第20話 一学期の終業式(2)
わなわなと足立の肩は震えている。
お、俺は悪くないよな。離せと言われたから離しただけだ。
そのとき、教室の扉が開き担任の先生が入ってきた。
いつの間にかチャイムが鳴っていたらしい。
「ん? おまえ達何やってるんだ? 自分のクラスに戻れ。ホームルーム始めるぞ」
足立は俺を睨む。
「てめぇ、覚えとけよ。無事に帰れると思うなよ」
捨て台詞を吐いて教室から出て行った。
いつもはしゃべらない周りの陽キャ達が俺に話しかけて来る。
「八神、おまえ強いんだな」
「足立にケンカ売るとかすげぇな」
「八神くん、格好良かったよ!」
「うんうん。マジ惚れた!」
……俺はケンカ売ってないんだけどね。
それに先生の視線が痛いから、みんな前向いてくれ。
『テンマ。あんなヤツらぶっ飛ばせばよかったのに』
ノルンまで過激になってるし。
◇
そんなこんなで、今までほとんどしゃべったことがなかったクラスメートとノルンと話しているうちに、帰る時間になった。
なんか帰るときに、トラブルの予感がするんだよな。
ミドリとは別々に帰った方が良さそうだ。
約束しているわけじゃないけど、顔を合わせる前に帰るか。
俺は席を立ち、教室から出ようとするとミドリがいた。
早すぎるだろ!
「テンマ帰ろうよ。夏休みの打ち合わせしたいし」
「ミドリ。今日は嫌な予感がするから別々に帰ろう。夏休みの打ち合わせはゲームの中でもできる」
「嫌よ。今朝の足立君の件は聞いた。私が一緒にいれば来ないでしょ。さあ、帰るわよ」
今朝のこと知っていたのか……だから、急いで俺を待っていたわけね。
けど、俺はミドリがいてもくると思うんだよ。むしろ、ミドリの前だからがんばっちゃうみたいな感じで。
ミドリは自分の責任だと思っているのか、俺が何を言っても聞かない。
困った。……まさかスキル【トラブルメーカー】の効果じゃないだろうな?
◇
俺とミドリが帰っている途中、10人ぐらいの柄の悪いヤツらが俺達に向かって歩いてきた。その中に足立がいた。俺に用事があるのは間違いないだろう。
「おい。朝言ったことが、わからなかったみてぇだな」
「テンマ、何言われたの?」
ミドリは足立の女らしいぞ……これって、本人に伝えていいのだろうか?
もし、秘密だったら足立に申し訳ないので、俺はまず確認をとることにした。
「……如月に言っていいのか?」
「ギッギギギ…………」
足立は歯をくいしばり俺を睨む。
おまえはゴブリンか!
本人に言われたくないなら、最初から話題をふるなよ。
早く家に帰ってゲームをしたいから、俺は足立を無視して通り過ぎようとした。
「おい、女の前だからってかっこつけるなよ。ちょっとツラ貸せ。すぐに終わるからよ。それとも女を拉致った方がいいか?」
足立の連れの男がそう言うと、ニヤニヤと下品に笑う。
『こっちの世界にもゴブリンっているのね。言葉をしゃべられるなんて凄いじゃない! かなりの上位種なのよね?』
ノルンが何か勘違いをしている。
けど、確かに似てるなと思ってしまった自分がいた。
『テンマ。やっつけた方がいいわよ。逃がすとミドリが1人のときに危険だわ。ゴブリンは知恵があるの。特に顔を覚えられたからやっかいね』
ノルンの言うことも一理ある。
俺はいいんだけど、ミドリに何かあったら後悔してもしきれない。
ちゃんと話をつけた方が良さそうだな。
「わかったよ。俺がついていくから、ミドリは帰っていいよな」
「み、ミドリだぁ!? おまえ名前で呼び捨てにしんじゃねえぞコラァ!」
あっ……マズったな。いつもの呼び方が出てしまった。
「どうしてダメなの? 私が下の名前で呼んでってお願いしたんだから、いいと思うけど」
足立が後ずさり、「それ本当なのか?」と俺に目線を送ってくる。
ミドリ。話がこじれるからとりあえず帰っておこうか。
足立は見かけによらず心の耐久値は低いらしい。ダメージが大きそうだ。
◇
ちょうど近くにクラスの女子達がいたのでミドリをまかせた。俺と別れた後、襲われたらやっかいだからな。
俺は厳つい男達に囲まれながら河川敷の高架下に連れて行かれた。
そこには、さらに20人ぐらいのいかにもな連中が集まっていた。
バイクもあるし、制服や年齢も様々だな。
これが、噂に聞く不良グループなのか。
「アダッチ。俺達のことボロクソ言ってたのはそいつか?」
「ちょっとイケメンじゃネ?」
「とりあえず動画ね。誰かまわして」
「誰が先にやんの? 2分交代でいいよな?」
『ストリートファイトやってみた』とかタイトルつけて、動画配信する気なのか?
カメラに写らない位置で数人が鉄パイプやナイフを見せびらかしている。
あれで恐怖心を
『テンマ。クエスト受けとけばよかったわね。ゴブリンの上位種が30匹。ただ働きするにはもったいないわ』
……そうだよな。ノルンからだとそう見えるよな。
俺としても、今の状況をノルンに説明するのは難しい。
理屈じゃない。ただ理不尽なだけのイベントだ。
「よし、俺からいくぜ。おい、かかって来いよ。先に一発殴らせてやる」
そう言って、男は両手を挙げて俺に近づいてきた。
『テンマ、チャンスよ。やっちゃいなさい!』
はぁ……ノルン、ダメだよ。これは罠だ。
こっちの世界だと、先に手を出した方が悪いことになる。
しかも撮影して証拠を残そうとしている。
ライブ配信していると、もみ消すこともできないからな。
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