第24話 スイカ割り(1)
「ここが海水浴場。真夜中なのにすごい人だかりね」
砂浜に大きな看板が立ててある。イベントの案内のようだ。
「えーと。なになに。『真夜中のスイカ割り大会。目隠し不要! 1分以内に何個割れるか!?』だってさ。面白そうだね!」
ミドリはとてもはしゃいでいた。見ていて俺も楽しくなる。
どうやら1分以内に割ったスイカの数で、もらえるシールの枚数が変わるらしい。俺達のクランはEランクだ。一番多くシールをもらうには……スイカを50個割ればいいようだ。100個以上割るとボーナスステージに行けるらしい。
「よし、やろう! 参加費は……あれ? どこにも書いてないぞ」
「テンマ。スタンプ帳の裏を見てみる。パーティー参加型のイベントは、1種類につき1回しか参加できない。シールを大量にもらえるイベントだから、回数制限がある」
たしかに、回数制限がないなら周回すればすぐにスタンプ帳をコンプできるからな。
さてと、イベントの会場は……あそこか。
結構並んでいるな。
「テンマ。はぐれるから手をつなぐ。ん」
アオイが俺の左手を握る。
な、何してるんだコイツは……
動揺している俺を尻目に、アオイはミドリの手をとり俺に差し出す。
「お姉ちゃんも早くつなぐ。小さいときはよくつないでた。懐かしい」
「そ、そうよね。はぐれると困るもんね」
そう言うと、ミドリは俺の左手を手に取った。
……ヤバい。自分の顔が赤くなっているのがわかる。
俺にはミドリの手の感触がリアルにあるけど、ミドリはどうなんだろうか?
「テンマ。デレデレしてる場合じゃない。早く並ぶ」
そう言いながら、アオイは俺の手を引きながら並んでいる列へと走る。
おまえは子供かっ! 止めようと思っても、意外に力が強い。
さすがレベル63。
「バカ、前を見ろ前を!」
アオイは勢いそのままに列の最後尾の人達にぶつかってしまった。
通常なら街中ではダメージ判定が無いため、接触しても少し押されるぐらいだ。
だがアオイは【リアル】だ。アオイとぶつかった男性5人組の集団は、5メートルぐらい吹き飛ばされ地面に横たわっていた。
これは完全にこちらが悪い。いやアオイが悪い。
「すいません。大丈夫ですか?」
水着姿の男達は起き上がり、まわりをキョロキョロと見回している。
どうやら、俺達が犯人だと気づいたらしい。
「おまえ一体何してくれてんだ? 新手の横入りか?」
「いきなり後ろから吹き飛ばすとか、ざけんじゃねぇぞ!」
「女はべらせてイキんなやコラァ!」
うん。そうだよね。怒るのは当然だよね。
君たち何も悪くないもんね。
俺がアオイを横目で見ると、アオイは笑っていた。
「急いでたらぶつかった。悪気はない。許せ」
……は?
おまえはどこでそんな謝り方を習ったんだ。
どんだけ上から目線なのよ。
「妹がすみません。ちゃんと謝らないとダメよ。アオイ」
「ちっ…………ごめんなさい」
さすがミドリだ。アオイに謝罪させるなんて、なかなか出来ないぞ。
舌打ちが聞こえた気がしたが、俺の聞き間違いだろう。
これで終わったかと思ったら、赤髪の男がミドリの方に向き直る。
「お姉ちゃんの方は話がわかるようだ。許してやるから一緒にパーティー組もうぜ」
「おおっ、良い考え! 一緒に俺達とクエスト回ろうよ」
「このイベント最大5人までだからな。どう分ける?」
赤髪の男が俺とミドリの間へ、強引に割り込んでくる。
「4人と3人に分かれればいいだろ。俺はこっちの子と組むから、おまえ達はあのスク水の方ね。そういう訳けで、お兄さんはもう帰っていいよ」
赤髪の男は俺に向かって手でしっしっと、ここからいなくなるよう合図を送ってきた。
やばい。ミドリがカタカタと揺れはじめた。
揉め事を起こした張本人のアオイは、ニヤニヤしながら様子を見ている。
俺のスキル【トラブルメーカー】って、絶対におまえのことだろ!?
「ぶつかったのは謝ります。けど、俺達はパーティー組んで遊んでいるんで」
そう言って、ミドリとアオイの手を引き俺の方に連れ戻す。
ミドリが顔を赤くしてうつむいている。怖い想いをさせちゃったか?
これ以上面倒だと、別のイベントに変えた方が良さそうだな。
そう考えていると、アオイが突然手を上げた。
「このイベントでどっちが良い成績を出すか勝負する。私達が負けたらパーティー組んでイベント回ってあげる。勝ったら手持ちのイベントシール全部ちょうだい」
「は? なんでそんなことしなきゃいけないんだ」
「こっちは3人。そっちは5人。それでもハンデ足りない? 困った……そんな弱い人達と回っても、シール集まらない」
その後も続くアオイの煽りに、男達はバカにするなと騒ぎ出す。
結局、アオイの出した条件で勝負することになった。
……アオイよ。
まさか、最初からコレが狙いだったとか言わないよな?
まあ、あちらのシールは全部で64枚。3人で分けると1人あたり21枚ぐらい。
報酬としては悪くない勝負だ。
うん。いいねぇ。【絶剣乱舞】で培われた俺の勝負魂に火がつくじゃないか。
『あんだけ文句を言っておきながら、テンマもノリノリじゃない』
ノルンは呆れているようだったが、俺は勝負事に手抜きはしない!
くっくくく。全力で相手してやろうじゃないか!
切っ掛けがアオイだったとしても、俺に勝負を挑んできたことを後悔させないとな。
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