第18話 初陣(3)

「悲鳴が聞こえたよ。どうする?」


 ミドリが振り向き俺に聞いてきた。

 ダメージも無いし、状態異常も無い。

 全員が戦闘に支障はない状態だ。


「アオイ! この辺りで俺達の手に追えないモンスターは現れるか?」


 俺がアオイに確認したときには、既にサーチを唱えていた。

 判断と行動が早い。経験の差か……


「テンマ。レッドキャップとゴブリン10匹がプレイヤーを襲ってる。【トラブルメーカー】恐るべし」


「俺達なら勝てそうか?」


 アオイが頷いたので、レッドキャップのいる方へと向かう。

 少し歩くと、森の中のひらけた場所にでた。

 プレイヤー5人がゴブリン達に襲われている。

 

 赤いとんがり帽子を被り、皮と鉄で出来たブーツを履いてるモンスターがいた。

 あれがレッドキャップか。

 燃えるような赤い眼で獲物を睨み、斧を高速に振り下ろす。

 プレイヤーを1人あっさりと倒し、「ケッケケケ」と笑い声を上げている。

 見た目はゴブリンに似ているな……ユニークモンスター特殊個体か。


「手助けは必要ですかー?」


 念のため助けが必要か確認しておくか。

 後で獲物を横取りしたと言われたら嫌だからな。


「へ、ヘルプお願いします! 助けてくださいっ!」


 なんかやけに必死だな。

 まぁ、許可ももらえたし助けに行くか。


「ミドリ。挑発でモンスターをこっちに寄せて。赤いのは俺がやるから、アオイは残りお願いね」


 そう言ってる間に、プレイヤーの1人がレッドキャップの斧でズタズタに切り裂かれ、光の粒になって消えた。

 あの赤……かなり動きが速い。

 緑より3倍速いって、お約束みたいなヤツだな。


 ガンガンガンガン。

 ミドリが剣で盾を叩き、【挑発(小)】スキルを発動する。


 襲われてるプレイヤー達が、反撃していないこともあり、すぐにヘイトはミドリに移った。

 レッドキャップが後方のゴブリン達を引き離し、単独で突っ込んでくる。


「テンマ。最初の一撃だけ受けさせて! 自分の実力を試したいの!」


 ミドリが叫ぶ。

 完全に格上の相手だけど、ミドリがどのぐらい耐えられるのか俺も見てみたい。

 俺はミドリから少し離れ、見守ることにした。


 レッドキャップは、勢いのままジャンプし斧を振り上げた。

 そしてミドリめがけて、一気に振り下ろす。


「パリィィィィィィィ!」


 レッドキャップの体重と勢いが加算され、凄まじい速度で振り下ろされる斧に対して、ミドリは盾で受け流すようにパリィする。

 盾越しでも大ダメージ確定。少しでもミスれば確実にやられる一撃に、ミドリは一切怯むことなくパリィで迎撃した。

 

「すげぇぇぇ! あのタンク、パリィしたぞ!」

「あの速度に合わせるとか、どうなってんだ!」

「か、かっけえええ!」


 襲われてたプレイヤー達から歓声が上がる。

 マジかよ……初心者なのにあの攻撃に完璧に合わせるとかヤバいな。


「ミドリ、凄いぞ! 完璧なパリィだったよ」


 さてと、次は俺の番だ。

 動きが硬直している今なら簡単に倒せるけど、それだと俺の練習にならないからな。硬直が治るまで俺は待機する。


「おい、今がチャンスだ!」

「早く攻撃しろよぉ!」

「何やってんだよ。このトーシローがっ!!」


 ……俺へのヘイトが凄い。

 ミドリも何故攻撃しないのか不思議そうにしている。


 レッドキャップが硬直から回復し、再びミドリを襲おうとする。

 その瞬間、俺はレッドキャップに蹴りを入れた。

 良い感じに吹っ飛んだな。

 ミドリから少し離れて戦わないとな。


 レッドキャップが斧を構え、強烈な殺意を持って俺に迫ってきた。

 斧を小枝のように軽々と振り、二回、三回と俺のヴァンパイアナイフと激しく斬り合う。

 なかなかどうして、隙がないな。


『どうしたのよ! こんなヤツに負けたら許さないから!』


 ノルンが応援なのか嘆いてるのかわからない言葉をかけてくる。


「テンマ! 無理なら逃げて、絶対に無理しないでっ!!」


 ミドリが悲鳴に似た声で叫ぶ。


「しょうがないだろ。相手はユニークモンスターだぞ。最低ダブルは狙いたい!」


「……へ? ダブル?」


 これ以上周りに心配されるのも心外なので、そろそろ決めないとな。

 こいつの攻撃パターンもわかってきた……ここだぁ! 


