第32話 決闘(3)
ミドリのやつ、やっぱり上手いな。格上の相手でもきっちりパリィできている。
まあ、あんな大きくて重そうな剣だと、ミドリもタイミング合わせやすいんだろうけどな。
俺の方もなかなか順調だ。
ステータスパネルの操作を妨害できるのは収穫だったな。今後も使えそうだ。
あとヴァンパイアナイフがヤバすぎた。
【エナジードレイン(小)】の効果『刃に触れた相手のHP0.1%分のダメージを与える』。
この割合ダメージが優秀だ。特に硬い相手と相性が良い。
ヴァンパイアナイフの刃を相手に当てるだけでダメが入る。
1回あたりのダメージは微量だが、どんな硬い相手でも1000回ヒットすればHPをゼロにできる計算だ。
さてと、そろそろケリをつけないとな。けど油断すると危険だ。
さっきシールドバッシュを危うくもらいそうになったんだよな。
直撃する瞬間、身体をねじって腕と足で防御できなかったらスタンしてた可能性がある。防御したとはいえ、走って壁に激突したような衝撃だった。
防御ミスると大怪我するかもな……
そういえば盾から出てる火のダメージは覚悟していたけど、何も無かったんだよな。まさか見た目だけの効果ってことは無いだろうから、後でアオイに聞いてみるか。
さてと、どう攻めるか……コツコツとエナジードレインで削るのもいいんだけど、正直面倒くさい。
フルアーマーのせいで急所は塞がれているけど、関節は一部鎧で隠せてない箇所がある。そこは狙えそうだな。
俺は小さなステップを刻みながら、フルアーマーの男に駆け寄る。
まずは武器を封じる。
横に振り抜いてきたミスリルソードに合わせて、【瞬足】で相手の背後に回り込む。そして右肘内側の鎧の隙間をヴァンパイアナイフで斬りつけた。すると狙い通り、相手の右腕がぶらんと垂れ下がる。
「なっ! 右腕が動かない!?」
ん? 焦ってるというより驚いてる?
もしかして、身体の一部だけ麻痺するみたいなことって普通無いのか?
まあ、いいや。俺はそのまま相手の膝裏もヴァンパイアナイフで斬りつけると、鎧男は両膝から崩れるように地面に倒れた。
無力化成功。これで後は、鎧の隙間をひたすら刺し続ければ終わりだな。
グサッ、グサッ、グサッ……
「ちょ、ちょっと、一体何が起きてるんですか~」
グサッ、グサッ、グサッ……
「悲しいけどこれ決闘なのよね」
グサッ、グサッ、グサッ……
「……へ? 何それどこかで聞いてことある台詞って——」
鎧男は言い終わる前に光の粒となって消えていった。
「レベルが上がりました」
「レベルが上がりました」
「レベルが上がりました」
「レベルが上がりました」
「レベルが上がりました」
「レベルが上がりました」
え……マジか?
美味しすぎるだろ。
やっぱりモンスターよりもプレイヤーなのか……って、いやいやこの考えはダメだ。
『テンマ! そんなことより、ミドリは放っておいていいの?』
あっ、興奮して我を忘れてノルンに怒られてしまった。
ミドリの方は終わったかな?
◇
「ふ、ふざけんな! これでゲームを始めて二日目とか、俺を騙しやがったなっ!」
うーん、圧倒的にミドリが優先なんだけど、カカシはダメージを受けると距離を空けポーションで回復するのを繰り返していた。
これはポーションが無くなるまで決着がつきそうもない。
俺が倒してもいいけど、カカシだけはミドリにぶっ飛ばしてもらいたい。
「おい。後はおまえだけだ。ミドリは見てのとおりタンクだ。このままだと試合が長引くから、どっちか選んでくれ。俺が参戦するか、アイテムを使うのを止めるか。どっちにする?」
「ふ、2人がかりだと! この卑怯者め! ……わかった。それならこうしよう。俺はアイテムを使うのを止める。その代わり、俺がこの女に勝ったらこの決闘は俺の勝ちだ」
……どうやら時間の無駄だったらしい。
俺はカカシに向かって歩き出すと、カカシは慌てながら「待て」と言う。
「わ、わかった。それなら、俺が勝ったときは引き分けでどうだ? 一勝一敗なんだから、おかしくはないだろ?」
「いや、十分おかしいからな。普通は俺とおまえで決勝戦だろ」
カカシはカタカタと揺れ出した。
うーん、このまま棄権されても面白くないか。
「わかった。ミドリに勝てたら引き分けでいいぞ。その代わりHPの回復は無しだ。ミドリも同じ条件でいいよな?」
「ええ。私もその条件でいいわ」
2人から了承を得られたので、戦闘を再開することにする。
「よし、それじゃあ開始っ!」
俺のかけ声にあわせるように、カカシはミドリへ襲いかかる。
どうやら今のやりとりの間に、武器をショートソードに変えていた。
一撃のダメージ量よりも、連続攻撃できる武器で攻める作戦みたいだ。
じっくり戦いを見てると、カカシはさすがBランクという動きだった。
フェイントを織り交ぜながら、ミドリにパリィさせないようタイミングをずらしている。
ミドリがスキルや魔法を使わないからか、カカシもそれらを使わないで戦っているみたいだ。
まあ、あれだけ素人と馬鹿にしたんだ。プレイヤースキルだけの勝ちに拘るか。
剣と盾が激しくぶつかり、鋭い音が幾度も鳴り響く。
守るだけなら、ミドリは今でもかなりいい線までいく。
攻撃を混ぜると途端に隙が生まれるから、カカシ相手だとすぐに負けてしまうだろう。
だからこの決闘が始まる前、ミドリには剣による攻撃はするなと言ってある。
盾だけでひたすら守り攻撃しろと。
そろそろ成功するハズだ。タイミングは合ってきている。
カカシが左右にステップし、軽くフェイント入れた後に三連撃の剣技を使ってきた。
ミドリはそれを盾で防ぐが足下がグラついた。
「これで終わりだっ!」
その隙を逃さずカカシは疾風とも言えるような鋭い突きを、ミドリの顔面めがけて放つ。クリティカル狙いだ!
