第26話 スイカ割り(3)
俺達はボーナスステージの会場に入った。
今度は暗闇になることは無く、会場内は松明で灯されていた。
砂浜に埋められたスイカを1分以内に10個探すとか、どんだけ無理ゲーよ。
アオイを見ると、すでに杖でスペルを描き終えていた。
「砂を巻き上げろ。トルネード!」
杖の先端が緑色に光ると、強い風がだんだんと会場の中心に集まり渦を巻き、そして竜巻になった。
竜巻は徐々に大きくなり大量の砂を空へと巻き上げる。
「トルネードきたぁぁぁ!」
「なんだあれ! 普通のトルネードより威力強くないか!?」
「すげぇーのはそこじゃねぇよ。竜巻を会場から出ないように制御するとかありえねぇー!」
「あれはまさしくお掃除ロボよ!」
会場の周りにいる観客のボルテージが上がる。
ボーナスステージは、会場の外から中の様子が見えてるようだ。
ノルン。スイカは何個ぐらい舞っている?
『えーと、8個よ。あっ、今10個になったわ』
よし、作戦通り風魔法で埋まっていたスイカをすくい出せたな。
スイカはスキルで割ると爆発するから、地面に降ろしてから武器で割る。
「アオイ。もう10個すくい出せてるから、風魔法を止めてくれ」
「私いいこと思いついた。まかせろ」
アオイは俺達の方を向いて、ニヤリと笑う。
あっ、これは完全にダメなヤツだ。
俺の頭の中で警告が鳴り響く。
「いいから作戦通りにしろ!」
ダメだ。全く聞いてない。それどころか杖でスペルを描きだした。
「ミドリ、急いで盾を装備! こっちに来てくれ!」
「え、え、盾を装備するのね」
竜巻の直径がどんどん縮んでいくのに合わせて、竜巻は空へとぐんぐん伸びていく。
アオイは「ファイア」と唱え、竜巻めがけて火の玉を放った。
火の玉が竜巻に当たった瞬間、竜巻は火柱へと姿を変えた。
そして、上空で何度も爆発が起こり火の粉が夜空に四散していく。
「おおぉぉぉ! 花火みたいだ!」
「たまやー!」
「すげぇぇぇぇ!」
その頃、俺とアオイは夜空から降ってくるスイカの残骸に当たらないよう、ミドリのシールドの影で身を隠していた。
観客達は、夜空を彩るスイカの爆発に見入っていて、誰も俺達の様子には気づいていないようだった。
そして、終了のブザーが鳴る。
「す、すごいです! 今までにこんな方法で挑んだクランはいませんでした! ただいまの成績は、割れたスイカ10個でパーフェクトになります! みなさん惜しみない拍手をお願い致します!」
沢山の声援や拍手に応えてるように、俺達は観客に向けて手を振った。
【絶剣乱舞】の世界大会で優勝したときを思い出す。
もう、あんな光景や興奮は二度と味わえないんだろうなって諦めていたけど……
本当に【アカシックワールド】をやって良かった。
俺達が出口に向かうと、【チャラオーズ】の5人組が待っていた。
「お、おまえらズルいぞ! この勝負は無効だ!」
「そうだ! あんなEランクいるかよ! 完全に詐欺だ!」
「本当だぜ、これでシール持っていくとかヤバすぎだろ」
「マジ、美人局にあった気分だわ」
「逆に、謝罪として俺達にシールよこせ」
……逃げなかったと感心してたのに、予想以上にクズだった。
勝負するからには全力に決まってるんだろ。
しかも、終わった後にウダウダ言うなよ。
最初はアオイが悪かったけど、その後ミドリとアオイに絡んできたのはそっちだからな。
どうしたものかと思っていたら、後ろから声がした。
「やっぱりアオイじゃないか。相変わらずふざけた魔法だったな」
ピンク色の髪を後ろでまとめた水着姿の女性が、アオイに親しげに話しかけてきた。
「な、なんだテメェは! 今、俺達が話してるところだろうがっ!」
赤髪の男が強気な態度をとる。
舐められたら終わりって感じの必死さを感じる。
「どうしたんだこの子達は? 何か揉めてたのか?」
「ドロシーこいつらクズ。どっちが多くスイカ割れるか勝負してた。負けたのに約束守らない」
「それはダメだな。あんた達、さっさと約束を守りなっ!」
「外野はだまって……ドロシー? ピンク髪のドロシーって、まさか【オズ】のドロシーさん?」
「そうだ、私は【オズ】のクラマスのドロシーだ」
どうした? 男達の態度が急に変わったぞ。
「…………ほらよ。くそっ、こんな準備までしておまえら性格悪すぎるぞ」
チッと舌打ちをした後、64枚のイベントシールを差し出してきた。
「約束が違う。イベントシール全部よこす」
ん? アオイ、急に何を言い出すんだ?
まさか……
「スイカ34個割ったから、シールを一人当たり34個もらったハズ。5人全部合わせると170枚」
【チャラオーズ】の5人組がカタカタと揺れ出した。
アオイは気にすること無く、手の平を相手に突き出す。
「さあ、全部よこす!」
◇
結局、【チャラオーズ】から合計234枚のシールを奪うと、彼らは逃げるように走って行ってしまった。
『テンマ。良かったじゃない。シールが沢山集まって』
いやいや。これはダメだろ。完全にブラックです。
アオイの元いたクランってどんなところだよ。
まさか入れ墨の入った方々のいらっしゃる事務所とかじゃないよな……
「ま、まぁ、良かったんじゃないかな。負けてたら大変なことになっていたと思うし。さあ、イベントの賞品もらいに行こうよ」
「そうだぞ、テンマ。スタンプ帳もシール100枚は確実に超えた。装備だと嬉しい」
確かにミドリの言うとおりだな。アオイに至っては、すでに彼らのことは無かったことになっている気がするし。
賞品交換の窓口はどこだ……あそこか。よし、行くか。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。アオイ、私を無視するなんて酷いじゃないか!」
「あっ、ドロシーまだいた。何かようか?」
ドロシーと名乗った女性は、うつむいたまま震えていた。
どうした? 俺の気のせいか、喜んでいるように見えるんだが……
「さ、さすがアオイだ。こんな扱いをしてくれるのはおまえぐらいだ。こ、コレは癖になるな」
俺は後で知ることになる。変人は変人を呼ぶということを。
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