第16話 初陣(1)

 俺達はダンジョンへ行く前に、冒険者ギルドへ寄ることにした。


「お姉ちゃん。あそこが受付。クランをギルドに登録して。それしないとクエスト受けられない。私とテンマは、クエスト見てくる」


「わ、わかったわよ。なんか周りの目線が……気のせいよね」


「大丈夫。ビキニアーマー着ると、みんなそうなる」


「やっぱりコレのせいじゃない! だから私は嫌だったのよ……」


 ビキニアーマーを着てるヤツなんて、周りに誰もいなかった。

 あのカツアゲ女の趣味だったということか。

 けど、見た目に反して性能が良いんだよな。

 ミドリには悪いが、良い装備が手に入るまで我慢してもらうしかない。


 トボトボと受付に向かって歩いて行くミドリを見送り、俺とアオイは壁に掛けられているディスプレイの前に移動した。

 アオイがディスプレイのタッチパネルを操作して、クエストの一覧を表示させる。


「アオイ。おすすめのクエストを教えてくれ」


「Fランクだから、お使い系か雑魚討伐しかない。テンマが選んで。【トラブルメーカー】の出番」


 どれがいいかな。

 人型のモンスターと戦ってみたい。

 そうなるとゴブリンか……


「ミドリに戦闘経験を積ませたいから討伐系がいいな。これなんてどうだ?」


 そのとき、俺とアオイの間にミドリがやってきた。

 グイグイと身体を割り込ませてくる。

 こ、この感触は……俺は【リアル】とビキニアーマーに感謝した。


「登録終わったわよ。Fランクのクエスト受けられるんだって。ある程度クエストをクリアすれば、ランクはあがるらしいわよ。……テンマどうしたの? 顔が赤いわ」


「お姉ちゃん。テンマは——」


「こ、このクエストどうだ! ゴブリン討伐なんだけど、手始めには丁度良いよな。よ、よし、受けるからな!」


 俺は慌ててタッチパネルを操作する。

 とにかくこの密着状態はマズい。

 

「登録終わりと。さあ行くぞ!」


「て、テンマ。いくらなんでもこれは無理よ。ゴブリン5匹の討伐で3時間以内」


「ん? そんなの余裕だろ。経験者のアオイもいるし」


「そのクエストを10回だよ……でも、これがガチ勢ってやつなのね。私の考えが甘かったわ。なんとか戦力になれるよう私も頑張るから、絶対に成功させましょ!」


「……お、おう? よし、みんな行くぞ」


 10回……? 俺はタップを1回しかしてないぞ。

 どうしてこうなった?


『テンマ。十の位のボタンを押してたわよ。いいじゃない。さっさと倒してきましょうよ』


 はっ!? クエストの受注に十の位なんて用意するなよ!

 くそっ、しょうがない。

 たかだかゴブリン50匹。やってやるぜ!


 ◇


 俺達はダンジョンの1階に入った。

 上を向けば空があり、草原と森が綺麗な階層だ。


「アオイ。【索敵(中)】のスキルで、ゴブリンを探してくれ」


 アオイは頷くと、杖で空中に文字を書き「サーチ」と唱えた。


「あっちに4匹ぐらいいる」


「今、空中に書いてたのが前に言っていたスペルなのか?」


「そう。今のは私のアカシックマーク【アンスール】のスペル。半径500メートルぐらい索敵できる。他のアカシックマークと組み合わせると、もっと距離伸ばせる」


 マジか……かっこいい。

 学園に通う魔法使いの映画のようだった。


 アオイの後について少し歩くと、100メートルぐらい離れたところに4匹のゴブリンが見えた。

 周りに他のプレイヤーはいない。俺達が狩っても大丈夫だな。


「テンマ。お姉ちゃん。私の戦い方みてて。先輩がお手本を見せる」


 アオイは杖でスペルを書き「ファイア」と唱えた。

 すると20メートルぐらい前方に、バスケットボールサイズの炎の塊が現れた。


 続けざまにスペルを書き「トルネード」と唱えると、杖の先から小さな竜巻が炎の塊めがけて放たれた。

 炎を吸収した竜巻は周囲の空気を取り込み、上昇気流を発生させ瞬く間に巨大な炎の竜巻となった。


 ……おいおい。

 ゴブリン相手になんて魔法使ってるんだよ。


 アオイが杖をゴブリンめがけてふった瞬間、竜巻はもの凄い速度で4匹のゴブリンめがけて進んでいく。ゴブリンは竜巻に触れる前に燃え尽きて消滅した。

 竜巻が消えた後、周囲の草原は見る影もなく、焼けただれた大地だけが残っていた。


「どう? これが私の実力。炎と竜巻で作った火災旋風。これ私のオリジナル魔法。しかも省エネ」


 ……先輩。全くお手本になっていないんですけど。


「て、テンマ。なんか周りの景色が大変なことになっているけど……これは夢じゃないんだよね?」


「た、たぶんだけど、魔法を使って【リアル】の科学現象をゲーム内で発生させてるんだ。……アオイ、俺が戦ってるときは魔法禁止ね。俺はラスボスよりもおまえが怖いよ」


「な、なんで? 大丈夫。テンマには効かない」


「俺には効かない?」


「だって、【スペル無効】のスキルをテンマ持ってる」


 ……いや、それは無理。俺に試す勇気はないぞ。

 何はともあれ、俺の戦ってるところでアオイの攻撃魔法は禁止にした。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る