勘違いしている様なのでお教えしましょう。お嬢様の方が、私から離れられないのですよ」
「…自慢のつもりか…!」
「いいえ、夢を見ている貴方に現実を突き付けているだけです」
「ハ…ハハッ、夢を見てる、だと?このオレが?…夢を見てるのはお前の方だろ…!人間のフリをしてる
オレは知っている。コイツが人間では無いことを…
「………ほぅ」
刹那、酷く冷たい声が聞こえたかと思えば…目の前の執事は、恐ろしい程に穏やかな笑顔を浮かべオレを見下ろした
「アクア・グレイス。お前は其れを何処で知った」
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