side 笠井 蕾②

 失敗した。

 油断した。

 完全に保健室のあの女を軽視していた。

 あの女、笹浦ささうら 詩子しのこは私のラインを超えた。

 絶対に許さない。


 さっき桃花ちゃんと一緒に二人きりで帰ってきた私は、保健室を去り際に実は見てしまっていた桃花ちゃんと保健室のあの女の雰囲気を思い出す。


 あの忌まわしい女が桃花ちゃんに微笑んで馴れ馴れしく手なんか振って。

 桃花ちゃんがそれに堕ちた天使みたいなニヘラとした笑顔を見せて頬を朱に染めていた。



―――許される?そんなの。



 絶対に保健室のあの女も、私の暗示に近い何か、もしくは私と同じ暗示を桃花ちゃんにかけたに違いない。

 じゃなきゃ、桃花ちゃんがあんな反応を見せるわけない。桃花ちゃんが、他の女に色目を使うわけないもん。


 絶対に、絶対に!

 桃花ちゃんは取り返す。

 そして、あの保健室の女に思い知らせるんだ。桃花ちゃんは私の所有物だと。


 そしてやっぱり、仮に暗示をかけられたとは言え、簡単にあの女に靡いた桃花ちゃんにも、もう一度必要がある。

 そう思わない??


 だから私は彼女に言ったのだ。


「明後日の休日、一日私とデートしよ?」


 正直、不安だった。

 あの女に仮に洗脳を施されていたとして、果たして私という所謂他の女と二人きりでお出かけにノッてくれるのか。


「…………ダメ、かな?」

「二人きりでお買い物だよね?い、いいよ」


 デートって言ったのに、お買い物って言い直された。

 傷つかないと言えば嘘になる。

 けれど、今はそれでも良い。

 明後日で、堕とす。完璧に堕とすから。

 どうして明日じゃなくて明後日なのかって?それは、桃花ちゃんを完璧に堕とすための準備をするのに、一日の猶予が必要だから。



◇ ◇ ◇


「てことで、の作戦会議を始めようと思います」

「ぱちぱちー」


 学校の無い休日、私は朝から友人を近くのファミレスに呼び出し、二人きりの作戦会議を始めた。


 カッカッカッカッ!


 そんな友人はタブレットにお絵描きしてる。私の数少ない友人は、イラストや物語、主に創作活動を行ってるんだとか。

 でも詳しくは教えてくれない。

 本人曰く、少し恥ずかしい絵とかも描いてるらしい。


「私、明日のデートは本気で挑みたいの」

「ほーん」カッカッカッ

「だから、何か良い案とか無い?」

「ヤれ」カッカッカッ

「……………」


 一回きちんと、この子とは話をしなければ。

 ファミレスでの作戦会議は、まだ始まったばかり。

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