第10話 王都アヴァロン(2)

「ごめん。ごめん。遅くなっちゃった。って、テンマ! 見た目がリアルそのまま! アオイといい、どうやったの?」


 ……リアルそのままだって?

 ミドリの中でも、現実世界の俺はこのキャラの容姿ってことか。

 ま、まあ、元の外見よりも格好良くなったので良しとするか。

 よしっ! 切り替えよう!


「ああ。ちょっとな。ミドリのアバターも結構リアルに寄せてるんじゃないのか?」


「アオイがそっくりのアバターでプレーしてるって言うから、私も合わせてみたの」


「み、ミドリさん、こんばんは! 入るクランって決まってたりしますか?」


 そういえば、明がミドリをクランに誘いたいって言ってたな。

 昔はあんなに気楽に接していたのに、いつの間にかあんな口調になってたんだよな。


「ええ、決まってるわ。テンマのクラン!!」


「ぐはっ……初耳なんだけど。兄貴そうなのか?」


 明が狼狽している。

 リアルだとあんなにイケメンなのに……ミドリ相手だとポンコツになる。


「いや、俺も初耳だよ。ミドリはゲームできるのか? 俺はガチでやるぞ」


 俺と一緒にゲームをやりたいと言ってくれるのは素直に嬉しいけど、今までミドリとゲームをやってこなかった。だから、どのぐらいの本気度でゲームをするつもりなのか不安だ。

 俺一人ならいいんだけど、今回はアス王国のクロイさんと『ゲームを一番最初に攻略する』約束があるからな。


「で、できるわよ。このゲームの勉強もしたんだから。それにクランの運営とかでも手が必要でしょ。無理にとは言わないけど……」


 クランの運営……そう言えば、俺は秘密がバレないように目立つのはまずいんだったな。クラン作ったときに、クラマスクランマスターをミドリにすればいいのか。表だったことは全てミドリにやってもらいたい。

 もちろん、ミドリを鍛えて一緒にできるクエストはパーティーとして回るつもりだ。ミドリなら気心知れているし、クランの運営も安心して任せられる。なにより楽しそうだ。

 すまん、弟よ。ミドリの意思を最優先に考慮しないとな!


「わかった。じゃあ一緒にクラン作るか」


「ふっふふふふ。とうとう私もテンマのゲーム友達になれたのね。あっ、忘れてた。アオイもここにくるって」


「「えっ!」」


 ……居ないからてっきりこないかと。


「あっ! 兄貴、俺はそろそろ自分のクランに戻らないと……みんなでクエスト行く約束してたの思い出したわ」


 明はお札のようなものをアイテムボックスから取り出し手でちぎった。

 すると身体が輝き出し、姿がパァッと消えてしまった。

 今のは転移アイテムか?


「あ、アオイがきた。遅い! 明くん、今帰っちゃったよ」


 後ろから聞こえたミドリの声で、俺は振り向くとそこにはアオイがいた。

 明のヤツ、アオイが見えたから急いで逃げたのか。


「はぁ、はぁ、はぁ……ごめん。遅れた。あっ、テンマ? ……ン……ンンン!?」


 アオイのヤツ、どうした? 俺のことじーっと見つめて驚いてるけど。

 おいおい、俺に向かって突っ込んでくるぞ。

 待て、ふざけんなって……ドォォォン!

 アオイが俺に覆い被さる形で、俺達は地面に倒れた。

 

「イテテテテ……会っていきなり頭突きするとか、何考えてるんだ!」


「くはぁぁぁ。痛い。テンマ予想より硬かった。けど、これでわかった」


 何がわかったんだよ! 早く俺の上から降りろ。

 慌ててミドリが俺に寄ってくる。


「な、何やってるのよ。アオイ! テンマ大丈夫? 鼻血が出てる!」


 アオイはニヤリと笑い、俺の鼻に指を刺す。


「「!?」」


 ン、ンガガガァ。【リアル】だけにマジで痛い……

 俺はアオイの手を振り払う。

 絶対に許さん! コイツだけはここに埋めてやる!!


「テンマ。これ見て。コレ」


 アオイは俺の鼻血が付いた指を見せる。

 そして、自分の赤くなったおでこを見せた。


 それがどう……し……た?

 アオイもケガをしただと!?

 よく見ると、アオイのアバターはリアルのアオイそのままだった。


「お姉ちゃん。クランどうすることにした? テンマと組む?」


「あっ、クランね。クランはテンマと一緒に作ることにした」


「わかった。ちょっとここで待ってて。クラン辞めてくる」


「へ?」


 アオイは俺に1つの小瓶を放り投げ、どこかへ走って行った。

 俺は小瓶を調べると、ポーションと表示された。

 ……ポーションを飲むと、鼻の痛みが治まった。血も止まったみたいだ。


「あ、あれはどういう意味だったんだろうな?」


「私達のクランに入りたいってことじゃない?」


「「…………」」


 ◇


 ——しばらくするとアオイが帰ってきた。

 

「お待たせ。さあ行こう。私達のクランを作りに!」


「てい!」


 俺は軽くアオイに頭にチョップした。


「痛い。暴力反対。テンマ、私の身体のヒミツ知ってるくせに。ひどいよ」


「な、な、何。身体のヒミツって!?」


「ミドリ落ち着け。相手はアオイだ。気にしたら負けだ。そんなことよりも、アオイは所属してたクランを辞めてきたのか?」


「辞めるって言ったら、ダメだって言われた。けど、王国兵士を連れて行ってたから大丈夫だった。私、優秀だから辞めるの大変」


 ……優秀。そう言えば、ミドリがアオイは天才だって言ってたな。

 中三でみんなが受験勉強している中、【アカシックワールド】をやり続けてたらしい。ゲーム内の時間は3倍だから勉強するんだと親には説明し、実際はゲームの攻略に明け暮れていたそうだ。

 さらに、合格したのが都内私立の難関校だとか。

 しかもアオイも【リアル】なんだよな。

 ゲーム攻略の役に立つかもしれん……


「よしわかった。俺達3人でクランを作ろうか。目標はゲーム攻略だ。ガチでやるからな」


「「おー!」」


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