第30話 決闘(1)


 『【狂った賢者の宴】Sランク 26位: 全体38位』

 いやいやいや、あいつ一体何考えてんだよ。

 どうやったら、あんなにサクッとクラン辞める思考になるんだ。

 ん? この順位……Sランクよりも上のランクがあるってことだよな。


 けど、どんなディスプレイを操作しても、Sランクより上のランクを表示させることはできなかった。

 ノルン。Sランクの上って知ってるか?


『Sランクの上にもランクはあるわよ。けど、非公開になっていて詳細は伏せられているの。特殊な条件があると言われているわ』


 ……まさか政府公認が条件とかじゃないよな?

 その他におもしろそうなものは……あっ、ノルン。この賞金首リストって何だ?


『その名の通りPKプレイヤー殺しで通報されたけど、捕まっていないプレイヤーの一覧よ。捕まえて王国兵に突き出せば賞金がもらえるわ』


 一番賞金が高いヤツはいくらなんだ。

 どれどれ……こいつか。

 名前の欄に【名無し】って書いてあるけど、これプレイヤー名であってるのか?

 えーっと賞金は、ご、50億円!? 桁を数え間違えたか?

 一体、どんな悪さをしたらこんな賞金になるんだよ!


『……私思うんだけどテンマの秘密がバレたら、これより高い賞金がつくんじゃないのかな?』


 ノルン。おまえなんてことを言うんだ。

 現実味がありすぎて怖くなるだろっ!


 ——それから少しすると、ミドリからドロシーさんの準備が終わったと連絡がきた。

 

 ◇


 俺が冒険者ギルドを出ると、既にミドリとアオイ、ドロシーさんがいた。

 ドロシーさんの後ろに2人の男がいる。

 あれは【オズ】のメンバーか?

 1人は軽装で腰に刀。剣士か? もう1人は全身をフルプレートアーマーで覆っていた。


「お待たせ。それで準備はどんな感じ?」


 俺がアオイに聞くと、ドロシーさんが代わりに答えた。


「ああ、モノは全て揃えてアオイに渡してある。そっちの準備はどうだ? いつ出発する予定なんだ?」


「私達はこのまま出発する。クリアの目処がついたら連絡入れる」


 ドロシーさんの後ろにいる軽装の男が、怪訝な顔つき睨んでくる。


「……どういうことですか。まさか、たった3人で攻略するつもりですか?」


「当たり前。私達のクランは3人だけ」


「なるほど、アオイ氏と同じくみなさん元【狂った賢者の宴】の方々でしたか」


 どうしたもんか……誤解を解くと面倒くさいことになりそうだ。

 今思えばドロシーさんにも、俺とミドリが昨日ゲームを始めたばかりの初心者だって言ってなかったな。


「違う。テンマとお姉ちゃんは昨日始めたばかり。けど、2人とも天才だから安心しろ」


「「「…………」」」


 【オズ】の3人が固まってしまった。

 アオイを見ると、ニヤニヤと笑っている。

 軽装の男がカタカタと揺れている。


「ふ、ふざけるなっ! ドロシー様、どうしてこんな初心者どもに攻略を依頼するのですか? しかもあんなふざけた条件で! 今からでも依頼をキャンセルしてください!!」


「おい、カカシ落ち着け! 失礼だぞ。それにもう契約は済んだ。今更取り消せん」


「いいえ、黙りません。今回のクエストは【オズ】がAランクに上がるための絶好の機会なのです。クラマスがアオイ氏じゃない時点で怪しいと思ったのです」


 軽装の男は、ミドリの前に立つ。


「おい、貴様っ! アオイ氏をどう取り込んだか知らぬが恥を知れ! 強者に媚びるクズどもが!!」


 は? 強者に媚びるクズだと? 何を言ってるんだコイツは——

 そのとき、俺の視界にミドリがカタカタと揺れている姿が入った。



 こいつ……絶対に許さん。


 

 俺が前に出ようとしたとき、アオイが手で俺を制した。

 アオイの顔から笑みが消えていた。

 けど悪いな。俺もここで引く気はない。


「わかった。昨日始めた初心者の俺達の方が、おまえより役立つことを証明してやる。俺とミドリの2人でおまえ達と勝負してやる。おまえ達が勝てば契約は無効でいいぞ」


「いいだろう。あなたたちが勝てば、その実力を認めてあげましょう」


 俺はわざとらしく大きなため息をつく。


「はぁ…………バカなの? おまえに認めてもらってもしょうがない。俺達が勝ったとき、依頼達成時の報酬は10倍にしてもらう」


「じゅ、10倍!? そんなこと認められるわけがないっ!」


「今回はドロシーさんの方から俺達に依頼を受けてくれとお願いしてきたことだ。それなのに侮辱したあげく一方的に契約を破棄すると言う。ふざけてるのはおまえだ」


 俺はミドリと軽装の男の間に割り込むように立つ。


「それにおまえが決闘に負けても、俺達がクエストを攻略できなければお金を払う必要は無い。俺達だとクエストを攻略できないって騒いでるのはおまえだ。何が不服なんだ?」


「ど、ドロシー様。こんな条件で決闘などありえません。何か言ってやってください」


 カカシと呼ばれる男は、狼狽しながらドロシーに向き直る。


「彼の言ってることは正しい。おまえの無礼から始まったことだ。決闘を無かったことにするなら、頼む相手は私ではないだろ? もし決闘して負けた場合、支払いはおまえに補填してもらう。装備を売ってでも払ってもらうぞ」


 ドロシーさんもかなり怒っているようだ。

 【オズ】というクランが腐ってるわけじゃなくて、こいつが問題児ってことか。


「くっ……か、確認します。決闘に参加するのはアオイ氏を除くあなた達2人。そして、こちらはドロシー様と私とブリッドの3人。決闘はなんでもアリの戦闘形式。この内容で大丈夫ですか?」


 俺は頷いた。


「私は参加しないぞ。初心者だから力不足だと判断したのだろ? その相手との力比べに、こちらが有利な条件で戦うなどありえんよ」


 ドロシーさんは参加しないようだ。

 まあ、俺はどっちでもいいけどな。


「……わかりました。私達も2人でこの勝負を受けましょう」


「ん。それじゃあ、これにサインする。今回の勝負のこと書いてある。Eランクのクズ集団の私達は約束守らないかもしれない。けど、この契約スペル付きの契約書があれば、絶対に逃げられない。契約書の費用は私がもつから気にするな」


 アオイはニヤリと笑みを浮かべながら、カカシに1枚の紙を渡した。


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