第1話 ようこそアカシックワールドへ
『【アカシックワールド】へようこそ! これからあなたは冒険の旅に出ます。しかし、焦りは禁物です。まずはベテランの冒険者があなたに冒険のイロハを教えます』
俺の目の前に、髭をはやした40歳ぐらいの男が現れた。
「オレの名前はトムだ。まずは冒険に必要な基本を教える。しっかり聞くんだぞ。おっと肝心なことを忘れていた。まずはおまえの名前を教えてくれ!」
これがフルダイブ式VRか。
俺は初めてやるが、本当にゲームの中に自分がいるみたいだ。
目の前のトムと名乗ったオヤジは、俺をガン見しながら立っている。
これは俺の返事待ちってことか?
えーと、声で入力するんだっけ。ちょっとテレるな。
「俺の名前は、テンマだ」
「テンマか、良い名前だ! テンマはどんな冒険がしたいんだ? 【イージー】だと生産職にあったクエストが多くなる。【ハード】だと戦闘系のクエストが多いぞ。【ノーマル】は両方のクエストを楽しめるが、その道を極めるなら、イージーかハードがオススメだ! テンマの希望の難易度を教えてくれ」
目の前にドラムロール式セレクトボックスが表示された。
【イージー】
【ノーマル】
【ハード】
【イージー】
【ノーマル】
【ハード】
:
俺はドラムロールをぐるぐる回しながら考える。
どれにするか悩むよな……
俺は素材やアイテムを集めて、キャラや装備を強化していくのが好きだ。
しかもかなりこだわるタイプだ。
だから、普通に考えるなら【ハード】一択。
けど、ずっと格闘ゲームにハマってたから、【イージー】で生産職を極めるってのも興味あるんだよな。
うーん。でもやるからにはガチだ!
俺のゲームに対する姿勢に、中途半端なんて言葉は存在しない!
これでも武器を使って戦う【絶剣乱舞】という格闘ゲームの世界ランカーだった。当然のように世界大会にも出場していた。
……けど、全て過去の話なのだ。
この【アカシックワールド】にプレイヤーが流れてしまい、【絶剣乱舞】のサービスは終了してしまった。
【アカシックワールド】は、一年前に全世界で初のフルダイブ式VRゲームとしてリリースされた。
『最初にゲームをクリアしたプレイヤーには賞金1兆円』
この運営から発表されたニュースは、世界中を騒がせた。
現実離れした報酬に誰しもが笑ったが、すぐにそれが事実だと知ることになった。
突如、世界各国が国家の公式ゲームとして【アカシックワールド】を採用したからだ。
このゲームの背景にある不可解さ、クリア報酬1兆円という前代未聞の金額が話題となり、世界中のガチ勢が集まった。
今では全世界で一番プレイヤー人口の多いゲームといわれている。
さらにこのゲームでは、ゲーム内の通貨が現実のお金に変換できる。
つまり、ゲーム内で現実世界のお金を稼げるのだ。
こんなぶっ飛んだゲームなだけに、アカウントを作るには犯罪防止のため身分証明が必要になる。さらにゲームデータを消したり、複数のデータを使ったりできない仕様になっている。
つまり、このゲームはやり直しができないのだ。
だから、この【イージー】【ノーマル】【ハード】の選択は、超が付くほど重要だった。
――うーん。いろいろ考えていたら10分ぐらい経ってしまったか。
やばい。ミドリと約束した時間に遅れるぞ。
さてと、そろそろ選びますか。
やっぱり【ハード】しかないよな!
ああそうさ。俺は戦闘狂なのだ!!
俺は最後に思いっきりドラムロールを回した。
何か考えがあったわけでもなく、ただ無造作に回しただけ……だったのだが。
クルクルクルクルクル……ピタッ
:
【ノーマル】
【ハード】
【イージー】
【ノーマル】
【リアル】 ◀
――へ? 【リアル】ってなんだ。
というか、これ以上はドラムロールが回らない。
つまり、これはドラムロール式じゃなくて、何万行にもなるリストの一覧が表示されていたってことか!?
そして一番下にあったのが【リアル】。
これは間違いなく隠し設定だろ!
やばい。どうする。
クリア報酬1兆円のゲームで隠し設定を見つけてしまったのか!?
ネットでも【リアル】なんて情報、見たことないぞ!
俺は興奮しながら【リアル】を選択し【OK】をタップする。
すると景色が石造り部屋に変わる。
そしてメッセージが目の前に表示された。
「これよりリアル用のチュートリアルが開始されます。ゲーム内で死ぬとあなたは死にますので気をつけてください。さあ、あなたの【アカシックマーク】を選んでください」
……なんか、さりげなく物騒なこと書かれてなかったか!?
ゲーム内で死ぬとあなたは死ぬとか。
さすが【リアル】。演出がエグすぎる。
たった一言でこんなにドキドキさせるとか反則だろ。
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