第28話 宝の地図(2)

「アオイの力が借りられるなら、安いものだ。その条件でいいだろう」


 やはりアオイの力が目当てか。

 俺が納得していると、アオイの顔つきが少し険しくなった。


「ドロシーは【碧眼へきがんの魔女たち】の実力を舐めてる。私達単独でもクエストはクリアできる。ドロシーの条件なら私達だけでやった方がいい」


 実は俺もアオイと同意見だった。

 俺達だけでクリアすれば、ドロシーの条件とクリア実績の全てが俺達のものになるからな。


「……つまり、我々【オズ】と競っても勝てると?」


「断言してもいい。私達が勝つ」


 ドロシーさんがカタカタ揺れ出した。

 これはまさかの戦闘になるのか?

 俺はいつでも動けるよう警戒する。


「はぁ、はぁ、はぁ……さすがはアオイ。なんて目で睨んでくるんだ。そ、それで、そちらの望む条件はなんだ?」


「私達が【オズ】の代わりにクリアしてあげる。だから、私達がクリアできるよう【オズ】は全力でバックアップする」


「な、なんて上から目線なんだ。Eランクのクラン如きに、そ、そんなこと言われるなんて……」


「そして手に入れたアイテムやドロップ品、お宝、冒険者ギルドからの報酬金も全て【碧眼の魔女たち】がもらう」


「き、貴様というヤツは……我々はおまえ達がクリアできるよう支援もするのに、クエストクリアの実績だけしか手に入らないのかっ!」


「違う。勘違いするな」


「くっ……こ、ここまできて勘違いだと……」


「クエストクリアの実績は売ってあげる。これなら依頼を受けてもいい」


「ふぅ、ふぅ、くはぁぁぁ……らめぇ。もう私には耐えられな——」


 ドロシーさんの揺れがガタガタと大きくなった直後、頭上に赤文字の警告マークが出現した。

 そして、ドロシーさんは白い光となって消えてしまった。


 最後の方は、悶えていたように見えたのは気のせいか?

 俺とミドリは、一体何を見せられていたのだろうか……


「アオイ、ドロシーさんが消えたようだけど、どうしちゃったの?」


「お姉ちゃん、心配無用。ドロシーは昇天した」


「え!? あんた、知らないうちに攻撃してたの? クラマスは私よ。勝手にケンカしたらダメでしょう!」


 ……いや、ミドリさん。

 たぶん違う意味なんじゃないかと。


『テンマ。違う意味って何? アオイの攻撃は私も気づけなかったんだけど』


 いや、ノルンは気にするな。というか忘れろ。

 俺は疲れた。帰ってもいいかな。


 ——それから3分後。


「お姉ちゃん、テンマ。ドロシーからメール来た。さっきの条件で依頼するって。契約スペルを使った契約書を後でもらう。約束を反故されることはない」


「ところで、どうしてオズはクエストクリアの実績がそんなにほしいんだ?」


「オズはAランクに上がりたい。そのための実績がほしい。この宝探しクエストをクリアすると、クランポイントを多くもらえる。お金で買えるなら、大金出すクランはいっぱいある」


 なるほどね。それを踏まえて、あれだけ強気で交渉していたのか。


「これで宝の地図をどのクランよりも先に見つけないといけなくなったな。あれだけ大口を叩いたんだ。大丈夫なのか?」


「私に任せろ。夏イベントは始まったばかり。私のスキルと知識があれば余裕!」


 そう言うと、アオイは賞品でもらった宝の地図に鑑定魔法を唱える。

 そして地図をテーブルに広げた。

 俺とミドリも地図を見てみる。

 ダンジョンの地図だというのはわかるが、ほとんど読めない文字で書かれているため、詳細は全くわからなかった。


「アオイ、もしかして書いてある文字読めるの?」


 真剣に地図を見ているアオイに、ミドリが質問をした。


「読める。私は【翻訳(中)】と【解読(中)】のスキルを持っているから」


 アオイの話だと、エルフ語やドワーフ語などの言語は翻訳スキルを使うと日本語に変換してくれるそうだ。

 解読スキルは、暗号や翻訳不可能な古代言語などを理解するためのヒントを教えてくれるらしい。


「宝はダンジョン12階の山奥の村にある。以前はこの場所に村はなかった。このイベント用の隠し村だと思う。あとは現地に行ってみないと、この地図だけではわからない」


「はやっ! アオイ、もうわかっちゃったの。それって簡単にわかることなの?」


「いや、ダンジョン12階の村にたどり着くまでに、最低でも4つのクエストをクリアしてヒントをもらう必要がある。私は【解読(中)】があるから、クリアしなくても推測できた」


 ミドリは「あ、あんた凄いのね」と、アオイに感心していた。

 確かにSランクで活躍していただけのことはある。

 そうなると、後は俺とミドリの実力次第ってことか……

 

「ダンジョン12階っていうのは、今の俺とミドリでも行けそうなのか?」


「お姉ちゃんが厳しそう。けど、途中で狩り場に寄ったり、ボス戦でレベル上がるから安心する」


 ネットの情報だと、ダンジョンの階にボスがいるんだったな。

 ボス戦か……楽しくなってきたな!


「けど、時間が無いからレベルは最低限までしか上げない。他のクランは直接12階に行けるけど、私達は全ての階をクリアする必要がある」


 ダンジョン内にはゲートと呼ばれる石碑があり、一度ゲートに触れればそこへ転移できるようになる。

 俺とミドリはダンジョンを全く攻略していないので、ゲートは1つも登録していない状態だ。

 だから、全ての階層を通る必要がある。

 競合相手のクラン達が宝の地図の謎を解くのが先か、俺達が12階まで着くのが先か。

 ここからはそういう勝負になるってわけだ。


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