 俺はレッドキャップの斧をしゃがんで交わし、両足をヴァンパイアナイフで切断する。レッドキャップはバランスを崩し斧を手放した。

 今だ! 俺はこのチャンスを見逃さず、赤いとんがり帽子を左手で奪う。


「は?」

「へ?」

「なっ?」

「ギッ?」


 唖然とするレッドキャップ。

 

「これでお終いだ!」


 俺は右手に握るヴァンパイアナイフを首筋に振り下ろした。

 レッドキャップは目を見開いたまま、黒い煙となって消えた。

 その痕には、とんがり帽子とブーツ、斧が落ちていた。


「おおっ! ナイストリプル!」

 

「……て、テンマ。もしかして、ダブルってドロップアイテムのことを言ってたの?」


 ミドリがびっくりしているようだった。

 俺はゴブリン退治を繰り返している内に、なんとなくドロップに法則があるような気がしていた。まだ検証はしていないが、レッドキャップから狙ったアイテムをドロップできたのでたぶん当たりだ。


「テンマ、こっちも終わった。あの人達に被害でないように倒すの大変だった」


 うんうん。アオイはそういう戦い方を身につけようね。

 俺達がドロップアイテムを回収していると、生き残った3人のプレイヤーがこちらにやってきた。


「オレ達はクラン【ゲッターズ】といいます。助けてくれてありがとうございました。採掘の帰りだったんで、全滅だけは避けたかったんですよ。本当に助かりました」


「私達はクラン【碧眼の魔女たち】。レッドキャップごちそうさまでした。だから貸し借りは無しでいい」


 ……つまり、レッドキャップのドロップをくれ。それで貸し借り無しだ。という意味だろう。アオイよ、初対面の相手にぐらい、きちんと話せ。


 ゲッターズはアオイの言葉の意味を理解するのに少し時間がかかったが、それでも何かお礼をさせてくれと言ってきた。そして、ダンジョン1階にあるホカホカ草の隠れ群生地の情報を教えてくれた。


 彼らと別れた後でアオイに聞いた話だが、ホカホカ草は通常6階以降で採取できるアイテムで、低レベルのプレイヤーにとっては高額で売れるおいしいアイテムなんだとか。ただ、その群生地の近くにはレッドキャップが出没するため、情報に疎いプレイヤーしか行かないらしい。


 アオイ曰く「私達はすぐに6階なんて超えていくから、わざわざ採取しに行く必要なんてない」ということだった。


 ◇


 ——俺達はダンジョンから出て、近くの公園のベンチに座っていた。


 レッドキャップのドロップアイテムは、アオイに鑑定してもらった。

 【赤いとんがり帽子】は名前もそのままだった。効果は【クールタイム減少(小)】。パッシブスキルで、スキルを使ったときのクールタイムが少し減るらしい。

 これは見た目的にもアオイが装備することになった。


 皮と鉄で出来たブーツの正式名称はアクセルブーツ。効果は【瞬歩】が付いていた。瞬歩はアクティブスキルで、1歩目だけ高速に移動できるスキルだ。

 これは俺が装備させてもらった。

 【身体能力向上(大)】を持つ俺が使うと、ミドリ曰く早すぎて見えないらしい。


 最後の斧だが、呪われていたため鑑定できなかった。

 とりあえずアイテムボックスの肥やしにしておく。


 今回の一通りの戦闘で、ミドリはレベルが5→9。俺が9→11に上がった。

 レッドキャップの経験値が大きかったんだろう。

 身体のキレや体力が上がっている気がする。


「それじゃあ、今日はそろそろ上がるか。明日は一学期の終業式。夏休みはどっぷり浸かるぞ!」


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