第6話 そういうところなのです お嬢様


パチン、パチンと規則正しい音が薄暗い空に消えていく。薔薇の木を整たこの後は、お嬢様を起こす迄に朝食の支度を終えなければ…



「……ふぅ」



朝日が登り始めた。そろそろ止めてキッチンへ行かなければならない。梯子と鋏を倉庫へ片付け、鍵を閉めて…服の汚れを落としてから邸の中へ。嵌めていた白手袋は捨て、部屋の箪笥から新しいものを出す





「さて、今朝の食事は何にしましょうか」





昨夜の出来事が余程恐ろしかったのか…お嬢様は遅くまで泣いていた。酒の影響もあり喉を痛めている事でしょう。喉と…それから胃にも優しいものをご用意するとしよう。キッチンへ向かい、手を洗い消毒をしてから料理を始める







この邸に、私以外の使用人は居ない。料理人も庭師も、家庭教師もメイドも、門番もSDも居ないのは…全て私1人で事足りる為である。数が多ければ良いという訳では無いのだ、寧ろ多ければ多いほど危険は大きい



















料理を終えたら次はお嬢様を起こしに向かう。赤を主張するカーペットの廊下を歩き、お嬢様の就寝なさっている部屋に到着したら、3度叩いてドアを開ける。部屋に入ってすぐ「お嬢様、おはようございます」と声を掛けるが彼女がこれだけで起きる事は無い




「お嬢様、起床のお時間です」




ベッドの横に歩み、寝息をたてるお嬢様の肩を優しく叩く。その後にすぐカーテンを開ければ、彼女は小さく唸り目を開けた



「……まだ眠たいわ…」



「おはようございます、お嬢様。起床のお時間です」



まだ眠いと駄々をこね毛布を掛け直すお嬢様だが、私は容赦なくソレを引き剥がす。「なにするのよー!」とかすれた声で叫ぶお嬢様の言葉をあしらい上体を起こさせて髪を整える



「本日の予定ですが、朝食の後にヴァイオリンとピアノのレッスン……お嬢様の苦手な舞踏のレッスンは昼食前になります」



「…レッスンばっかりね」



「午後からは射撃訓練、それから剣術を少々」



「…午後は更に憂鬱……お茶会とか無いのかしら」



「本日のお茶会のご予定は御座いません」



「今度からいれておいてちょうだい」



「畏まりました。然しお嬢様、お呼びする他の御令嬢が……お嬢様はお友達が居りませんので」





1人でするお茶会は最早茶会とは言わない。私の言葉を聞いた彼女は手元にあった枕を掴み此方に腕を振り上げる。其れを受け止め「事実です」と言えば彼女は今にも泣き出しそうな顔で此方を振り返った






「…今日はレッスン止めてお友達を作りに行くわよ!」




「畏まりました。では予定を全て明日に回します……然しお嬢様」




「何よ!」




「今日だけでお友達を作るのは無理です」




「なんでよ!」




「では少々練習を致しましょうか。お嬢様がお友達になりたい相手が私だとして……貴女様は何と声をおかけしますか?」




「そんなの決まってるでしょう?……私とお友達になりなさい!それから執事は婚姻届にサインを」





「はい、やはり無理です。そしてお断りします」






胸を張ってお答えなさったお嬢様……何でよ、と頬を膨らませていますが、私はやはり無理だと思いますよ

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