第19話 一学期の終業式(1)

 ドンドンドンドン。


「おい。兄貴、起きろよ! マジで遅刻するぞ! ……行ってきます」


 ……ん? あきらの声……今何時だ?

 時計はどこいった……


『しょうがないわね。今は8時よ』


 8時……

 げっ! マズい。遅刻じゃねえか。

 ノルン。何でもっと早く起こしてくれないんだよ。


『一言も頼まれてないわよ。それに4時ぐらいまでゲームしてたテンマが悪い』


 いやいや、やるだろう。

 みんなを無視して1人でイベントを進めるつもりはないが、操作には慣れとかないとな。

 それにしても、疲れが半端ない。

 ゲーム内の疲労が【リアル】にも出てるってことか。

 とにかく、行く準備しないとな。

 

十真とうま! みどりちゃんが来たわよ。早くしなさい」


 母さんの怒鳴り声が1階から響く。

 ミドリが迎えに来た?

 珍しいな。とにかく急ごう。


 ◇


 ——大急ぎで支度して、なんとか学校に間に合う時間に家を出られた。

 俺とミドリが通う高校は地元で、家から近かった。

 弟の明は進学校で電車通学だ。


 相変わらずミドリと一緒にいると周りからの視線がすごい。

 ミドリは美人だ。芸能人と言われても全く違和感がないぐらい目立つのだ。本人はそんなことないと言うが、オーラみたいなモノが出てるからな。

 妹のアオイも同様に美人だ。如月美人姉妹と地元で有名だったりする。

 それにしても、今日はいつもより見られているような気がする……なぜ?


「本当に朝ご飯食べなくて良かったの? 私のことなら気にしなくても良かったのに」


「いや、今日は食べてたら完全に遅刻だった。ミドリのせいじゃないぞ。それよりも迎えに来るなんてどうした?」


「今朝メールをみたら、『あなたのクランはEランクの基準を満たしました』って書かれてあったの」


 ミドリがジーッと俺のことを見ている。

 何かを疑っているようだ。


「昨日、ゴブリンを沢山倒したからじゃないのか? 50匹も倒したからな」


「テンマ、クランランキングって知ってる? 私が寝るとき【碧眼の魔女たち】のランキングは3100万台だったのよ」


 さ、さんぜんひゃくまん?

 どんだけクランがあるんだよ。


「けど、今朝送られてきたメールには、2900万台になってたのよ。私達がログアウトした後、誰かがやり続けてたってことよね?」


「そ、そういえば、ちょっと眠れなかったから、あの後も少しやったかな。あははは」


「やっぱり! テンマにはテンマのペースがあるから何も言わないけど、身体を壊すような無茶はしないでよ。……それでどのぐらいやったの?」


 ……ごめん。心配かけるかもしれないけど、ゲームに慣れることが今一番大事なんだ。自分の強さを正確にわからないと、怖くてダメージ1つも負えなくなる。

 だからあの後、俺はモンスターとひたすら検証を繰り返した。

 ゴブリンの攻撃をいろんな部位で受けてダメージに差はでるのか、状態異常は発生するのか。防御だけでなく攻撃でもいろいろ試した。


 その結果分かったことは、【リアル】だということ。

 相手の目を攻撃すれば、相手は何も見えなくなる。つまり意図的に状態異常を起こせた。

 これはモンスターを倒したときのドロップアイテムも同様だった。武器をドロップさせたければ、倒す前に武器を取り上げておく。【爪】をドロップさせたければ、腕を切り落す。本体から何も離さずに倒したときは、ドロップはランダムだった。きっと一般プレイヤーは、全員この判定なんだろう。


 俺も早く、アオイのように【リアル】を活かせるようにならないとな。


「昨日は、Fランクで受けられる討伐クエストを一通りかな。スライム、一角兎、ゴブリンとか合計300匹ぐらい倒したかな」


「さ、さんびゃく!? そんなに倒したの?」


「ああ。倒すよりも探す方に時間がかかったけどな。けど、どのぐらい高くジャンプできるのか、飛び降りても大丈夫な高さはどれぐらいなのか。いろいろ確認することがあったから、暇な時間はなかったよ」


 そのおかげで、スキルで強化された身体に大分慣れることができた。

 レベルも11→14に上がった。


 ◇


 学校に着くと、ミドリとは別クラスなので別れた。

 教室に入ると、沢山の視線を感じる。

 さっきまでミドリと一緒にいたから、自意識過剰になってるのかもな。

 俺は自分の席についた。


「あんなにかっこよかったっけ?」

「本当だ……どうして今まで気づかなかったんだろ」


 周りの女子から声が聞こえる。

 この席になってからは本当に苦痛だった。

 俺の周りに陽キャが集まってしまったのだ。

 学校以外の時間のほぼ全てをゲーム【絶剣乱舞】に注いでた俺とは、全くコミュニケーションが成立しなかった。

 今もアイドルの話でもしているんだろう。

 

「おっ、いたぞ。アイツだ!」


 廊下から別クラスの男子生徒が、こっちに向かって指を差していた。

 すると体格のいい男子を先頭に、ゾロゾロと柄の悪そうなのが教室に入ってきた。

 あの先頭のやつ……名前はたしか足立あだちだっけ。

 こいつは悪い噂しか聞かない。

 地元の不良グルーブに属していて、何かあればすぐにそれをチラつかせるらしい。

 まさに、虎の威を借る狐だ。


 男達は周りを威嚇しながら教室内を進んでくる。

 陽キャの誰かが、問題でも起こしたのか?


 そして俺の席までやってきた。

 ……まさかの俺ですか?


「おまえ、3組の如月と一緒に登校してきたのか?」


 如月……ミドリのことか。

 ミドリはモテる。あれだけ美人で性格も良いのだ。モテないわけがない。

 そんなミドリでも、世の中全員から好かれるなんて不可能で、ねたみからくる口撃に俺はよく使われていた。

 お互いのことを考えて、学校では極力接しないようにしていたんだけどな。

 油断するとすぐこれだ。


「オイ。無視するなよ。おまえ、オレの女に手を出したのかって聞いてるんだよ」


 アホかコイツ。ミドリがおまえみたいなの相手にする分けないだろ。

 あまりの馬鹿らしさに、ため息が漏れてしまった。

 アッと思ったが、遅かったらしく足立は顔を強ばらせ俺を睨む。

 そして、俺の顔面めがけて右足で蹴を放った。


 うわっ…………。

 あれ? なんだこの遅さは。

 俺はついつい足立の右足首を掴んでしまった。


「「「!!」」」


 必死に振りほどこうと足立がジタバタしているが、俺にはほとんど力を感じない。

 まるで周りのみんなを騙すために、1人で演技しているようにさえ感じる。


「てめぇ、離せコラぁ!」


 俺は掴んでる足首を離す。すると、足立はちょうど力を入れたタイミングだったらしく、思いっきりすっ転んでしまった。



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