第23話 夏イベント(2)

 トルルル、トルルル。


 おっ、ミドリから電話だ。

 2人ともログインしたのかな。


「テンマ。ミドリよ。私とアオイは、今ログインしたわ。一度合流しない?」


「ああ、俺も合流したかったんだ。これから冒険者ギルドに集合しよう」


 こうして、俺達は冒険者ギルドの前で待ち合わせることになった。

 今は現実世界で17時。ゲーム内では0時になったところ。つまり真夜中だ。


 ゲーム内の時間は、イギリスのグリニッジ標準時が基準になっている。標準時0時がゲーム内で0時になる。

 日本は時差で標準時から9時間進んでいるので、日本時間の1時、9時、17時がゲーム内の0時だ。


 ゲーム内の時間によりNPCのお店が営業してなかったり、出現するモンスターやイベントが変わったりする。

 ただ、プレイヤーはゲーム内の時間に関係なくゲームに接続するので、ギルドや役所は24時間営業。期間イベントなどは時間帯により内容は変わるが、常時開催されていた。


 それにしても、街の中は水着のプレイヤーで溢れている。

 俺には届いてなかったが、どうやらアバターの水着衣装はイベントで配布されたらしい。

 街の装飾も夏ムード満載だ。出店やプール、海水浴場もいつの間にか出来ていた。


 昨日見なかったお店やNPCをしらみつぶしに当たってみると、おつかい系のクエストなどが発生しシールが43枚溜まった。

 この調子なら500枚ぐらいすぐに集まりそうだな。


 ◇


 ——冒険者ギルドに着くと、すでにミドリとアオイがいた。

 2人とも水着だ。ギルドの周りは出店があり、ちょっとした夏祭りみたいな光景だった。

 ミドリの水着は、紐を首の後ろで結ぶタイプのビキニだった。

 周りで着ている人を見かけないけど、レア水着が当たったのだろうか?

 夜景に水着姿って……なんでだろう、ミドリがいつものより大人の女性に見える。


「ミドリすごく似合ってるよ。それにしても……アオイはどうしてスクール水着を着てるんだ? もしかして配布されたのか?」


「実は……スクール水着を当てたのは私なの。ショックを受けてる私を見て、アオイが交換してくれたのよ」


「お姉ちゃんと交換した水着は、前の夏イベで配布されたやつ。私が着るとポロリがあるから、スク水がほしかった。WinWinの関係」


 なるほど、ミドリなら紐が外れることはないからな。

 それにしても……アオイのスクール水着姿は生々しいというか威力がある。


「アオイはどうして水着になったんだ?」


「テンマの目の保養……というのは嘘。水着を着てないとプールや海のイベントには参加できない」


 なんと! プールや海のイベントは後回しにしていたから、全く気づかなかった。


「俺持ってないけど、どうすればいいんだ?」


「大丈夫。テンマのために買ってきた。今メールで送った」


「お、マジか! ありがとう。金は後で払うよ」


 俺はメールを確認してみた。アオイからのメールが届いてる。

 この添付のアバターの水着衣装をタップしてと……

 すると俺の外見が水着に変わった。


「きゃっ……」

「ぐっしっしっ……」


 ミドリは顔を手で隠し、アオイは屈んでジーッと見つめている。

 俺はアオイの視線の先を見た。


 ——は?


 俺は超きわどいブーメランパンツをはいていた。

 アオイを信じた俺がバカだった……

 すぐにアバター衣装を解除する。


 アオイは大爆笑し、ミドリはカクカクと揺れていた。

 あれはプレイヤーの感情が高ぶったときの現象!?


「テンマ。グッジョブ! いいもの見せてもらった。お姉ちゃんも大喜び」


「よ、喜んでなんかないわよ! ビックリしただけよ!」


 もういい。俺はどっと疲れた。

 ブーメランパンツはアオイに返して、自分で水着を買うことにした。

 アオイが「お姉ちゃんに売れる」とか、意味のわからないことを言っていたが聞かなかったことにする。


「そ、そうだ。Eランクに上がれるって通知がきたんだけど、上げちゃっていい?」


「お姉ちゃん。受けられるクエストが増えるから、上げるが正解。クランの登録料金は来月から1人あたり二万円。すぐに稼げるから大丈夫」


「俺もアオイの意見に賛成だ。高ランクのクエストの方が、レアアイテムをゲットするチャンスが増えるからな」


 ちょうど冒険者ギルドの前にいるので、俺達は手続きをしてクランをEランクに上げた。

 ゲームを開始してから1日でランクアップ。この調子でどんどん上げていってやるぜ。夏休みの間で、可能な限り最前線の攻略組に追いつきたい。


「テンマ、早速イベントまわろうよ! あっ……けど、攻略も進めないといけないよね?」


「お姉ちゃん大丈夫。今回の夏イベントは好成績を出すと【宝の地図】が手に入る。それを手に入れてからダンジョン攻略した方が効率良い」


「いつの間にそんな情報を手に入れたんだ? 俺もネットでいろいろ確認してたけど、そんな情報無かったぞ」


「ふっふふふ。ネットを頼っている間は初心者。情報通の私にまかせろ」

 

 アオイはドヤ顔しながら自分の胸をドンと叩く。

 ん……リアルだな。


「ねぇねぇ、アオイ。それじゃあ、全員いるからパーティーで参加できるやつがいいな」


「ん。実は行くイベントは決まってる。海水浴場にある【スイカ割り】イベント。そこで【宝の地図】を手に入れる!」


 何コレ。みんなで旅行してるみたいで、すごく楽しいんですけど。


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