第25話 スイカ割り(2)

「ねぇ、テンマ。あの真っ暗な空間と大きな電光掲示板があるところが、イベントの会場かな?」


 ミドリが指差す方を見ると、小学校の体育館ぐらいの大きさの暗闇があった。

 光は一切通さず、外から中を見ることはできなかった。

 

「あの中で制限時間1分以内にスイカを割る。多く割るほど高得点。スイカはモンスターで動くらしい」


 アオイがイベントの情報を説明し始めた。

 スイカ割りが開始すると、会場は真っ暗になり何も見えなくなるそうだ。

 その中でひたすらスイカモンスターを倒す。

 スキルやアイテムの使用は自由で、スイカを100個割るとボーナスステージに行けるらしい。


 会場の近くに大きな電光掲示板があり、そこに今までの成績が表示されていた。

 現在、Eランク部門の1位は102個だ。

 ボーナスステージに行ったクランもあるようだな。


 俺達の前に並ぶ男達との勝負もあるが、肝心なのは100個以上割ってボーナスステージに行くこと。

 なぜなら、俺達の狙いである【宝の地図】は、ボーナスステージの賞品とのことだった。

 ボーナスステージのスイカはモンスターではなく、スイカ爆弾なんだとか。

 ただ、砂の中に埋まっているらしい。

 スイカ割りじゃなくて、地雷除去ゲームと言った方が正しくないか?


 ノルン。

 地面に埋まってるスイカって、【高速鑑定】とかで見つけられないかな?


『それは無理ね。【高速鑑定】は直接手に触れなくても鑑定できるけど、見えている必要があるの。けど、暗闇対策ならできるわよ。私の視界をテンマの左目につなげればいいだけだから』


 俺って暗闇でも普通に見えるの?


『見えるわよ。試しにやってみるからちょっと待ってて。——よし出来たわ。左目だけで見てみなさい』


 おおぉぉぉっ! 夜でも昼間と変わらないように見える。

 これって、あの真っ暗闇の中でも使えるのか?


『ええ。全く問題ないわ。ふっふふふ。これでわかったでしょ? 【ノルンの魔眼】は凄いのよ!』


 ああ、これは凄いよ。さすがノルンだ!

 ただ……そういう大事なことは、もっと早く教えて欲しかったぞ。


 おっ、アイツらの順番がきたようだ。

 男達は後ろを振り向く。


「同じランクE同士だ。単純にスイカを割った数で勝負だからな」

「じゃあ、先に行ってくるぜ」

「俺達がやってる間に逃げるなよ!」

「やべ。この後が楽しみだな。夏イベ最高ォ!」


 まあ、お手並み拝見だな。

 少しすると会場が明るくなった。終わったようだ。

 結果が電光掲示板に表示される。


『【チャラオーズ】の結果34個 32位』


 び、微妙な順位だな。

 けど、ヤツらは満足しているらしく、出口付近から俺達に向かってガッツポーズしていた。


 ◇


 俺達が会場へ向かうと、まわりから声援が飛ぶ。

 ミドリとアオイがいるから野郎から声援はわかるが、意外と女性からの声援も多い。これって俺に対する応援も含まれているのかな?

 ふと横を見ると、ミドリがジッと俺の顔を見ていた。

 ……ヤバい。少しにやけてたのがバレたか?


「さ、さてと、作戦通りで行くぞ。近場はミドリとアオイに任せたからな。アオイ、いらんことするなよ」


「任せろ。私の本番はボーナスステージ」


「私も大丈夫よ、装備もバッチリ!」


 俺はヴァンパイアナイフと普通のナイフを両手に持ち、足にはレッドキャップからドロップしたアクセルブーツを履く。

 ミドリはナイトソードとナイトシールドを装備し、アオイは魔道の杖を持つ。


「それではクラン【碧眼の魔女たち】の挑戦です! よーいスタート!」


 係員の合図と共に、俺達は真っ暗闇の浜辺に突入した。

 よしっ! ノルンの魔眼のおかげで俺の視界は明るい。


「それじゃあ、ファイア!っと」


 アオイの声と共に、魔道の杖の先にバスケットボールサイズの火の玉が作られた。

 魔法で作った火の玉は放たずに、杖の先でそのまま維持する。それにより、アオイとミドリの周辺は半径2メートルぐらい明るくなった。


「次は私の番ね。いくよっ!」


 ミドリは剣で盾を叩き【挑発(小)】を発動した。スイカの形をしたモンスターが、ミドリめがけてノロノロと寄ってくる。近寄ってきたモンスターは、ミドリの剣とアオイの松明代わりの火の玉で倒していく。


 よしっ、作戦通りやれてるな。

 俺達の作戦は非常にシンプル。ミドリが挑発で会場に散らばっているスイカモンスターを集める。俺がひたすらスイカを割り続けるという作戦だ。

 アオイの魔法による範囲攻撃は強烈だが、俺が怖くて動けなくなる。

 そうなると、取りこぼしの可能性が出てくるので、今回は照明係になってもらった。


『ふっふふふ。でも急がないと、制限時間は後53秒よ』


 ノルンに言われるまでもない。

 俺は全速力で会場を駆け巡り、両手に持ったナイフを使って一心不乱にスイカを割っていく。

 もっとだ。もっといけるぞ。俺は【瞬歩】も交えてさらに速度を上げる。

 ノルン、残りの時間は?


『残り14秒。もう遠くにスイカはいないわよ。ミドリの方に向かって』


 やべぇ、これ超キツいんだけど。

 もしかして、筋トレやランニングとかやった方がいいのか?

 それで強くなれるんなら、もちろんやるけどな!

 はぁ、はぁ……あの塊でラストか! うらぁぁぁぁぁぁぁあ!


 ピッ、ピィィィィィイ!


 終了の合図と共に、会場が明るくなる。

 観客達がどよめいてた。

 ん? まだ結果発表されてないけど、何かあったのか。

 電子掲示板を見ると『残り時間 3秒』で止まっていた。


 そして、電光掲示板の表示が切り替わる。

 そこには——


『【碧眼へきがんの魔女たち】の結果200個 1位 祝パーフェクト達成!』


 と表示された瞬間、割れんばかり拍手と歓声が沸き起こる。

 イベント会場の盛り上がりにつられて、「何かあった?」と近くにいたプレイヤーがぞろぞろと集まってきた。

 出口近くで待っている五人組を見ると、カタカタと揺れていた。俺達の成績にかなりの衝撃を受けたようだ。

 まさか逃げたりしないよな。


「それでは【碧眼の魔女たち】のみなさまは一度会場入り口までお戻りください。ボーナスステージの準備をさせていただきます」


 俺達が入り口まで戻ると、ハイタッチを交わす。

 周りから集まった人達の声援が聞こえる。

 これはテンションが上がるぜ。

 ミドリとアオイも気合いが入っているようだ。


「お待たせいたしました。ボーナスステージの説明をさせていただきます。砂浜に10個のスイカが隠されています。スキルを使ってスイカを割った場合、スイカは爆発しますので注意してください。制限時間は1分です。今までの最高記録は5つです。準備ができましたら合図をお願いします! 観客のみなさんも応援してくださいね!」


 アオイが調べてくれたルールと同じ。

 スキルを使わない攻撃ならスイカは爆発しない。

 大丈夫。ボーナスステージも作戦通りやればいけるハズだ。

 俺がミドリとアオイを見ると2人は頷いた。


「よし! これもパーフェクトを狙う。行くぞぉ!」


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