第5話 かしこまりました お嬢様
「執事のバカぁぁあ!」
「お嬢様」
「なんれ……もっと早く助けてくれなかっらのよぉお!!」
呂律の回っていない口で、ワーと泣き声をあげ文句を垂れソファに寝そべっているお嬢様。折角セットした髪もお召し物も乱れており、手首は微かに赤くなっていた。それもこれも数分前、お嬢様が何処かの家の子息に組み敷かれた事が発端である
「ア、ラシっ……こあかったんらからぁあ!」
「えぇ、ですが私は止めましたよ。これ以上の飲酒はお止めください、お控えくださいと」
「……ぅう」
「ただでさえ非力な女性が酔った所を男による暴行を受ける、という事件は後を絶ちません。お嬢様も例外ではないのです。その恐ろしさをたった今、身をもって経験したでしょう」
名家の集まるパーティー会場だから有り得ない、なんて事はないのです。この会場にいる誰もが人間である以上、間違いは犯す…酒が入れば尚の事。幾ら平時の行いが素晴らしくとも、酒は全てを狂わせる。現にこのお嬢様も、みっともない格好をしてますしね………無論、あの男はこれから先、御曹司としては生きていけないようにはしましたが
「……ごめんなさい…」
「分かって下さったなら良いのです。私こそ助けに入るのが遅くなってしまい申し訳ございませんでした」
肩を落とし謝罪を述べたお嬢様にほんの少しだけ罪悪感が芽生え、とりあえず謝っておく。勿論助けが遅れたのはわざとですが……自業自得とはいえ怖い思いをさせてしまったのは事実ですし
「…もう帰る…」
「畏まりました。では迎えの車を表に着かせますので、少々お待ちください」
「…執事」
此処は会場から少し離れた廊下……言わずもがな人通りは少なく、1度会場へ戻らなければならない。乱れた燕尾服を素早く直し言うが、お嬢様の手が遠慮がちに私の袖を掴む
「はい、なんでしょう?」
「………そばにいなさい」
振り返れば、彼女は眉を下げたまま仰った。お嬢様がこの表情をしている時…如何なる理由があろうとも断ってはならない。それは、承知している
「畏まりました。然し会場に戻らなければ車を回しては貰えません。ですので少し失礼します」
1つ頭を下げ、ソファの上のお嬢様の膝裏へ手を回す。そのまま逆の手を背中へ回し抱き上げれば彼女は目を瞬かせた
…お顔が先程よりも赤くなられているのは、酒が回っているせいとしておきましょう
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