第13話 準備(1)
ミドリ達との約束の時間が近いな。
そろそろ待ち合わせの役所前へ移動しておくか。
それにしても、こんな早々にPKに遭うとは。
まさか、俺のスキル【トラブルメーカー】のせいじゃないだろうな。
『テンマ、クロイさんからメール届いたよ』
ノルン、サンキューな!
ミドリとアオイに、俺のことを話してもいいかの返答だろうな。
————
【Re: ご相談】
アオイくんについては、監視対象の一人だからボク達も知っている。
彼女ならテンマくんのことを話してもいいだろう。攻略も進むだろうからね。
ミドリくんに話すのは禁止だ。彼女にとっても我々にとってもデメリットの方が多いからね。けど、【リアル】について話すことは許可しよう。
最後に、口止めはきちんとするように。後悔したくないならね。
※このメールはテンマくんが閉じたら、自動でログごと消去されます。送信メールは既に消去済みだから安心しておくれ。
————
俺はメールを閉じて、送信済みのメールを確認するとクロイさんに送ったメールは消えていた。……もしかして、メールのような方法で連絡するなって怒ってる?
次からは、アス城へ会いに行くか。
◇
役所前で少し待つと、ミドリとアオイがやってきた。
「お待たせ! ゲームの中だと3時間あったわけでしょ。テンマは何してたの?」
「アキバとかダンジョンとかいろいろ見てきた。あっ、アキバってガチャ屋が集まっているエリアのことな」
「テンマ、何出た?」
アオイが俺の腰につけているナイフの鞘を見ながら聞いてきた。
「ヴァンパイアナイフだ」
「……マジ? あの難攻不落と言われる【
そんな有名なガチャ屋だったのか。
あのカツアゲにきたヤツらは外れSSRって言ってたけど、きっとすごいナイフに違いない。
一度、鑑定士とかに見てもらって、武器の効果を調べるか。
「これからダンジョン行く前に、少し話がしたいんだ。アオイ、誰にも話を聞かれないような良いところあるかな?」
「……ある。ついてきて」
アオイは俺とミドリの手をとり、早足で歩いていく。
しばらく歩くと、アオイの足は人気のない古い家の前で止まった。
そして、そのまま家に入っていく。
ましかして、ここはアオイの家か!
マジか……一体いくらするんだ?
アオイはリビングに入ると椅子に座り、対面の椅子を俺とミドリにすすめた。
「あ、アオイ。すごいのね。こんな家を買えちゃうなんて……」
「お姉ちゃん。勘違い。ここは私の隠れ家だけど、買ってはいない。家具も揃っていいところ」
俺は、家の詳細情報を見た。【売り家:800万円】と表示された。
「……あっ、売り家なのか」
アオイはニヤリと笑った。
「正解。外には声漏れないし、ドアの鍵を閉めれば誰も入って来れない」
ミドリは頭を抱えていた。
通常なら鍵なんてかけられないんだろうけど、【リアル】だからできたのか。
さすが1年先行しているだけあるな。【リアル】の使い方が上手い。
「テンマ、それで話って何?」
「実は、ミドリには俺とアオイの秘密について説明しておこうと思ったんだ。アオイ話してもいいかな? クラマスのミドリに知っておいてもらわないと、他のプレイヤーとトラブルにもなりかねないからさ」
アオイは頷いた。
ん? ……ミドリのアバターがガクガクと不気味に揺れている。
なんなんだ? 大丈夫なのか!?
「テンマ、普通のプレイヤーは激しく動揺すると、あの動きする」
ミドリが動揺してるってことか。
「ひ、秘密って、な、ナニよ……」
「私とテンマは【リアル】なの。お姉ちゃんとは違うの」
なんだその適当すぎる説明は!
やばい、ミドリの揺れが大きくなった!!
「ミドリ。落ち着け。俺とアオイは、ゲーム難易度が【リアル】なんだ。【リアル】っていうのは、隠し設定で誰でも選べるわけじゃないんだけど、かなり危険な設定なんだ」
「へ? 隠し設定……」
俺は正気を取り戻したミドリに、【リアル】について説明した。
はじめは羨ましそうに聞いていたが、次第に事の重大さがわかったようだ。
「だから、そんなにリアルなアバターだったのね。いろいろ優遇されるけど命がけ……。ねえ、2人ともこのゲームやめない?」
沈黙が場に降りた。
しばらく誰も口を開かなかったのは、ミドリが本気で心配しているのを知っていたからだ。普段のミドリなら、絶対に止めたりはしない。
例え世界中に反対されたとしても、俺がやるんだと言えば、最後まで応援してくれるのがミドリなのだ。
「……ごめん。ゲームに命をかけるなんてバカだってわかっているんだけど、俺はこのゲームを攻略するまで止めないよ」
クロイさんとの約束でミドリに説明することはできないが、今となってはゲームをやめた方が死ぬリスクが高い。
「お姉ちゃん、ごめん。私もやめない。死なないように気をつける」
……そんだけ! って思ったけど、俺も言ってることは大して変わらないんだよな。
「そ、そう。わかった。……それなら、2人を死なせないように私も頑張る!」
ミドリはやっぱりミドリだった。
俺はそんな幼馴染みに感謝した。
「ミドリ。【リアル】のことは秘密にしてくれ。誰にも言わないように。理由はわかると思うけど、【リアル】のプレイヤーはどこでもダメージ判定があるから危険なんだ」
ミドリは頷き承諾してくれた。
「お姉ちゃん。ちょっとだけテンマと2人にさせて。テンマは【リアル】の初心者。大事なこと知らない。けど、これ【リアル】にしか話せない」
「わかった。私は散歩してくるから、話が終わったらスマホに連絡ちょうだい」
ミドリは扉を開けて外に出て行った。
俺もアオイと話したいことがあるから丁度良かった。
「アオイ、さっきの大事なことってなんだ?」
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