第17話 初陣(2)

「アオイ。近くのゴブリンを探してくれ。今度は俺とミドリで戦う」


「テンマ、あっちに5匹いる。距離は200メートルぐらい」


「索敵魔法って便利だよな。本当に助かるよ。次はミドリの戦闘訓練を行う。アオイが攻撃されないように、ミドリは敵を引きつけてくれ。倒さなくていいからな」


「え? 倒さなくていいの?」


「いいぞ。敵を倒すのは俺やアオイのアタッカーの役目だ。ミドリはタンクだから、敵を引きつけて仲間が攻撃されないようにしてくれると助かる」


「うん。わかった。やってみるよ!」


 子供の頃、ミドリは俺が遊びに行くのを見つけてはついてきた。

 俺がクラスの男子達とサッカーや野球をするとき、ミドリは人数あわせでよく参加してたっけ。気がつくと、まわりの男子よりも上手くなってるんだよな。

 だから運動神経は悪くない。いや、むしろかなり良いはずだ。


「よしっ! 見えた。練習だからアオイはそこで待機。ミドリ、挑発スキルを使ってくれ」


 ミドリは頷くと、ナイトソードでナイトシールドを叩き挑発スキルを発動する。

 ガンガンガンと金属音がすると、5匹のゴブリンはミドリを指差しこちらに向かって走り出した。


「いきなり5匹は厳しい。テンマはドS属性持ち」


「大丈夫だ。俺に考えがある。ちなみに俺はドSじゃないからな」


 さてと、俺も練習といきますか。

 一番端にいるゴブリンめがけて全速力で駆けてみる。

 さすが【身体能力向上(大)】。スピードも然る事ながら加速がすごい。

 俺はすれ違いざま、ヴァンパイアナイフで2匹のゴブリンの首を刈る。

 この時点で、まだゴブリンはミドリにたどり着いていなかった。


「お姉ちゃん。挑発使う。テンマがタゲとっちゃう」


「え、え、とにかくヘイトを上げればいいのよね」


 ゴブリンの足が止まりそうになったが、ミドリの挑発スキルでターゲットがミドリに戻った。ミドリ、ナイスだ!

 最初から3匹は厳しいかもしれないけど、俺にまかせておけ。

 ガッツリ鍛えてやるからな!


 ◇


 テンマがものすごいスピードで走り出したと思ったら、アッという間に2匹倒しちゃった。さすがテンマ! 知っていたけどやっぱり凄い!

 

 今度は私の番。

 とにかく、敵の攻撃を私が引き受ければいいのよね。

 やってやろうじゃないの!


「ギギ……ガキィ!」


 先頭を走ってきたゴブリンが錆びた剣で斬りかかってきた。

 さっきのテンマの速度を見た後だと、とても遅く感じる。

 とりあえず盾で受け止めてと。


「ゲゲ、クゲゴォ!」

「ガガガ、グゲゴォ!」


 後のゴブリンも追いついて3匹になり、ひたすら剣や棍棒を振り回してくる。

 え、ちょ、無理。間に合わないって!


「きゃっ……あれ? 急に楽になった」


 盾から顔を出して見てみると、1匹のゴブリンが黒い煙になって消えていた。

 その後ろにテンマが立っていた。


「ミドリ。ヘイト稼いで! 常にヘイトコントロールするんだ」


 あっ、いけない。忘れてた。

 たしか、私が攻撃してもヘイトは稼げるのよね。

 てい!

 ナイトソードでゴブリンを3回ぐらい突くと、ゴブリンは黒い煙になった。

 え? 今ので倒せたの!?

 この装備強すぎない?


「ミドリ。残り1匹のゴブリンは倒さないように。防御の練習をしよう」


「ありがとう! 気づいたことあったら教えて!」


 3匹と同時に戦った後での1匹だからか、すごく余裕がある。

 相手の攻撃の予備動作やパターンが見える。

 まさか、このことも計算尽くだった? テンマならありえるよね。

 

 ——ゴブリンとの戦闘に慣れてきた頃。


「ミドリ。ちょっと盾貸して」


 気がつくとテンマが隣に立っていた。

 い、いつの間に来たのよ。

 私から盾を借りると、テンマはゴブリンの前に立つ。


「よく見てて。今からパリィを見せるから」


 パリィ? 何それ。

 ゴブリンが剣を振りかぶり攻撃してきたとき、テンマは盾で剣を滑らせるように受け流した。

 ゴブリンは大きく体勢を崩して、地面に転がった。


「今のがパリィだ。受け流す以外にも、相手の攻撃に合わせて盾や剣で強く押して弾いてもいい。防御しながら相手のバランスを崩せば、連続攻撃を防げるしチャンスも作れるからな」


 私はそれから、パリィを練習させてもらった。

 ゴブリン1匹で余裕になったら、次は2匹を相手に練習する。

 コツや改善点など、テンマがわかりやすくアドバイスしてくれたので、ゴブリンを50匹倒した頃には、3匹相手でも上手く立ち回れるようになっていた。


 レベルも私が1→5。テンマが8→9に上がっていた。


 これは危険だわ。この上達していく快感が癖になりそう!

 テンマがゲームにはまる理由が分かった気がした。

 

 ◇


 ——アッという間に時間が溶けたな。


 戦闘はどんなもんかと思ったけど、かなり楽しい。

 部位破壊や目潰しとか、【リアル】の戦闘方法もいろいろ試せたしな。


 クエストも時間内に全てクリアできた。

 とりあえず、ミドリとアオイから文句言われることは避けられたな。


 そして、一番の収穫はミドリだ。

 ゲーム初心者なのに成長がヤバい。

 くっくくく。この調子で俺が立派なタンクに育ててやろう!


「アオイ。クエストクリアしたんだけど、冒険者ギルドに寄る必要はあるの?」


「お姉ちゃん。ステータスパネルのクエストから報告できる。やってみて」


「どれどれ、あっコレかな。ポチッとな。……クエスト報酬が合計500円。安っ!」


 ……500円。マジかよ。

 ゴブリン一匹あたり10円か。


「お姉ちゃん。ゴブリンのドロップ品は全て売るといい。錬金できないと使い道ない」


 ドロップ品は【ゴブリンのツメ】【ゴブリンの胆】【錆びた剣】とか、いろいろあったな。何に使うんだろうと思ったけど、錬金の素材だったのか。

 このあたりはアオイが一番詳しいので、従った方が良いだろう。


「……よし、売ったわよ。えーと、合計で2千円になったわ」


 そろそろ帰るとするか。

 そう思ったとき、近くで悲鳴が聞こえた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る