第11話 王都アヴァロン(3)

 ――俺達はアヴァロンの役所にきていた。


 ここに来るまで、アオイからこの街のことを教えてもらった。

 この街【アヴァロン】はアス王国の王都らしい。

 ダンジョンの中にも、いくつか街があるそうだ。


 クランはアス王国が管理しているため、クランを新たに作るにはアス王国の役所で申請手続きが必要とのこと。

 役所の中に入ると、大きな看板でクラン申込み窓口はこちらと書かれてあったので迷うことはなかった。

 パソコンがずらりと並び、どうやらここから申請するようだ。


 どれどれ……まずは、クランの名前か。


「ミドリ、なんか候補あるか?」


「【花鳥風月】【一騎当千】とか四文字熟語はどう?」


「同じ名前のクランが存在するか確認してみるか……ダメだな。すでに登録済みだ」


 アオイが手を上げた。


「……リアルがいい。【リアル】を選んだ人へのメッセージ」


「【リアル】な人へのメッセージ? 意味はよくわからないけど、悪くない名前だと思う。テンマが良いなら私は賛成」


「うーん。リスクが高いから却下」


 その後もいろいろ考えるが、なかなか良い案がでない。


『ねぇねぇ、良い名前を思いついたわよ。絶対おすすめよ!』


 ……ノルンだろ?


『あたり! よく分かったわね』


 ……ノルンの考えそうなことだ。すぐに分かったよ。

 紛らわしいから却下。

 ノルンが頭の中で文句を言い続けているが無視する。

 アカシックマーク【ブランク】を探している奴らはプレイヤーにもいそうだからな。わざわざ連想されるような名前にすることはないだろう。

 けど、みんなの名前をもじるのはアリだな。


碧眼へきがんなんてどうだ? 碧って漢字はアオともよ読めるしミドリとも読める」


「じゃあ、眼は何なの?」


「……なんとなくだ」


 ちょっと語呂が良くないか。それなら……


「【碧眼の魔女たち】でどうだ? 俺としては、このクランにぴったりの名前なんだけど」


「なんで魔女? それなら【碧眼の美女たち】か【碧眼の女神たち】の方がぴったり」


「アオイ、それはやめて。イタい目で見られるから。私はテンマの【碧眼の魔女たち】が良いと思う。どれどれ——あっ、まだ未登録。テンマ、クランの名前に【碧眼の魔女たち】は使えるよ」


「わかった。お姉ちゃんがいいなら、私も賛成」


 これでクラン名は決まったな。


『テンマ……ありがと』


 ……なんのことだ? 俺は何もしてないぞ。

 そう伝えても、ノルンはえへへへと喜んでいた。

 次はクランの代表者を誰にするか決めないと。


「これさ。ミドリでいいか?」


「テンマじゃないの?」


「俺は常に最前線で戦いたいんだ。【碧眼の魔女たち】の業務は信頼できるミドリに任せたい」


「……そ、そこまで言うなら。わ、私にまかせなさい」


「テンマ、お姉ちゃんの扱い上手い」


 何を言ってるんだ? 俺にそんなやましい考えはない。


 入力事項はたったのこれだけか。

 あとは、毎月クランの登録料がかかると。

 支払いを3ヶ月滞納すると強制解散になる……マジかよ。

 ノルン。登録料ってどのぐらい払うんだ?


『クランにはランクがあるの。ランクによって登録料金の支払額が変わるわ。一番上からS、A、B、C、D、E、Fよ。Fランクだとメンバー1人当たり1万円ね。今3人だから毎月支払う登録料は3万円ね』

 

 ノルンありがとう。


「ミドリ、アオイ……聞きづらいんだけど、所持金はいくらあるんだ? 俺は10万円だ」


「え……そんなに持ってるの! 私は5千円よ」


 ミドリは【リアル】じゃないからな。

 ログインボーナスの報酬も千円とか言ってたし。

 俺は10万円だったけど。


「私は一千万円ぐらいある」


「「い、一千万円!!」」


「このぐらいすぐに稼げるようになる。腕が良ければ!」


 アオイがドヤ顔をしている。

 けど、すぐに稼げるってことは、それだけお金が動いてるってことだ。

 つまり、ゲーム攻略が進むにつれて、必要になるアイテムや装備の金額も高くなるってことだよな。

 攻略に支障がでないよう、クラン管理の財布を用意しておいた方が良さそうだ。

 

「今後、クランの運営費を毎月メンバーから徴収するってのはどうだ? 登録料や攻略に必要なアイテムはそこから払ってことで。貯蓄計画やお金の管理はクラマスクランマスターのミドリに任せるよ」


「賛成。それで今月はいくら徴収する?」


 正直、クラン運営で一番やっかいなのはお金の管理だ。

 特にこのゲームのお金は、現実社会のお金と同じ価値がある。

 しっかり者のミドリが管理してくれれば、俺も安心だ。


 お金の管理はミドリがしてくれることになり、当面は一人当たり毎月3万円徴収することになった。ミドリの分はアオイが立て替えるそうだ。

 ミドリ。ちゃんと稼げるクランにするから、それまでは耐えてくれ。


 よし、これでいいだろう。

 俺が【申請】をタップすると申請完了の画面が表示された。


「これで手続きは終了です。後の設定作業はナビーの指示に従って下さい。ご利用ありがとうございました」


 クラマスのミドリがステータスパネルを開き、いろいろ操作している。


『テンマ。クランへの招待通知が届いたわよ』


 俺は頭の中で、クランメニューを開きクラン参加を承諾した。

 これでクランに関する作業は終わりだな。


「2人ともちゃんと【碧眼の魔女たち】のメンバーに登録されたわ」


 ミドリがそう言うと、アオイが俺の顔をずっと見ている。


「テンマ。いつステータスパネル操作した?」


 アオイのヤツ……よく見ているな。


「これは……その……スキルだ。俺固有のユニークスキルだ」


「同じ日にゲームを始めたのに、もうスキルとったの!? テンマがいれば【碧眼の魔女たち】も安泰ね」


 ミドリは喜んでいるが、アオイは冷ややかな目で俺を見ていた。

 いろいろバレるのも時間の問題な気がする。

 アオイに俺のことを話してもいいか、クロイさんに確認してみるか。

 ミドリは……【リアル】のことだけは知っておいてもらうか。

 それ以外は知ってしまうと、身の危険があるからな。

 アオイは、放っておくと独自で調査しかねない。その方が危険だ。


「さてとクランも作ったし、装備揃えてダンジョンに行ってみないか?」


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