第14話 準備(2)

「【リアル】だと、ゲーム内で起きたことが現実に影響する。ゲーム内で指を怪我すれば、現実の自分も指を怪我する。OK?」


「お、OK」


「ゲーム内で大量の血を流しても、現実の自分の部屋には血は流れてない。OK?」


「えぇぇぇ! そうなのか! OK!」


「ゲームの中でおしっこすると、現実の自分の体内から尿は無くなる。部屋も汚れない。OK?」


「は?」


 最後のはなんだったんだ。

 今、アオイに洗脳されそうになったような……


「ゲームから現実に影響するのは体内で起きたことだけ。これ大事。ちゃんと理解しておく」


 なるほど……ゲーム内で大量に出血した場合、現実では身体の中の血が減るけど、部屋には血が流れていないということか。

 その発展系がおしっことは……。


「テンマに質問。ゲーム内でお風呂入るとどうなる?」


「皮膚の表面が綺麗になるだけだから、現実世界では何も変わってない」


「正解! これ知らないとお姉ちゃんに怒られる」


 堪えろ俺。突っ込んじゃいけない。

 アオイワールドに引き込まれるな。


「あ、ありがとう。とても参考になったよ。さすが先輩だった」


 そろそろ俺の話もするか。

 ミドリをあまり待たせるわけにもいかないからな。


「俺からも話があるんだけどいいか。この話はかなり危険だ。正直、今でも話すべきか悩んでる。けど、アオイの力が必要だとも思っているんだ。俺の都合で——」


「大丈夫。聞く。いや、聞きたい」


 なぜだろう。アオイの目がギラギラしているんだが。


「お、おう。わかった。それじゃあ、最初から話すぞ。俺が選んだ魂印は——」


 俺はアス王国のクロイさんの部分も含めて全て話した。

 アオイが途中で何度か興奮して暴れたが、なんとか話し終えた。


「まさか、テンマが【ブランク】を取っていたとは。驚いた」


 目を輝かせ、アオイは両手を被せるように俺の両手を掴む。

 これは……何がおきているんだ?

 そしてアオイは真剣な表情になる。


「……話を聞いて。私はこのゲームを攻略する。これは本気。そのためにはテンマの力が必要。はじめは同じ【リアル】だから興味をもった。けど今は違う。テンマの意外性がほしい。トラブルやクエストを引き込む運命がほしい」


「お、俺はそんな運命なんて持ってないぞ」


「違う。このゲームのアカシックマークは、それぞれに意味があってとても強い力がある。魂印はプレイヤーに大きく影響する。テンマはブランクの意味する【運命、宿命、必然】を授かっているから、それはゲームの攻略に何か意味があるはず」


 さ、左様ですか。


「そして、ナビーと一体化する発想。そんなこと誰も考えつかない。やろうとしない。テンマは天才!」


 そう言うと、アオイは俺の顔を両手でガシッと掴み、顔を近づけてくる。

 お、おい。近いって。

 なんでそんなに鼻息が荒いんだよ……


「左目。外見的には特にわからない。取り出すしか……」


 なんの拷問だ! 【リアル】の俺には洒落になってない。

 俺は慌ててアオイの手を振り払った。

 アオイはハッと我に戻ったようだ。


「テンマ。今のは……冗談だから」


 その間が気になるんですけど。


 アオイの見解によると、ノルンが俺の左目と一体化したことで、【リアル】の力によりノルンも現実世界に持ち出せたんじゃないかと言っていた。

 しかも、ノルンに紐付くゲーム内の設定も持ち出せてるんじゃないかと……

 だからアバターやスキルとかも現実世界で使えるらしい。


 ◇


 ミドリに戻ってきてもらい、俺達はお互いのステータスを確認することにした。

 まずは俺からだ。


————

【名前】テンマ

【レベル】8(New)

【HP】※リアルの為ありません。

【MP】※リアルの為ありません。

【魂印】

 ブランク:運命、宿命、必然

【スキル】

 ノルン

  ├ 高速鑑定(小)

  ├ ノルンの魔眼

  ├ スペル無効

  └ トラブルメーカー

 ヌイの若木

  ├── 身体能力向上(大)

  └─ 幸運向上(中)

【装備】ヴァンパイアナイフ、布の服、村人の靴

————


 ん? いつの間にかレベルが上がってる。

 まさか……カツアゲ軍団を倒したときに上がったのか。

 ノルン。レベルが上がったときに通知するよう設定できるか?


『できるわよ。——ついでに寄生種が成長したときも通知するようにしておいたわ』


 おおっ、寄生種もできるのか。さすがノルンだ!


『あ、あたりまえよ。もっと褒めてもいいわよ』


 俺がノルンを褒めていると、アオイが不吉なことを言い出した。


「これがテンマのステータス。知らないスキル多い。……スペル無効! テンマ、スペル使えないかも」


「スペル……何それ?」


「スペルはアカシックマークで書く呪文のこと。使える文字はクランで所有するアカシックマーク。武器に刻印したり魔法を作れる。スペルを使うためには、それにあったスキルが必要。【火魔法】【刻印】【錬金】とか」


 なるほど。アカシックマークを組み合わせてオリジナルの魔法や装備を作れるのか。スペルには廃人ロマンがぎっしりって感じだな。

 そして、そんな楽しそうなスペルが俺には使えないと……

 マジかぁぁぁぁ!


「次は私のステータスの番。見て驚くといい」


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