第8話 アス(3)

「俺が初めて……ですか?」


「そう。1つ目の理由は君の魂印が【ブランク】だからだ。実は今回初めてゲーム内でブランクが確認されたんだ。研究チームがブランクは存在すると主張し続けてきたんだけど、今まで見つかってなくてね」


「存在するのは、わかっていたんですか?」


「アカシックマークはするんだ。けど、難しすぎて今まで誰も解明した人はいない。だから、アカシックマークを考えた人が、我々にもわかりやすいようにゲーム内でルーン文字に置き換えてくれたのさ。そして今まで1つのルーン文字が見つからなかった。ルーン文字の【ブランク】。別名【ウィルド】、意味は運命・宿命・必然。そして運命の女神ノルンを意味する」


 ノルンだって!?

 俺のナビーと同じ名前だけど……女神って柄じゃないよな。


『わ、悪かったわね。どうせ私は女神じゃないわよ!』


 ごめん。悪気があって言ったんじゃないんだ。

 何か関係あるのかなって疑問に思っただけ。


「あっ、念のため説明しておくけど、アカシックマークを選ぶときに真ん中の空白を選ぶのは、今までにも試されてきた。けど、選んでも何も起きなかったんだ。もしかするとマークの方がテンマくんを選んだのかもしれないね」


 マークが俺を選ぶ?

 ただの偶然だと思うけど。


「2つ目の理由は……これはなんて言っていいのか、こちらの想定外というか前代未聞というか……。ナビーと一体化して、力をゲームの外の現実世界に持ち出したのはテンマくんが初めてなんだよ。現実世界でアカシックマークの力を観測したとき、どれだけ驚いたことか!」


 おいおい、現実世界でもゲームの中でも監視されてるってことか?


「さてと本題に戻るよ。そんなわけでテンマくんは、かなり特殊なプレイヤーなんだ。世界中の国々が戦争をしてでも、君の秘密を知りたいぐらいにね」


「それって……世界中の研究機関が、俺をモルモットにしたいってことですか?」


「……運が良ければ国の要人として迎え入れてくれるかもしれないよ」


 思ってたよりマズい状況だな。


「だから、国ではなくアスに手を貸さないかってことですか?」


 クロイは真剣な顔で俺を見てから、首を横に振った。


「違うよ。に協力してくれないかって言ったんだよ」


「クロイさん個人ってことですか?」


 クロイはニヤリと笑いながら頷いた。


「こう見えても、ボクはアスの中で要職についている。ログや監視に関する責任者なんだ。実は、さっき言ったテンマくんの秘密は、ボクのチーム以外には知られていない」


 どんどん怪しくなっていくぞ。このおじさん。


「それで何を協力すればいいんですか?」


「簡単なことだよ。このままゲームを遊んでくれればいい。次の2つのルールを守りながらね。1つ目のルールはここでの話はもちろん、君の秘密を誰にもしゃべらないこと。2つ目のルールは、たまにボクからのクエストを受けてくれること。以上だ」


「……それだけ? それだけでいいんですか?」


「ああ、君にとって悪くない話だろ。あっ、ボクからのクエストも無理なときは断ってもいい。どうだい、この条件なら君も安心だろ?」


「1つ教えてください。クロイさんにとって何のメリットがあるんですか?」


「……最初にこのゲームの謎を解き明かしたいだけさ。そのためにテンマくんにはこのゲームを最初に攻略してもらう必要がある。だから、テンマくんはクリア報酬の1兆円も手に入るね」


 話が上手すぎる。……けど、これを断る手はない。

 たしかにゲーム内の力を現実世界に持ち出せるようになれば、世界は大きく変わるだろう。戦争や医療の分野でも凄いことになりそうだな。

 その魅力の前では、俺の人権なんてゴミみたいに考慮されることはないだろう。


「わかりました。その条件でお願いします。クロイさんのチームの皆さんは、俺の秘密を誰にも漏らさないってことでいいですよね?」


「当たり前だよ。それをすると最初に謎を解き明かせなくなるからね」


 俺はクロイさんとリカさんと握手を交わし、アス城をあとにした。


 ◇


 ——テンマが退出した後の応接の間。


「内緒にしていて良かったんですか?」


「リカくん、ボクは彼に何も内緒になんかしてないよ。君も聞いていただろ?」


「クロイ様のことです。彼が今後活躍していったとき、他の方々の目に入るはずです。そのときに後ろ盾があると知っていれば、無用な騒ぎを回避できると思うのですが」


 クロイは首を大きく横に振った。


「それじゃあダメなんだ。彼の魂印ブランクの意味は【運命、宿命、必然】だ。彼に起きることは全てありのまま受け入れないとね。ボクらがやることは、彼がゲームをやり続けられる環境を守ること。特にアスのバカどもからね」


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