ギギギギギッ。
金属同士がこすれ合うような音と共に、突きの勢いのままカカシの身体は空中に流れた。
「ば、バカな……あの隙はフェイクだったのか!?」
ミドリはパリィでカカシ突きを受け流していた。
そして、空中で無防備な状態にいるカカシめがけて、
吹っ飛ばされたカカシは地面に横たわりピクピクしている。
「ミドリ、相手は
ピクピクしてるカカシをグサグサと剣で突き刺すミドリ。
スタン中は全てがクリティカルになる。しかもカカシの装備は軽装だ。
いくらレベル差が大きくても、無事にHPを7割減らせたようだ。
カカシの身体は光の粒になり消えていった。
「テンマ! 私一人でも勝てたよ! Bランク相手でも1人で勝てた!」
ミドリは喜びながら俺に抱きついてきた。
俺はビキニアーマーをドロップしたカツアゲ女に感謝した。
◇
「お疲れ様。お姉ちゃん、最後のパリィからシールドバッシュのコンボは凄かった! テンマもご褒美に大満足」
アオイはニヤリと俺の顔を見る。
な、なんのことかな。俺は知らんぞ。
「ドロシー。これから私達は宝の地図の攻略に向かう。契約の件は守ってね。たまに進捗報告いれる」
「ああ。ちゃんと守るから安心してくれ。アオイが契約書を作ってくれたからな。それにしても、その2人は本当にゲームを始めたばかりなのか? 戦闘中にどんどん成長していくミドリには驚かされたよ。テンマの戦闘に至っては、全く理解できなかったんだが」
ドロシーさんは呆れたような口調で言った。
そして、カカシとブリッドさんに向き直る。
「おまえ達も、良い勉強になったんじゃないか。アオイが【狂った賢者の宴】よりも、彼らのクラン【碧眼の魔女たち】を選んだんだ。普通のプレイヤーである訳がないんだよ。私の判断の正しさも分かっただろ?」
2人とも頭を垂れて「はい」と小さな声で言った。
ブリッドさんは、完全に巻き込まれただけだからな、ほどほどにしてあげて欲しいところだ。
俺のレベルアップに貢献してくれた良い人だからな。
「お姉ちゃん、テンマ。夏休みの間でとりあえずSランクになる。これ最低目標!」
「ええっ! ちょ、ちょっとアオイ本気で言ってるの?」
「ミドリ、何を言ってるんだ? そんなのはただの通過点だぞ。俺達は最初のゲーム攻略者を目指す! いや、絶対に達成する!」
「そ、そうなの。Sランクってテレビでよく見るから、雲の上の存在だと思っていたわ……ただの通過点だったのね!」
ミドリの後ろで、オズの面々が口を開けて固まっていた。
あれ? 俺達何か変なこと言ってたか?
ノルンも頼りにしてるからな。
これからもよろしくな。相棒!
『ふっふふふ。テンマもやっとわかってきたようね。私とテンマが揃えば強キャラなのよ。チートよ、チート!』
チート、チート言うなよ。
念のため言っておくが、それ運営からBANされるヤツだからな。
「さあ! 行こうダンジョンへ!」
「これからダンジョン攻略が始まるのね。ワクワクするわ!」
俺達はダンジョンへ向けて歩き出す。
この仲間達と一緒なら、命がけのデスゲームも悪くない。
第一章 完
――――――――――――――――
後書き失礼します!
ここまで読んでくれて、ありがとうございます。
これにて第一章は終了となります。
次回以降については、近況ノートに書きましたのでそちらをご確認ください。
是非、ここまで読んでくれた皆様のご意見を聞かせください!
↓ ↓ ↓
https://kakuyomu.jp/users/tady16/news/16817330662597725403
よろしくお願いします。
俺の難易度が【リアル】な件について ※クリア報酬1兆円、リセット不可能なゲームで隠し設定見つけました。 ヒゲ抜き地蔵 @tady16
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