第31話 決闘(2)

「おい、ブリッド。絶対に手を抜くなよ。もし負けて金を払うことになったら、おまえにも半額だしてもらうからな」


 はぁ……この人は何を言ってるんだろう。

 僕が払うわけないでしょ。

 それにしてもアオイさんは見事だった。

 契約書を作ることで、被害が【オズ】に及ばないようにしてくれた。

 カカシさんの性格を見抜いてるよね。

 この人、自分のやりたい放題するくせに責任は絶対に取らない。

 今回の勝負だって、負けても約束を守る気は絶対になかったよね。

 

 それにしても決闘は久しぶり。

 このゲームはプレイヤー同士の合意があれば、フィールドのどこからでも決闘場へ移動しバトルすることができる。

 HPの残量が30%を下回ったら負けになり、決闘場から退場させられる。

 だからデスペナルティも無く、気楽に遊べる仕組みだ。


 対戦方法も1対1からギルド戦まで幅広くある。今回は2対2の戦闘。スキルなどの制限なしの何でもアリ。

 昨日ゲームを始めたばかりの相手にハンデ無し、さらにアイテムや装備の使用制限無しとか……かなり無茶苦茶なルールだよ。


 僕の【超合金のフルアーマー】は物理耐性に特化。そしてアクセサリーで魔法耐性も上げている。

 Dランクのプレイヤーでも全くダメージを受けないぐらいの装備だ。

 正直、Eランク相手にチート過ぎる。

 けど、装備変えることはカカシさんが許さないだろうからな……


 相手の作戦は通行阻害アイテムで壁を作って、そこから魔法やアイテムによる遠距離攻撃ってところかな。

 装備やレベル差を考えれば、正面から挑んでくるとかありえないからね。


 カカシさんも同じことを考えているようだ。

 装備が素早さよりも攻撃力に寄せている。

 タンク相手でもダメージが通る【ブレイクソード】。あれはグレートソードの一種で大きくとても重い剣だ。素早さが下がるけど一撃の威力はでかい。

 通行阻害アイテムを効率良く破壊できる。

 僕も得物は攻撃力重視の【バトルアックス】を選んだ。


 ◇


 参加者全員の準備が終わったようだ。

 目の前の風景が、決闘場に切り替わる。

 観客席でドロシーさんとアオイさんが一緒に座っているのが見えた。


「それでは、これより2対2の決闘を開始します! 3、2、1、スタート!」


 決闘場に流れるアナウンスが、開始の合図を告げた。

 円型の決闘場の向こう端に、2人の男女が見える。

 女の子はナイトシールドにビキニアーマー、あの子はタンクだったのか。

 男の方は、右手に黒いナイフ。左手に持っているのは……まさか、ただのナイフ? 嘘だろ。本当にそんな装備で戦う気じゃないよね。


「ブリッド。男の方の武器見ろよ。あれ、普通のナイフだぜ。くっくくく。まさかここまで初心者だったとは思わなかったぞ。けど、万が一にも負けるわけにはいかないから、俺はタンクの方にいく。ナイフ使いはおまえに任せた。どんなにプレイヤースキルが高くても、ダメが入らなければ勝つのは俺達だ」


 まあ、そうなるよね。

 僕はスキル【挑発(中)】を使い、相手の攻撃をこっちに寄せる。

 よし、ナイフ使いはこっちに向かってきた。

 ん? タンクの子は来ないぞ。まあ、予定通り相手を分断できたから良しとしよう。

 

 カキィン


「へ?」


 ガキィン、バキィン、ガガガガ、バシュッ


 ……ちょ、ちょっと待て。速い!

 一瞬影みたいのが見えた後、すぐに居なくなる。

 しかも、どういう訳かHPが減ってる! 【超合金のフルアーマー】にダメが通ってるのか!?


「おりゃぁぁぁあ!」


 水平方向にバトルアックスを振り抜いてみたが、まったく当たらない。

 落ち着け。このままだとマズい。

 バトルアックスだと重すぎて無理だ。もっと軽い武器……ミスリルのショートソードに交換だ。

 ステータスパネルを操作しようとすると、腕をことごとくナイフで攻撃されて操作がうまく出来ない。

 これは【ステパ妨害】! 結構難しい技なんだけど……本当に初心者なんだよね?


 くそっ、ダメだ。このままだと倒せない。

 え? どうして……急に相手が距離を空けた。

 理由はわからないけど、今がチャンスだ。


 装備をミスリルソードとファイアシールドに変える。

 ファイアシールドは、ナイトシールドにファイアのスペルを刻んだ刻印装備だ。

 相手の攻撃を盾で防ぐだけでも、火系のダメージを与えられる。

 盾技を当てられれば、相手を状態異常の火傷にもできる。アジリティ特化のプレイヤーに非常に相性の良い装備だ。


 僕の装備交換が終わるのを待っていたかのように、また距離を詰めてきた。

 これじゃあ、どっちが格上かわからないな。

 くっ……小回りがきくミスリルソードに変えても、かすりもしない。

 ガツガツ斬られるが大丈夫。ダメージは少量だ。

 相手の油断を誘って……まだだ……もう少し引きつけて……今だ!


「シールドバッシュ!」


 よしっ! ドンピシャで当てられた。

 これでスタン気絶と火傷の二重の状態異常だ。

 動けないはず……って、なんで普通に動いてるんだ?

 や、火傷はどうした?

 どうして状態異常のマークが何も表示されない?


 くそっ、ダメだ。カカシさんと2人ががりじゃないと倒せない。


「カカシさん、この人おかしいです。合流しましょう! そっちはまだですか?」


 カカシさんの方を見ると、全ての攻撃が盾で弾かれていた。


「な、なに遊んでいるんですか! 早く倒してください!」


「遊んでるんじゃねぇ。くそっ、おらぁぁぁぁ! どうして当たらねぇんだよ!」


 カカシさんの剣はブレイクソードだぞ。

 相手の装備しているナイトシールドの耐久値なら、壊れていてもおかしくないハズだ。

 まさか……全部パリィしているのか!?


 カカシさんが振り下ろした剣は、盾でいなされ地面に刺さる。

 そして、その硬直した隙をついて盾でプッシュされ、カカシさんは吹き飛ばされていた。



――――――――――――――――

後書き失礼します!


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