第21話 一学期の終業式(3)

 俺はスマホで撮影している男に向かって歩く。


「おい。おまえどこ行くんだよ。相手はこっちだ。逃げんなよ」


 戦う気満々の男の言葉を無視して、撮影しているスマホを取り上げた。


「て、てめぇ、何しやがる! 返せコラァ」


 撮影してた男は、スマホを取り返そうと俺に蹴りを入れた。

 よしっ! ちゃんと撮ったぞ。


「イタタタタ。ナニするんですか。いきなり殴ってきて。ひどいじゃないデスカ」


『テンマ、何よその棒読みは!』


 うるせぇ。こっちだって好きでやってるんじゃないんだよ。

 俺は武器を持つ男達も含め、ここにいる全員をしっかり撮影しておく。

 あの鉄パイプを持ってるヤツでいいか。俺が近寄ると、鉄パイプを振り回してきた。俺は自撮りするようにスマホを掲げ、鉄パイプで頭を殴られるシーンをしっかり写す。

 くっ……いててて。【身体能力向上(大)】があってもちょっと痛かった。

 頭を手で触れると、良い感じに血が付いた。

 これもしっかり写しておこう。


「ぶ、ぶったな! 親にだって殴られたことないのに!」


『テンマ、楽しそうなんだけど……気のせいよね?』


「ダメだ。このままだとコロサレル。逃げなきゃ。あ、逃げ道もフサガレテイル」


 鉄パイプ男が、もう一度振り回してきた。

 なっ……鉄パイプが曲がってるじゃないか! 普通の人なら死んでるからね。

 俺は鉄パイプを撮影しているスマホで受け止めた。

 パリンっとスマホのディスプレイが割れた。


「お、俺のスマホが! ぶっ殺してやる!」


 これで証拠は十分だろ。俺は壊れたスマホを捨てた。

 さてと、ここからは話し合いの時間だ。

 漫画によると拳同士でも語り合えるらしいからな。

 ちゃんと俺のメッセージが伝わることを祈るぜ。


 まずはスマホ男と鉄パイプ男だな。

 大振りもいいところだ、格ゲーで鍛えた俺の目を舐めるなよ。

 2人にはカウンターで、腹パンをお見舞いしてあげた。


「「「「なっ!」」」」


 驚いてる? 自分達がやられる想定はしていなかったらしい。

 次は、俺を殴れ男にするか。


「てめぇ、ちょっと強いからってイキんなよ!」


 だから、モーションが大きいんだよ。

 次の攻撃がまるわかりだ。

 俺は右ストレートを屈んで交わし、左ストレートを鳩尾みぞおちに入れる。

 男は倒れ込みジタバタと苦しみだした。


 どうした? 完全にシーンとしているんだけど。


「全員でかかれ。とにかく取り押さえろぉ!」


 赤髪の男が叫んだ。あいつがリーダーみたいだな。

 四方から男達が突っ込んでくる。


『テンマ、捕まると手加減が難しくなるわよ。どうするの?』


 大丈夫だ。ゴブリンの集団相手に練習済みだから。

 俺は高架下の柱めがけて走る。通り道に2人の男がいたが、すれ違いざまに悶絶させておいた。

 柱を背にして俺は立ち、迎え撃つために構えた。


「先に言っておくぞ。やむを得ない場合、ちょっと強めに殴る。骨や歯が折れるのを覚悟しろよ。嫌なら逃げた方がいいからな」


「バカが、この状況でビビったか」

「謝るのはおまえだろ。まあ、許さないけどな」

「これだけの数に囲まれて、なんとかなるわけねぇだろうが」


 うん。了解は得られたようだ。

 赤髪の男が全員を見渡した後、あざ笑うかのように合図を出した。


「おまえら、やれ!」


 三方から20人以上の男達が一斉に襲いかかってきた。

 俺は後ろを振り向き、コンクリートの柱に向かってジャンプする。

 そして両足で柱を蹴り、その勢いを利用して男達の背後に飛んだ。


「遅い!」


 呆然とし動きが止まった男達めがけて、俺は速攻で意識を刈りに行く。

 基本は顎と腹。間に合わない場合は、数人まとめて蹴り飛ばす。


『レベルが上がりました』


 へ? 現実世界でもレベルがあがった!?

 ということは、こっちでも経験値が貰えるってことか。

 敵の強さを考えると、むしろ経験値がオイシイ気がする。

 ……こんな所においしい狩り場があるとは。

 いやいや、この考えはマズいな。完全にアウトだ。


 後は残り10人ぐらい。もう余裕だな。

 赤髪とはしっかり話し合う必要があるから、一番最後にしてと。

 それから1分もしないうちに、立っているのは赤髪1人だけになった。

 

「……バ、バケモンか。お、おまえ、何者なんだよ」


「足立と同じ高校に通う2年生だ」


「そういう意味じゃねぇ。なんでそんなに強いんだ」


「そういうのいらないから。あと、後ろに隠しているナイフも無駄だからな」


 さっき後ろに回り込んだときに、ナイフ持ってたのバッチリ見たからな。

 落ちてる金属バットを拾い、両手で折って見せた。

 

「殺さないように手加減してるのわかったか? 殺しに来るなら容赦しないぞ」


 俺は赤髪に向かって歩く。男はプルプル震えてナイフを捨てた。


「わ、悪かった。あ、謝るから許して——」


 鳩尾に右ストレートをたたき込む。

 拳で語る約束をしたからな。それに……謝る前だからセーフだよね。


『これからどうするの?』


 ちゃんとみんなで話し合うに決まってるだろ。

 逆恨みされても嫌だからな。


 ——それから俺は、全員から住所と連絡先と学校を教えてもらった。


 二度と今日みたいなことはやらないと約束もしてもらう。

 もし見かけたり、俺に相談がきたらまた全員で話し合いすることも伝えた。

 ここいるメンバー以外の犯行でも全員集合だ。


 一部から「他のヤツらのことなんて、俺達が知るかよ」と意見が出た。

 鉄パイプを目の前で折って見せたら、とても協力的になってくれた。

 自分でもメチャクチャなことを言ってるのはわかってる。

 けど、敵を減らすだけではダメだ。味方も増やしていかないと。

 その後、少し話し合いをした結果、みんなが協力したいと頷いてくれたので、笑顔で解散することになった。


 ◇


 後日談。


 壊れたと思っていた配信用スマホは、奇跡的に動いてた。

 カメラはずっと空を写していたが、音声だけはライブ配信されていたのだ。


 この不良グループの動画チャンネルは、地元の不良達の界隈では有名だったらしく、俺との話し合いはしっかりと視聴者にも伝わったそうだ。

 それから、近郊の学校では暴力沙汰が激減し、不良達と被害に遭ってた人達から【八神ニキ】と俺は呼ばれるようになっていた。

 


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