俺の難易度が【リアル】な件について ※クリア報酬1兆円、リセット不可能なゲームで隠し設定見つけました。

ヒゲ抜き地蔵

プロローグ

「そこのおまえ。ちょっと待て」


 振り向くと男3人、女2人組のパーティーが俺を呼んでいた。


「何ですか?」


「お兄さん、今そこのガチャ屋でSSR当てたわよね?」


 …………


「とぼけても無駄よ。あなた初心者みたいだから知らないかもしれないけど、あそこのガチャ屋は全てボックスガチャなの。店外の掲示板に何が残っているか表示されているのよ」


 ビキニアーマーを着た赤色の髪をした女が、得意げな顔をしながら俺に説明してくる。


「おまえがガチャした後に、掲示板からSSRのアイテムが消えた。ここまで言えばわかるだろ? つまり、おまえが当てたってことだ」


 どうやら、店内に見張りをおいてガチャするヤツを監視していたようだ。


「さあ、それを俺によこせ。おまえも楽しくゲームしたいだろ? このゲームのデスペナルティはランダムで所持しているアイテムをドロップする。ゲーム始めたばかりのおまえだと、俺達にやられるとどうなる? くっくくくく」


 隣の金属製の鎧を装備した男が口を開く。


「俺達はしつけえぞ。ゲーム始めたばかりのヤツのリスタート地点は決まっているからな、アイテムを手放すまで逃がさねえ。悪いことは言わねえよ。今ならSSRだけで済む。全てのアイテムが無くなると悲惨だぞ。このゲームはリセットできないからな」


 5人はバカ笑いしていた。

 当然、俺は無視して歩き出す。

 そして、俺はこの世界に1つしかないダンジョンへ向かった。


 ◇


 これがダンジョンか……

 俺は地下へ続く階段を降りたはずなのに、その先は洞窟や迷路ではなく、草原や森があった。上を見上げれば天井ではなく空に太陽が見える。完全に屋外だな。


「あんた、本当にバカね。自分からPKプレイヤー殺しができるダンジョンに入るとか、こんなに楽な相手はなかなかいないわよ」


「おっと、もう逃がさねえぞ。さあ、あっちの森の中にでも行こうぜ」


 5人組は俺と出口の間に立っていた。

 そして男の1人が出口と反対側にある森を指差す。


 俺は言われたとおり森へと歩く。

 後ろでは品のない笑い声と、俺がさっきガチャで当てたSSR【ヴァンパイアナイフ】の話が聞こえてくる。

 なんでも相手に与えたダメージ分、自身を回復してくれるらしい。

 武器の耐久力も回復するみたいだ。

 いくら使っても壊れないなんて便利だと思うんだが、男達からすると攻撃力が低いので外れSSRらしい。


「よし。止まれ。……さてと、ヴァンパイアナイフを俺達に渡す気になったか?」


「このゲームって、PKしてもペナルティはないのか?」


 俺は念のため聞いてみた。


「キャハハハハ。この期に及んでビビったみたいね。残念ね。PKを実際に見たプレイヤーが、一度も死なずに王国の兵士へ通報しないかぎりは無罪よ」


 そんな仕様になっているのか。

 良かったよ。バレなければペナルティなしってことね。


 せっかくだから試してみるか。

 俺はヴァンパイアナイフを装備した。

 ナイフは刃も柄も真っ黒だったが、刃の部分は赤い光を放っていた。

 ……カッコイイ。けど、超目立つじゃねえか!


「おっ、やる気みたいだな。これだから良い武器持ってイキがる初心者狩りはたまらねぇ。それじゃあ、まずは1周目いきますかっ!」


 そう言うと男は俺めがけて突っ込んできた。


「さてと何がドロップするかなっと!」


 男は振りかぶった斧を、俺の頭めがけて振り下ろす。

 グサッ……斧は勢いよく地面に突き刺さった。

 そして、少し離れたところに立っていた男の首が落ちる。


「「「「なっ!?」」」」


 4人から驚きの声がもれた。

 男の死体は光のエフェクトに包まれ、ゆっくりと消えた。

 そして薬瓶とブーツとナイフが落ちていた。

 なるほど、プレイヤーが死ぬとこうなるのね。


「な、何がおきた。おまえ何をしやがった!」


「タクヤがやられた? は、早くこいつをやっちゃ——」

 

 女は最後まで叫ぶことは出来ずに光の粒子となって消えた。

 今度はブーツとネックレスと腕輪が落ちていた。


「チーちゃん! なんで、一撃でやられちゃうの? それにこいつの速さ異常だよ。シンさん、早くなんとかして!」


「くそっ、どうなってやがる! 俺達は全員レベル15は超えてんだぞ……」


 また1人、男が光りの粒子となって消える。

 残った男と女の2人組は、何が起きているか理解できずあわてふためく。


「サトミ! 逃げて通報しろ!! こいつを通報するんだ」


 ……それはマズい。

 俺は被害者なんだけど、正当防衛にはならないよな。

 

「な、なんで……なんで足が動かないのよ! まさか……麻痺?」


 なるほど、足を負傷させれば歩けなくなるのか。

 このゲーム、本当によく出来てるよな。

 ちょっと可哀想だけど、これに反省して初心者狩りとか二度とするなよ。

 俺はヴァンパイアナイフで首を攻撃しとどめをさす。


「サトミまで……ふ、ふざけんな。おまえチートだな。運営に通報してやる!」


「俺がチート? 違うぞ。よく見てろよ」


 俺は拾ったナイフに持ち替え、男の胸めがけて投げた。

 ナイフは金属製の鎧に弾かれた。


「どうだ? ゲームを始めたばかりの俺の攻撃だと、おまえのレベルにその装備だとダメージが全く入らないだろ?」


 けどな、【リアル】だとどんなに肉体を鍛えても、刃物を首に直接刺せば死んじゃうんだよ。

 おまえ達の敗因は急所をさらしてたところかな。

 俺は男の背後にまわりこみ、首にヴァンパイアナイフを突き刺す。

 すると光の粒子となって男は消えた。


 さてとドロップ品でも回収するか。

 まさか、ダンジョン最初の戦闘がプレイヤー相手とか……先が思いやられるな。


『そう? テンマらしいわよ。良かったじゃない。アイテムもらえたし』


 ノルン。これは不可抗力。俺は被害者だからな。


 それにな、アイツは俺のことをチートって呼んだけど、俺からしたらおまえらの方がチートなんだよ。


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